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「ポエトリー・ナイトフライト」第3回

「ハ、ハ、ヒ……フロム京都、トゥ・エブリウェア、ポエトリー・ナイトフライト、ようこそ、ごきげんよう、調子どう?」前日に3枠キャンセルが出て「ファッ菌!」「自粛ってなんや自粛って!」と怒り心頭……滅却すれば火もまた涼し。快川和尚、あんたいいこと言ってくれたぜ。でも詩人は強かった。当日2枠エントリーがあり10/9のほぼフル枠で開催。そんな第3回。今回もオープンマイクの感想を書きます。

 そのまえに、今回のスラムの結果は、1位:斎藤木馬(フロム関東!)、2位:線描、3位:川島むー、4位:河野宏子、5位:ミズノミカ(フロム名古屋!)でした。


【オープンマイク】

1.川原寝太郎→Miles Davis「Chocolate Chip」をオケに「/」。おどろいたことにこれがはまりにはまっていた。スモーキーでルーディな音像を生真面目な詩が勝手に引き締め、そのせいで音楽的にはおもしろみが薄れているのだけれど、吸収魔法みたく詩のうまみがぐんと上がった。このひとはほんとうによく考えるし訓練する。ベテランにして見習いたい姿勢だし、だからこそ20年近く第一線でやってこれたのだとおもう。尊敬。

2.はったみさと→「しょうじさん」という詩。「楡家の人々」や「火宅の人」をすこしおもいだす。パーソナルな強度と前回書いたけれど、それが炸裂していて、けれど口当たりはやわらかく、最後にすこし毒味が残る。語弊を恐れず言うなら、ファッションでない、筋金入りの強い、もう戻らないオタクなんだとおもう。こういうひとはこれまで関西のリーディング・シーンにほとんどいなかった。

3.アビス→「鬱です」と言って短歌20首。どうしたって短歌というのはワンセンテンスなので、仮に2回朗読してもステージとしての文脈をつくるのがむずかしい。ただ似たようなテーマを集めればよいわけではない(とぼくはおもう)。そのあたりをどうとらえるかかしら。それと、生きるとか死ぬとか言ってるうちは詩人にはなれないよ、昔先輩に言われたのをおもいだした。でもアビスくんはいまそういうこと言うべき時期なんだろう、きっと。

4.浦世羊島→性愛×ソネットというまた難解な縛りプレイをぶちこんできたPNFの長老(※親父よりずんと年上)。話し方に、所作に、ちょっと田中宏輔さんの顔が浮かぶ。それはそれとして、テキスト自体はそこそこどぎつく湿っているのに、彼が詠むとふしぎとあっけらかんと乾いて聞こえるのがはたして善悪いずれかがちょっとまだ判断がつかない。もしかしたらそれもふくめての浦世羊島なのかしら。

5.FJひねくれもん→「オープンマイクの5分」に賭けてるかんじがすごくあって、それが緊張につながってしまっているのかなあ。たとえば月イチで30分……は難しくても15分のライブをすればステージへの認識が変わってくる部分はあるとおもう。相変わらず正統派のリリックまわし、デリバリー、よいオケという要素は揃っているので、ここを全国大会の決勝みたいにおもってほしくない。練習試合です。

6.河野宏子→「スラムだと(時間的に)宣伝できないのでこっちで告知します!」という裏技を発揮した大阪の女帝。河野さんは総合力の高い朗読詩人だ。反面、たとえば詩が、声が、キャラが、なにかが突出しているというわけではなくって、それはきっと本人もわかりつつ、それでも「あえて三間に振ります!」みたいな(すいません将棋の話です)姿勢を貫いてきたひとでもある。卑屈に、自虐的にならず、もっと女帝感出してオラオラすれば本人も周囲もたのしかろう、と言い訳の仕方がうまくなったぼくはおもう。

7.三刀月ユキ→ラジオのような、ナショナルジオグラフィックのナレーションのような。途中途中でBGMが入り、5分間のショートトリップという印象で、構造としてはとてもよかった。ただ、これだけつくりこんでいると、もうすこしパンチラインがないと雰囲気だけに沈んでしまう。器用ではないけど手広いひとだな、と感じたこともあり、また、初出場だったので次回以降も観てみたいです。

8.斎藤木馬→本人いわく「よたばな詩」これすなわち話芸でした。別に言ってる内容がおもしろいか、鮮烈かといわれればそうではないのだけれど、発声や立ち姿、「型」としての芸の基礎体力がきっちりしてるので、パフォーマンスとしてとてもよかった。渋い。渋いのに同様のステージだったスラムで優勝したのもむべなるかな、である。残念ながら関東在住のため来月のチャンピオンステージはたぶんお休み。

9.ZAREX→当日エントリー。即興でぶちかましてくれた。川原寝太郎やぼくのイベント名や詩を引っ張ってきたこととは関係なく、今このときに鳴らされるべきことばが鳴っていたとおもう。そういう意味で個人的にこれがスラムなら文句なしのchori賞でした。ただ、マイクの持ち方がグリル下部を囲ういわゆるラッパー持ちなので、そこは一考の余地ありかも。能ある鷹は爪を隠しながらノンアルコールで客席にいるもんだな、とおもった。

10.川島むー→むーさんも河野さんとは違う意味で総合力が高い。そのうえで更年期障害とか舞台がコロナで飛んだとか、舞台と客席が近いわけではないけど客席を舞台に引き寄せようとする。ああ、鰹節だ!してみると河野さんは昆布か。なるほどわかった。勝手に。さておき、むーさんの絶妙なバランス感覚はやはり通底している。振って落とす、引いてから押す。ちょっとそこがきれいすぎて、若手なら「もうちょっとやんちゃせいや」と言うのだけれど、なにぶんベテランだからたどりついたこれが正解なのかもしれない。難しい。


 以上、オープンマイク感想でした。来月から「ポエトリー・ナイトフライト」は第2クールに突入します。あそぼうぜ。


 

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