質問の先

 午前中に家を出て、三条大橋の『てもみん』に行った。自慢じゃないけど人生ではじめてのマッサージ店行である。ぼくは「せっかくお金や時間を使うなら」的思考が大嫌い人間だが、せっかく身体をさわられるなら、と、なるべく女性スタッフの多そうなところを探して、万が一の場合は「男のひとにはちょっと嫌な思い出があって……」とお願いしようと考えていたものの杞憂だった。つかなくてもいい嘘をつかなくてよかった。

 家族連れでにぎわうカプリチョーザでカルボナーラを食べる。ランチビュッフェだったのでオクラと水菜を親の仇のごとく皿のうえにひとつ積んでは……あ、ドレッシングと一緒になんか混ざった。たばこが吸いたいのでからふね屋に行く。カフェオレが来るまえにぼくのあとに入ったオーダーのパスタが後ろの席に運ばれてきたため、おずおずと「通ってますか」「あ、はい、通ってます」その1分後にカフェオレが到着し、からふね屋の本気を見た気がした。申し訳ないのでおかわりも頼んだ。

 15時から打ち合わせ兼下見1件。この場合、「1件」も「1軒」もどちらも間違っていないような気がするし、「兼下見」は吉田兼見のことおもいだす。まあ些事じゃ些事。その後、前田珈琲の御池店にはじめて入る。テラス席しか空いていなかったが、いいんですぼくはたばこが吸いたいのです、と自分をやわらかく撫でてやったら外は意外とあたたかく、シナモンミルクティーはやっぱりここの味だった。高校時代、仲良かった彼女のお母さんの手料理についてくらいには語れる、前田珈琲の味。


 nanoでGOING UNDER GROUNDを観る。正確には、途中まで観た。どうもこれだとぼくの物語に彼らの物語がへんなかたちで連結してしまうかもしれない、とおもったのだ。これがMUSEでのイベント、であるとか、まるっきりはじめまして状態のnano、とか、むしろGUGが完全に馴染んだnanoであったならちがったかもしれない。もちろん共演ならなおさらだ。ともあれ、これらはそのとき頭で考えたことではない。本能が「なんかあかん」と言うので、退出。残念というより申し訳ないという気持ちが先立つのがふしぎ。12日ぶりにのんだビールは1杯乾しきれなかった。

 もうすこし言語化すると、あのまま最後までいて、あの空気と距離感なら素生さんに挨拶くらいできたかもしれない。もぐらさんが「こいつ詩人なんすよ」なんつって「え、詩人なんだ!」「実はCD持ってきてます」みたいな流れまではだいたいイメージできていた。きっと興味を持ってもらえるだろうな、ということも。ただ、ぼくの松本素生はもうちょっと個人的なヒーローなので、ホームとするハコで、お客さんの顔をして出会いたくなかった。まあそれなら観るだけ観てさくっと帰ればいいじゃんとも言う。自分、不器用だもんで。かくてGUGはまだぼくと交差していない。賀すべし弔すべし。


 家に帰ってサンドウィッチをつくって食べた。玄米食パンにマヨネーズとからしをたっぷり塗って、有機なんちゃらのハムとチェダーチーズを挟む、非常にダブルスタンダードな三枚切りである。コーヒーが飲みたくなって、お湯を沸かしているあいだ、ぼくもまた誰かのヒーローだったのだろうか、と自問した。

 その質問の先にまだぼくはいない。



 

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