定款を知るバックオフィスは会社法の夢を見るか ~定款とおして会社法をチラ見しよう~
バックオフィス地位向上委員会(仮)のukakです。会員はまだいません。
私は、経理メインで労務や総務や経営企画っぽいことをやっていたら、いつの間にか取締役(監査等委員)になっていたバックオフィスゼネラリストです。
今年もSOU-MU部 Advent Calendar 2023に参加してます。
はじめに
バックオフィスは、以下のような多岐にわたる業務があり、組織全体のスムーズな運営や業務プロセスの効率向上に寄与しています。
経理財務
人事・労務管理
施設・オフィス管理
法務サポート
総務業務全般(社内の諸手続き、会議の運営、社内イベントの企画・実施、社内規定の整備など)
情報管理
業務効率・コミュニケーション効率の向上
経営陣・上層部のサポート など
これらの業務は、企業全体に大きな影響を与え、企業の基盤を支える役割を果たしています。
そのため、業務に対する基本的な姿勢として、コンプライアンス(法令遵守)の意識が重要となります。
バックオフィスは、このように全社的に影響を与える業務を担い、企業の基盤を支える役割であるため、業務にあたる基本的な姿勢として、コンプライアンス(法令遵守)の意識が重要になります。
事業活動に関連する法例は数多くありますが、特に企業にとって重要な法令といえば、企業の組織や運営に関するルールを定めた「会社法」です。
会社法は、企業の適法な運営と組織の安定性を確保するための基本的なルールを定めています。
私は、企業の取締役(監査等委員)を務めています。
監査等委員というのは、会社法に基づいた身分で、取締役の職務の監査をメインで行う取締役のことです。
監査等委員の活動内容や業務範囲は、会社法によって支えられたり制限を受けたりします。
職務上、企業のバックオフィスに資料提供や報告を依頼したり、また前述のような担当業務について監査する機会も多くあります。
そのため、バックオフィスの皆さんが会社法の知識を知っていることは非常に重要です。
バックオフィスとしてレベルアップするためにも、会社法の知識は役立ちます。
この記事を通じて、会社法に興味を持っていただき、企業のバックオフィスの方々とのコミュニケーションがより円滑になることを期待しています。
会社法とは
会社法は、企業が設立・運営される際の法的な基準や原則を定めた法令です。
その目的は、企業の合法的かつ健全な運営を保障し、社会全体の信頼性と透明性を向上させることです。
会社法は、企業が社会との信頼関係を築き、公正かつ持続可能な運営を行うための法的な基盤を提供しています。
会社法は、以下のような構成になっています。
これら全部を知るのは難しいですが、とりあえず、株式会社の設立から運営、再編、解散にいたるまでさまざまな局面で適用される「第二編 株式会社」に注目してみることをお勧めします。
ただし「第二編 株式会社」においても以下のように多くの章があり、その中にはさらに多くの条文が含まれています。
会社法全体の条数のうち半分ほどが、この編に充てられています。
ですので、初めて会社法に触れるなら、企業のあり方を明確化する重要な文書である「定款」とそれに関連する部分に焦点を当ててみるのが良いでしょう。
これによって、会社法の基本に触れると同時に、企業の運営における具体的な事項にも理解が深まります。
定款とは
定款は、企業が設立される際に必ず策定される文書で、どの会社でも保管されているはずです。
是非見つけて読んでみてください。
定款は、その企業の運営や管理に関する基本的なルールを定めたもので、会社法に基づいて作成されます。
企業にとって最初に作成される規程といえます。
定款によって定められる事項には、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」という分類があり、それぞれ以下のような内容を取り決めます。
絶対的記載事項
定款作成時に必ず記載しなければならない事項です。
商号(会社名)
目的(事業内容)
本店の所在地
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
発起人の氏名または名称及び住所
発行可能株式総数
相対的記載事項
必ずしも記載が必要ではありませんが、記載することで法的効力が発生する事項で、以下が該当します。
公告の方法
株券を発行する旨の定め
株式の譲渡制限
株主名簿管理人の設置
株主総会決議の定足数等の変更に関する事項
現物出資に関する事項
取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、委員会、代表取締役の設置
取締役任期の短縮・伸張
取締役会の招集通知の期間の短縮に関する事項 など
任意的記載事項
定款以外の規程類で定めることも可能ですが、定款に記載することで簡単に変更できないようにしている事項で、以下のようなものがあります。
役員の員数
役員報酬の決定方法
事業年度
定時株主総会の招集時期に関する事項
配当に関する事項 など
どの企業でも定款はカギを握る文書で、その内容を理解することは、会社の仕組みを知る手がかりとなります。
定款と会社法の関連について
まず、定款は企業が設立される際に、会社法に基づき必ず作成することが求められる文書です。
そして、定款の中身を変更するには、株主総会での特別決議が必要です。
特別決議は、株主総会で議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の2/3以上が賛成することで承認可決されます。
会社法は、法人の基本的な構造や運営の原則を定めていますが、詳細な取り決めや内部の事項については、前述の「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」などで定められ、これによって企業の法定な基盤が形成されます。
たとえば、会社法の中には以下のような規定があります。
このように、定款に定められることによって法的効力が発生する事項が会社法の条文には数多くあるのです。
業務と定款との関連例
定款は、企業の法定基盤となり事業活動を支えていることを、前述の定款の記載事項を例にしつつ説明してみようと思います。
絶対的記載事項:目的(事業内容)
「目的」は、会社がどのような商品やサービスを提供し、事業活動を行うかを示します。
