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「ありがとう」と「ごめんね」のはなし - 2019年のまとめ

気がつけば年の瀬も年の瀬、12月も残すところ、あと3日である。気づかなかった。もう年が明けるのである。まったく気づかなかった。

正直なところ、こんなまとめを書いている余裕などないのだろうが、それでも書こうかなと思ったのは、この文章を読んだからだ。

ギルドチームHuuuuの編集者・友光だんご。1年間近く『ジモコロ』や『BAMP』などのメディアの編集をともに行ってきた彼は、ライター・しんたくにとって最高の編集者であり、また無二の友人でもある(と僕は思っている)。

この1年を振り返る前に、まず少しだけ彼の話をさせてほしい。

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友光だんごはめったに怒らない人だ。負の感情が垣間見えるのは、お腹が空いているときか、ベロンベロンに酔っ払ったときくらいだ。どんな原稿があがってきたとしても、冷静に感情を制御して立ち振る舞うことができる。感情的にならずに、実務をこなすことができる彼のことが正直なところ、とてもうらやましい。

そんな彼があるとき、ポツリと言った。
「しんたくくんは優しいよね」
僕がとある原稿に対して、怒っていたときのことである。

ここで少し補足をさせてもらうと、別にその原稿がひどかったわけではない。よくまとめられているし、誤字・脱字もない。たぶん他の編集者の方ならほぼ直すものなどないだろう。

ただ、ひとつだけ。こんなに面白いのだから、もう少し頑張ればもっと面白くできるはずなのに、と思ってしまったのだ。ライターさんにとって、記事はひとつひとつが大切な財産だし、それは取材を受けてくれた方にとっても同じことだ。記事に関わったすべての人が幸せになるようなものを作りたい。

ところが、実際は修正が増えるにつれて、ライターさんにとっては負担になるし、インタビュイーだって、早く記事を出してほしいに決まっている。そもそも、僕の修正によって素晴らしい記事になるとは限らないのだ。だからこれは僕のエゴにすぎない。そうやって怒りを収めることにいつも必死だった。

そんな話をしていたときに彼は「僕は怒れないからさ」と言ったのだ。

それから数ヶ月の時が経ち、彼の「怒れない」コラムが出たあとのことである。軽く仕事の打ち合わせをしてから、渋谷の日高屋でふたりで一杯だけビールを飲んだ。

一口ジョッキに口をつけたあと、僕は怒らなくてもいいのに、と言った。

だって、彼の怒らなさには本当に助けられてきたのだ。原稿がうまくいかないときも、仕事でミスをしたときも、彼は怒りもせずに、一緒になって考えてくれた。考え込みがちな僕に「ひとりで溺れないで、相談して」と言って。甘えが生まれた、と言えばそうかもしれないが、それ以上に互いを信頼しあうことで生まれたものは大きいと思うのだ。

「怒っても無駄じゃんと思って生きてきたんだけどさ、それだけじゃダメなんだろうね」

店員が足早に餃子を2皿持ってきた。22時以降の食事としては最低レベルに脂っこそうだが、それが最高にビールに合うのだ。

「怒りを出すことで、動く人もいるからさ。優しいだけじゃダメなこともたくさんあるじゃない?」

編集という仕事から一歩身を引いた僕とは対照的に、彼はこの夏から株式会社Huuuuの取締役に就任した。これまでも現場の編集仕事を大量にしてきたが、人を率いるというのは想像以上に難しいことなのかもしれない。

そうかもしれないね、と僕は答えた。その後も彼と一時間ほどまったりと話してその場は終わった。

ただ、怒りというのはドーピングのようなものだ、と僕は思う。時としてすごいエネルギーを発生させるものだけれど、それは一方で自身も、周りの人も、心身ともに大きく消耗させていく。恐怖政治が長くは続かないのと同じように、怒りによって生み出されたものは短期的になってしまいがちだ。

それはこの苗場で働き始めてから気づいたことだ。そう、僕はこの冬から新潟県の苗場という場所でお店の運営を手伝っている。

ある夜、一緒に働いている友人が「しんたくって、めっちゃありがとうって言うよね。それすごくいいと思う」と。

この1年で、「助けてもらっちゃって、ごめん」が、どんどんと「助けてくれてありがとう」に変わっていったという実感はあった。それは編集者として仕事をした経験はもちろんだが、何よりライターとして、編集者たちの「ありがとう」や「いい原稿だね」というポジティブな言葉に勇気付けられたという実感があったからだ。僕の周りの編集者たちはみんな素敵な言葉を使うことができる。

