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「オンライン・ポエトリー・ナイトフライト」感想


■高橋紘介『水底の泥のように静かに』

文脈や音韻の連結、畳みかけ方がとても上手。
いわゆる「細い攻めがつながっている」。
派手なオリジナリティであったり、
わかりやすいカタルシスとはちがった地平で、
その地力で勝負以上のことができている。
毎月たのしみな詩人です。
欲を言えば、一度、うしろに環境音なりノイズなり、
なにかしら音をあわせて聴いてみたい。
自分のフィールドでないところで観たいというか。


■サンシ・モン【ポストのきもち~Hey,Mr.Postingman~】

戦後まもないころ「サンドイッチマン」を
やりだしたのが、海軍大将のご子息だった、という
余話をおもいだしました。それは措いといて。
非常にわかりやすい構成と詠み口で、
詩初心者から古参までそれぞれにたのしみどころがあるとおもいました。
ただ、ふたつの隠喩的な地平が最後に着地点の軽重のバランスに性急さがあったというか、
力で収束させてしまった感はあったかなと。


■遠藤ヒツジ「継承」

詩人の立場から韻へのアプローチをとってくる、
細かい部分の意味と空気の混ぜ方、分け方はよかったなとおもいました。
ただ、個人的には、「詩人」が(アートフォームとしての)ラップへ踏み入れるのか、
それを隣席に見遣りつつセルフボーストするのか、
詩とラップという二重構造にガチで分け入るのか、
あたりがもそっと明確だと芯が通るというか、
作品の強度が増すのではないかなという印象です。


■しき「O'Hala」

冒頭ですでに準決勝進出レベル。
オハラ(これは彼女とアイルランドとの関係性にも拠るけれど、知らなくても「風と共に去りぬ」は連想できる…よね?)と大原をかけて、そこからの展開が地道ながら滋味ある流れ。
スカーレットは黄味がかった赤色で、
じいちゃんがなんでもくれてからの現況報告は
「くれない」を想起させ、ここも上手い。「お」であり、
「この腕のなかには他人の子どもが抱かれている」
「三点セパレート」の対比であったり。
個人的にはヒル・オブ・タラ的な約束めいた陰翳を
まぜてもおもしろいようにもおもった。


■素潜り旬『イラストレーション閑古鳥』

カオリンタウミと相撲をとらせたらどうなったかしら。
詩、あるいは言語表現をひとつのよすがとした
作品として、こういうアプローチはありだとおもう。
ただ、パンチライン型の素潜りとしては
作者贅言で終わってしまったというか、
これはこれで4分くらいに肉付けしたのが観たいなあという感想です。
本文にいくまえに勝負が終わっちゃったかんじ。


■テツ「マサチューセッツの洞穴」

「見えていれば~」の叩きからの展開、不穏のなかに
栞のように9.11やマトリックス、Dumb Type(古橋悌ニか)からマルコヴィッチまで(これはあくまでぼくが勝手に連想したまで)
が挟み込まれて、そして、ここにドラマがないことが凄まじい。
毎日青汁飲んでる人には絶対に聴かせてはいけない詩だけど、
根底にあるのは揶揄や皮肉ではなく、
千切れ千切れの心身でも生きているという表象だ。
だから、ぼくはこの作品を信用します。


■待子あかね「時計」

発語、息の継ぎ方、離し方、そこは待子ワールドで、
それが成立しているからこそ、「あしたになったら~」
といった「転」があると映えますね。
対象と自己との距離感のつくりかた、感じ方が
とてもスマートなのも彼女の上手なところであって、
そのうえでどこか不吉(肯定的な意味で、たとえば”幸薄そうな切れ味、横顔や後ろ姿のうつくしさ”とか)なのは芸だな、と感じます。


■TASKE「イチジク1:09」

1分09秒かとおもったらそうではなくて、はいいとして。
TASKEさんの言葉運びは非常にオリジナリティが強いし、
緩急、強弱のつきかたも顕著なので、
ナレ、芝居系とは真逆の意味で聴きやすいのだけど、
どこかで滑舌や押韻に拘泥しがちな部分はあるのかな、とおもう。
これはぼくがこの1年で3回構文障害を発症して感じたことで、
あくまで自分視点ゆえ、的外れならごめんなさい。
でも票田をローラーで均していくようなスタイルで、
じゅうぶん重厚と軽妙のバランスがとれるのではないかしら。
一度「なんでもないTASKEさん」が聴いてみたい。
とはいえ「寒中」「甲冑」~からの流れとかはさすがである。


■川原寝太郎《十字路にて》

テーマを使いこなすことに定評のある詩人で、
映像性、空気、ガジェットの遣い方が上手い。
ある意味ではゼロ100をはじめとした対比や距離感によって
紡いでいくタイプなので、そのなかでのやりくり、
剣道でいうなら一本より蹲踞のうつくしさだったり、
残心だったりが通ると「やはり(すき)」ってかんじになる。
良作だとおもうんだけど、これは10曲入りアルバムの
4曲目かなあ。


■よ~かん『マッチ売りの少女』

「かっぱかっぱらった」調から入って、
マッチ売りとマッチング(?)をかぶせているような余白もおもしろい。
ただ、この踏み方だと押韻や地口というよりは
クロスワードパズル的なオヤジギャグになりかねないので、
道中にギミック(外し)があるといいのではないかな、と。
否定的な意味でなく、2000年代前半に詩人が
ラップやスポークン・ワーズのアートフォームに
関与しようとしたらこうなる、という記憶が呼び起こされて、
そういう意味でとても懐かしくはありました。


■みっしゃん「きれいなものになりたい」

言語反射神経がどんどんよくなっている、というよりは
回を追うごとに積んでいたものが顕在化してきてるのだとおもう。
ただ、個人的な感覚でいうと、彼女自身がよいと、
すてきだとおもうような詩やリーディングというものを
6割以上理解していても、運用するうえでは
まだ2割くらいにしか届いていないがゆえのちぐはぐ、が
あるのかなという気がする。
幹と枝葉の問題なので、優先順位をつけてみてはどうだろう。


■もとざわ「タイム・ゴーズ・バイ」

通底する自分のタイム感はあるし、
朗読のスキルとしても過不足はない。
ただ、テキストをそこに当てはめてしまったきらいがある。
いいな、とおもうラインはあるけど、
どこか踊らされているというか、
付き出しのままで終わってしまったように感じて、
そこは閉店時間が迫っていたって、
余白や行間やイメージでもって
居座ろうぜ、などとおもいました。
もうちょっとわがままでもすてきかなあ。

    




  



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