以下は、法務局が公表している定款の作成例のうち、「目的」の箇所を抜粋したものです。
この「目的」の記載内容は、企業の会計の売上計上と関係しています。
企業が事業運営の中で収入を得た場合、基本的に、本業による収入であれば「売上高」、本業以外での収入であれば「雑収入」等の営業外収益で計上することになります。
この「本業」や「本業以外」の区分は、主に定款の目的に記載されている内容で区別することになります。
たとえば、主に書籍販売業を営んでいる企業が、定款の「目的」に記載されていない行為(例:不動産賃貸)で収入を得た場合、雑収入になる可能性があります。
もし不動産賃貸業が一時的ではなく継続的に行われているのであれば、定款の目的に不動産賃貸を追加するなど、「目的」の記載内容の変更を検討する必要があります。
金融機関から融資を受けているような企業では、財務諸表の見栄えを良くするため、本業以外の収入を「売上高」に計上したいという動機が働くかもしれません。
こうした場合は、慎重に対処しなければなりません。
絶対的記載事項:本店の所在地
まず理解しておくべきことは、定款で定められる「本店」と、一般的にいわれる企業の「本社」とは意味合いが違います。
定款でいう「本店」は、法的な位置づけであり、法人が登記された所在地を指します。
法的な手続きや書類提出、登記簿の管理などが、この本店の所在地で行われます。
一方「本社」は一般的に、企業の経営の中枢や中心的な機能が集まる場所を指します。
経営、戦略の立案、意思決定、各部署の統括などが行われ、通常は企業全体を統括する最高経営層が置かれる場所です。
注意すべきなのは、「本社」の所在地を東京本社や大阪本社と複数設定している企業がある一方で、「本店」の所在地は通常、定款により1か所しか規定できない点です。
(昔、本店所在地を複数指定したいとの経営陣の意向により、司法書士にも株主総会の招集通知の内容を確認してもらって手続を進めたのですが、招集通知送付後になって司法書士からNGが出て慌てた苦い思い出が・・・・・・。会社法の知識は大事。)
本店所在地の記載内容として、たとえば以下のパターンが考えられます。
例1:東京都○○区
例2:東京都○○区○○○町5-1
例3:東京都○○区○○○町5-1 ○○○○ビル301号室
これらの例は、定款の記載としていずれも有効ですが、例1のように最小行政区画までの記載にとどめるのが一般的です。
例3において、オフィス拡張のために同じビルの301号室から302号室に移転する場合、定款変更が必要になり、隣の部屋に引っ越すだけなのに株主総会を開催しなければならなくなります。
一方、例1の場合、同区内の移転であれば定款変更は必要ありません。
絶対的記載事項:商号(会社名)
商号は、企業にとって法的な身体であり、経済活動において認識され、信頼されるための基盤となるもので、企業のイメージや信頼性に大きな影響を与えます。
商号は、前述の「本店の所在地」とともに、企業の法的アイデンティティの根幹をなしています。
なぜなら、同じ本店の所在地で、同じ商号の会社を登記することができないからです。
同じ本店所在地で同じ商号の会社が存在すると、顧客や取引先が混乱する可能性があります。
そのため、会社を設立するときだけでなく、本店を移転したり商号を変更する際にも注意が必要です。
相対的記載事項:取締役任期の短縮・伸張
取締役の任期については、会社法で以下のように規定されています。
上記第332条1項では、取締役の任期は原則として2年とされています。
しかし、上場会社では毎年定時株主総会で取締役の信任を問うため、同項に基づき、取締役の任期を1年として定款に記載している企業が多く見られます。
一方、未上場会社で取締役がオーナー社長1人だけの場合、頻繁な取締役の変更は考えにくいため、上記第332条2項に基づき、取締役の任期を10年として定款で定めたりしています。
後者のように任期が長い場合は、任期を忘れないようにし、株主総会による再任等の選任決議をきちんと行うよう心がける必要があります。
相対的記載事項:取締役会の招集通知期間の短縮
取締役会の招集手続については、会社法で以下のように規定されています。
上記第368条1項によれば、取締役会の招集通知は原則として1週間前に発することとされています。
ただし、企業は迅速かつ柔軟に変化する状況に適応し、競争力を維持・向上させるために、同項に基づき、招集通知期間を3日にするなど、定款で短縮させている企業も多くあります。
なお取締役会は、会社法第363条2項により、3か月に1回以上開催する必要があります。
任意的記載事項:事業年度
事業年度が、なぜ&どのようにして定められているのか、あまり意識することはないかもしれません。
しかし、企業において事業年度という期間の区切りはとても重要です。
なぜなら、事業年度を定めることで、企業の財務状況や業績の評価が容易になるからです。
事業年度について、会社法の会社計算規則で以下のように規定されています。
このように、事業年度は1年(事業年度を変更する場合は変更後の最初の事業年度については1年6箇月)を超えることができないとされています。
また、法人税法第13条においても、1年を超える事業年度は認められていません。
ただし、1年を超えない限り、事業年度は自由に決められます。
一般的に事業年度を1年間に定める企業が多いですが、半年でも3か月でも構いません。
また、「3月26日~翌年3月25日」にように、暦月を基準としないことも可能です。
事業年度は任意記載事項であり、必ず定款に記載しなければならないわけではありませんが、一般的には定款で定められます。
財務諸表の一貫性を確保するために、事業年度の規定は重要であり、あえて定款に記載することで容易に変更できないようにしています。
おわりに
このように、会社法の規定のうち、定款で定めることにより効力を発するものはたくさんあります。
そして、大勢の方が日頃勤めている企業のあり方は、会社法および定款によって法的に支えられています。
皆さんの会社の定款を知ることによって、会社法にも興味を持っていただけると幸いです。
(おまけ)おススメの本
勉強手始めの入門書としては「手にとるようにわかる会社法入門」がおすすめです。
それなりにガッツリ勉強したい場合は、「国家試験受験のためのよくわかる会社法」をどうぞ。
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