感謝は相手に対する敬意だ。人には必ず得手不得手がある。人生の中において、人に自分の苦手な部分を補ってもらえることはたくさんある。その実感があれば、自然とポジティブな気持ちが生まれる気がするのだ。

本来のコミュニケーションの意味とは相互理解というらしい。そして理解するというのは、他者に敬意を払い、尊重することだと思うのだ。だから「怒り」を感じる瞬間は他者を自分の鏡として見てしまったときなのだと思う。でも自分が全て相手より優れていることなんて、きっとない。だってみんな助け合って生きている。

人生は戦いかもしれないが、自分だけ生き残ったところで、きっとそんなの楽しくない。だったら僕は、僕の大好きな人たちと一緒に生き残りたいのだ。

友光だんごをはじめとして、僕の周りにいる人はみんな素敵な人だ。彼らのおかげで怒りという鎧を下ろすことができた僕は、なんとか楽しくやっている。来年はもっといい年になるといいな。

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最後に若干の蛇足感があるけれど、2019年の制作物をまとめて終わりにしたい。今回はだんごさんの話がメインとなってしまったのですが、関わっていただいた全ての人に感謝しております。みんな大好きです。今年もありがとうございました。いつも原稿遅れていて、すみません。遅筆に付き合ってもらって感謝しかないです、ほんとに。

【執筆】
2019.01
『注ぎ方一つで変わるって本当? 「ビールの伝道師」が語る、美味しいビールの飲み方』
編集:友光だんご
撮影:小林直博

広島に行ったら毎回必ず訪れたいお店、本当に。重富さんは東京に来ることもあるので、みんな一回飲んでみてほしい。

2019.06
『手軽にタイムスリップ!この世界の片隅にある「旧海軍兵学校」を知ってほしい』
編集:友光だんご、くいしん
撮影:小林直博

広島県民でも意外と訪れない江田島の海軍兵学校。かつて東大レベルのエリート学校だったというのも納得するほど、広報の方々が紳士でした。かっこいい。

2019.07
『「うなぎを美味しく食べ続けられるように」養鰻の名手が現場の外で学んだこと』
編集:くいしん
撮影:小林直博

鹿児島ツアーシリーズその1。去年取材した横山さんの1年後のお話。今年も訪れることができて本当に良かった。今回のツアーはバタバタだったので、またゆっくりお話を聞けるといいなあ。

2019.08
『「経費が浮いて、雇用も生まれた」リサイクル率日本一の町の軌跡』
編集:くいしん
撮影:小林直博

鹿児島ツアーシリーズその2。すごくたくさんの人に読んでもらったみたいなので、シンプルにうれしい。鹿児島の人って独特の力があって面白い。

2019.09
『「面倒くさい会議」をイラストの力でハッピーにした会社員』
撮影・編集:友光だんご

個人的には今年一番の記事。人生を楽しむ方法を教えてもらった気がします。とりあえずみんなも絵を描いてみよう! 大丈夫、僕も全然描けないけど、楽しんでるから。

2019.11
『中央線のエアポケット「西荻窪」から考える東京の住みたい街』
編集:友光だんご
協力:くいしん、横田大

取材が一番楽しかった記事はこれ。街の歴史はやっぱり面白いし、俯瞰的な視点が最高でした。やっぱり西荻窪は歩いてて楽しい街。

2019.11
「知らない人写真集」問題から考えるローカルメディアの難しさ 【Gyoppy! 1周年座談会】
撮影:黒羽政士
編集:Huuuu

ローカル取材記事の難しさはこの一年で切実に感じていたので、書いていてわかりみが深い記事でした。Gyoppy!編集部は本当にいいチームだなあとか思って見てたりします。

【構成】
2019.04
『「うどんのコシは硬さじゃない」香川の製麺所で”カスタムうどん”を作ったら衝撃の事実だらけだった』
文:徳谷柿次郎
撮影:藤原慶

柿次郎さんの突撃取材シリーズ。現場にいなかったのに、その場の風景が浮かぶような取材音源でした。香川でうどん食いてえ。

2019.10
「突然、家に銀鮭が。30代男性の魚捌き初体験」
文:徳谷柿次郎
編集:くいしん
撮影:小林直博

たまたま長野にいるタイミングのネタだったので、現場に立ち会って、必死に iPhoneのカメラで動画を撮ってました。ちなみに、この鮭めちゃくちゃ美味しかったです。

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ということで以上です。
来年もどうぞよろしく。ちゃんと仕事しますので...たぶん。

あと苗場に遊びにきてくれたら、泣いて喜びます。面白い人ばっかりなので、みんな来てね!

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