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「NO MUSIC」

音楽をひとつ殺したあと地べたに溜まるわが血を薄目で見やる
 
意味ですらありやなしやの地平からとおくはなれた斜陽のかげり
 
ふみちがえこの夏を終えしディストーション、アパルトマンに恋人の声
 
突き指をしたことはちゃんと認めます 右から順にそこへ並んで
 
 
 
もしかしてあっさり死ぬということを希求せりわれたグラスのふちで
 
完璧な朝、不都合な夜だけがまちまちに立つ詩人の葬列
 
わたしは名も知らぬ誰かのくちから吐かれた一編の血でありたい
 
夢だけが真綿のようにくびをしめそれでもなお同衾の後朝
 
 
 
明け方のみちはしずかに沈みきてとるもとらぬも泡沫の恋
 
生活とはぐれた猫の目をしおり赤茶けた背に星の降りぬる
 
コンマ数秒で息をころすことができますこれはそんな病気です
 
つるほどの首のないまま朝ぼらけわたしはすこしおなかがすいたよ
 
 
 
噛みつけば肉の厚みは感じれど血の味のなき秋の行間
 
つきはてたただ燐寸棒のようにたつ日々はやさしく他人行儀に
 
かんじょうせんなぞってまわれ星々よ左手首にちいさな黒子
 
かいつまんではなすととたん落ちるやねクレソンの青やけにまぶしく
 
 
 
くちよりもてよりもはやくあいにいきたいの中央線の困り顔
 
意味ならば灰皿の上捨ててきた燃えはせずともしけりもせずに
 
死ぬ前にわらび餅を食べるきみの約四十回目の誕生日
 
ことばと相撲をとることばはするりと土俵を割りぼくは取り残される
 
 
 
安っぽい鮭とはいえどさけであるプラ容器の大きさにおどろく
 
暁闇に組みつほぐれつ相矢倉愛はぐらぐら あ、負けました
 
ひさかたの光のどけき春のヒンズースクワット割れ窓に蓋
 
暮れ落ちる日を脱ぎ捨てて君の町までテールライトの明滅を追う




霜月尽くほとびた橋のたもとからわたしは西へきみは東へ
 
甘酸っぱくもないくちびるのさかむけた白みのうちに夜は明けぬる
 
丁半のぞろ目にそって旅へ出るエンドロールのやけに遠けり
 
くつがえす口を結わえし靴紐の苦痛をひとつ、ふたつ打つあめ

 
 
数日後きみが死んだと聞かされて踊っていたい涙のように
 
わたしはすこし開店休業の気があります木屋町の星に問う
 
浮世を練りつぶし煮てみたならば用事流るる火曜日の朝
 
絶望にもうすこしやわい名前をつけてやりたいスナック菓子も



    

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