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"choir"voice.7「歌が必要だ」

"choir"voice.7「歌が必要だ」
act:work from tomorrow / パウンチホイール / ステレオタイプ

タイトルはパウンチホイール「リアル」サビの歌詞から。
余談ながら、パウンチはなんとアルバムタイトルにぼくの楽曲「あたらしい世界じゃなくても」を使ってくれて(厳密には畏友・谷竜一の詩のカヴァー)、数年ごしでの恩返し(?)みたくなりました。

この3組、はっきり親和性高そうなのに意外や意外、
これまでほぼ一緒になったことがなく、
ならばわたしが組むしかない!と謎の使命感にかられたところ、
びっくりするくらいスムーズに全組決まるチートデイ。
とくにパウンチは「出ますー!っていうかもうこないだの大阪ライブで
告知しちゃった。笑」という先輩かわいいな感。
お客さんも、バンドマンとライブハウスラヴァ―率高っ!っておもったくらい、知った顔が多く、でも悪い意味の身内感がなかったのは、とにかくいっぱい来てくれたから。


◆ステレオタイプ
平均年齢40.5歳という、年齢もメンバー各自の経歴も堂々たるベテランなのに、そんじょそこらの学生より青い春を運んでくる稀有なバンド。
もともとのステレオタイプからはvo/gtたくちゃん(タカハシタクマ)以外
構成は変わっているけど、その描き出す景色や手ざわりになんのちがいもない。
とはいえ、キャリア相応に出音もぶっとくなって、切れ味も、果物ナイフで世界を切り分けようとしていた時期とくらべると、いまは大刀ってかんじです。水滸伝なら関勝。
ひとことでいえば「スマパンがスピッツ演ってる」。

1曲目「世界の続き」はそもそも大名曲だけど、
これを頭にもってくるセンスにしびれた。
そう、"choir"と冠しているけれどシリーズものとしての括りや縛りはなくて、あくまでその一夜は一夜なのですが、ああ、確実に続いているな、とじんわりくる。
また「春ノ風」「ライフイズビューティフル」といった比較的初期からの曲をふくめ、アレンジ面ではけっこう大胆に手が加えられていて、
それは鍵盤抜きの編成になったことや、メンバー自体の変遷による個性の表出も多分にあるけれど、ステタイの現在地として、とてもうつくしくおもった。

板の上でも、りょーぎと堀さんのツインタワーが壮観で、
そこに挟まれたたくちゃんが力負けしない。
そしてジョニーさんのいやらしく痒いところに手がとどくドラム(ちょう誉め言葉)が全体の熱量をコントロールして「作品」に昇華する。

たくちゃんの主人公属性は相当なもので、
たとうるなら、飛びぬけた取柄はないけど諦めないことで場を動かす高校生。
りょーぎはその悪友。堀さんはマイペースな年上の転校生。
ジョニーさんは彼らの物語を陰からニヤニヤしながら見守ってる担任教師。
(細かすぎて伝わりきらないことを確信しています)
そして、まこっさんの「付オペか!」とおもうくらいのナイス照明プレイ。
フロアはのっけからめっちゃぶち上がった。

なにより、会場入りしたとき「なんかみんな疲れてるな。齢かな」とおもったら、
「スタジオ入ってからチャリで来た」っていう、おいおいおい。
ベテラン高校……いや中学生だとおもいます。
愛してる!

◆work from tomorrow
春秋はだいたいワーフロトレーナーを着ていることに定評があるchoriですが、
元ドラムの円香とはいま一緒に「生きる」というバンドをやっており、
ベースいっせーは(現在活動休止中だけど)「浮かむ瀬」に勧誘し、
慧がこないだ結婚式を挙げたときに詩を贈ったほどすきです。
ちょっと深情けなんじゃないかとおもうけど、すきなものはすきだしすてきだ。
しかも今回はサポートドラムに(なぜか東京から)まきお。
harbor、the 90sなどいろいろ観てきて、もう10年以上になる。
判明したときにはおもわず鼻血が出た。
そして鍵盤も加えた4人編成。

たくちゃんに負けず劣らず、慧も主人公属性の持ち主で。
ただ、たくちゃんが集英社系なら、慧は小学館系というかんじ。
(ふたたび細かすぎて以下略)
この編成は初見だけど、おどろいたのは、
いっせーとまきおのリズム隊のなじみのよさ。
2人とも、いい意味で神経質というか、
「いってこーい!どーん!」ができない、したがらないタイプで、
ふつうそういうベースとドラムって小さくまとまっちゃいがち。
ましてやまきおは正式メンバーじゃないので。
ところが、そこが謎の化学反応を起こしていて、
常に「あぶなげなく判定勝ち」になっていた。
そしてそこに慧のキャラクタががっちりのっかり軸となり、
鍵盤コーラスも飛び道具に徹するかたちが超絶ハマっていた。

