「烏有にきす」
いくつかの旅のおわりを見送れりきみの呼び名だけ烏有にきす
ぶら下がり吉川線のないタオル生乾きのまま夜をむかえる
目はうつろう何かつくろうとするうちは網膜に雨、水晶体に風
決めつけるな give me pretender おとのしない場所で会いましょう
おれたち、生きるため目が覚めるわけじゃない 高架下の赤い衣擦れ
ツーブロックにわかれわかれてアパートの鍵はさびつきがきれいですね
ルービックキューブのようにしなだれていたいものすら黄緑に赤
踊りたいと悲鳴をあげし大腿骨尾骨恥骨遅刻の連絡を
やわらかくひとを殺したような目でいま凪いでいるこころは西へ
深読みに灼けたページの裏側へあぶりだされるきみのイニシャル
狐と狸の嫁入り道中がかちかちあって山は笑えり
クエンティン・タランティーノに似たひととコーヒーを啜る路地裏の影
無重力宙ぶらりんな気分にて朝は暮れぬるあけぬドアの前
往々にして人生をかたるとき、わたしのかけた前歯をおもう
うつくしくただれたままのきみの手をとります鴨川にクラリネット
鳥ならば鳥らしい顔をしていなよ 東山には打擲のあと
ゴミのように放り投げられたい遠くまで誰かの方位磁針のうえで
咲いたとおもっていた花が枯れている小指の爪が伸びてしまった
生き死にの飛び石、かろやかにわたる 足を踏み外す高揚感
七歩もそうしょくもいらない満艦飾のベイビー、きみがおもいだせない
生きていることが苛むあいらぶゆーひとつ残してつないだ手とて
荒地やさかいなく遠くしたを向き走りつづけて子どもの晩年
いつだって雨の気配をつれてくるひとだった柔軟剤切れり
1700円牛タンに味がつかぬ午後、サランラップの休暇の果てに
一匹の蠅を並んで酒をのむ矯正視力0.08
自転車にひかれるくらい大きめのウソをつきたい車道にて
ちょっとばかし頭がおかしいのでときどきとんでもない接合をとります
夕暮れへゆれながらまっすぐ落ちてゆくわたしの左手あなたの右脚
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