セットリストは近年の曲メインだったけど、
最後に「星に願いを」を配したのは巧かったなあ。
立ち居振る舞いというか、意識がインディーズのそれじゃない。
そりゃ、これだけ観に行きたいってひとが来るわと。

余談ながら、終演後、慧のお母さん(ご来場されてた)に
丁寧なご挨拶をいただき恐縮でした。
元メンバー円香のお母さんもしょっちゅう娘のライブ観に来られるし、
ワーフロというバンドはかくて陶冶されたのだな……というか、
ほんとに10割いい意味で育ちがいいというか、
たとい曲がるともわかりやすくまっすぐ曲がるんだろうな、
へんに澱んだりしないんだろうな、っておもった。
(育ちのいいぼくが言うのだから間違いないです、きっと。てへっ)
とっくにあなたたちは、いろいろな誰かのヒーローですよ。
もちろん、ぼくにとっても!

◆パウンチホイール
世に出た当初はツインギター、ベース、ドラムス、鍵盤という
しごく王道のロックバンド形態だったパウンチも長年のあいだに遷移して、
いまは4人アコースティックバンドに。
今回はベース岸部さんが欠席だったのでさらにアコースティックかな、と想像しつつ、でもやっぱり今夜は彼らにトリをとってほしい、と。

ぼくとパウンチホイールの出会いは約20年前、偶然、先輩詩人と青木さんがバイト先の同僚で(先輩詩人といっても詩のスラム日本代表でパリの世界大会に出場した石渡紀美さんというすごいひと)
「ちょり好きそうだから聴いてみて」と音源をもらったところ、
心臓をぶち抜かれて、おもわず高校生のぼくは手紙を書いたんです。まだそういう時代。
「この『ひとみちゃん』って曲の歌詞とコードを教えてもらえませんか?」
そしたら、青木さんからものすごく丁寧なお返事があって、いつか絶対に対バンしたい!と念じていたところ、その10年後くらいに旧VOXhallで実現して、エモくなりすぎたあげく、打ち上げで弾けないギターで「ひとみちゃん」をご本人のまえで熱唱したという、すこし、いや、だいぶアレな歴史があったりします。

"choir"はchoriのアナグラムだけれど、「合唱」という意味で、
まさにパウンチホイールは合唱部出身メンバーなのに、
青木さんがそれをいっさいわかってなかった(MCにて)のはほっこり。

筆が滑りすぎました。
かんじんのライブは、なんていうか、もう、第三者的な評ができない。
パウンチもステタイとおなじく、オリジナルメンバーは青木さんと岸部さんだけなので、
現編成でのセットとおもっていたら、1曲目がまさかの「リアル」。
そう、冒頭でふれた、このイベントタイトルとした歌詞の曲です。
それを知っていたお客さんはいなかったかもしれないけど、
またしてもフロアはぶち上がり、完全に初見のバンドマンたちが
拳を突き上げていたのに(この夜、スタンディングでもけっこうパツパツで、ぼくはずっと最前列にいましたが空気でわかる)涙出た。

現編成パウンチのこゆきさん、ほんなつちゃんもすばらしかった。
鉄琴やピアニカ、タンバリンにトライアングルなど、
演奏パートは飛び道具なんだけど、「全員歌う」(※岸部さんも超絶セクシー低音ボイス)っていう意味性がほんとに的を射ている表現。
個人的には、キラキラしたギターロックだった時代(編成)だいすきだけど、いやいやいや!これは余裕以上でバンドと互する分厚さと奥行があった。
1曲1曲がわりと短い(3分台くらい)のと、MCまわしなどふくめて、
最高級の敬意をもって「音楽ってエンターテインメントだ」と再実感させられました。
もちろん、そこには大きな樹のちいさな独り言みたいなものがあって、
ただ「ウェーイ!」じゃない、まっとうな、まっすぐな、それでいてちょっとひねくれていて、
でも最後にはあなたを救うよ、っていう意思がみえた。

脱帽です!シューマンかよ!
「歌がうまい」ってことにぼくは正直そんな興味はない。
うまいひとはすごいなあ、と素直に感嘆するけど、
興味があるのはこの超リアルな日常をどう調理してデリバリーするか。
そのなかで武器としての歌、っていうのが冴えわたっていた。
歌が目的になってほしくはない。
あくまで歌は手段。ソングラインも、歌垣も。
伝わらなければなんの意味もない。
どんな鋭利な名刀でも切れなきゃ話にならない。
めちゃくちゃいい夜でした。

最後に、青木さんのアコギでのミュートピッキングまじかっこよすぎたっす。

ぼくらには、とまでいうつもりはないけど、
ぼくには、そしてもしかしたらあなたにも、
やっぱり、歌が必要だ。


※なるべく自分のブッキング日の感想は書こうとおもいますが、
常にできるかは確約できないので、そこはご海容くださいー。

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