経理 と カレー と スタートアップ
Aさんは、冷蔵庫にあるお肉と野菜を一口大に切り、フライパンで炒め、水を加えて煮込み、カレールーを加えてさらに煮込んでカレーを作りました。
Aさんは「カレーライスが作れる人」と言っていいと思います。
Bさんは、カレーのレトルトパックを温めて、ご飯にかけました。
Bさんは「カレーライスが作れる人」と言っていいでしょうか?
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ツイッターでしばしば持ち上がる話題があります。
“経理ができる”とはどういうことなのか?
成長初期や上場準備を視野に入れたスタートアップ企業界隈では、“いい経理人材が見つからない”という嘆きがよく見られます。
一言に「経理の仕事」と言っても、財務会計、管理会計、資金管理など目的別にその業務内容は違います。
財務会計:財務諸表を核とする会計情報を、企業外部の利害関係者(株主、債権者、徴税当局など)に対して提供することを目的とする(Wikipedia引用)
管理会計:会計情報を経営管理者の意思決定や組織内部の業績測定・業績評価に役立てることを目的とする(Wikipedia引用)
資金管理:企業の長期・短期資金について,特定期間における調達・運用のフローや特定時点の在高をめぐって展開される計画設定活動や統制活動(コトバンク引用)
大企業、中小企業、成長を見越した小規模のスタートアップ企業やベンチャー企業においても、経理一人一人の業務範囲は様々です。
小規模企業では財務会計、管理会計、資金管理をすべて一人の経理担当者が行っていたり、逆に財務会計(もしくは税務会計)は税理士にほぼ丸投げし、管理会計は行わず、現金預金の動きだけを見ているというところもあると思います。
大企業では、それぞれの業務の一部分が各担当者に割り振られ、役職が上がらないと全社的な経理業務が経験できなかったりします。
しかし、それらすべての業務が曖昧に「経理」という言葉で括られてしまっています。そして、その業務内容に明るくない人には「何となくパソコンの前でじっと数字を入力している人」というイメージを持たれ、「パソコンの前でじっと数字を入力するような誰にでもできる仕事」と評されることもあります。
前述のように、ステークホルダーに適切な財務情報を提供したり、経営陣に社内外の事業環境を推し測れる会計情報を提供して意思決定を助けたり、短期~中長期の視点で資金を管理したりするのが経理の仕事です。データを入力するのは経理の仕事の目的に到達するための手段であって、目的ではありません。
実際に(たとえある程度簿記の知識が必要だったとしても)経理部門内には他部署から報告されたデータを入力するだけの仕事はかなり存在します。経理業務が標準化されていれば尚更です。しかし問題なのは、経理に従事する側ですら「パソコンの前でじっと数字を入力するような誰にでもできる仕事」を「経理の仕事」と思ってしまっている場合があることです。
現在勤務している従業員60名規模の会社で、経理人材の募集を今年行いました。応募条件の一つに「月次決算ができること」を挙げましたが、応募者が携わっている(いた)月次決算業務について詳しく尋ねると、彼らのうち約半数ほどは、他部署からの月次の数字報告を待ち、ただそれを会計ソフトに入力するだけというものでした。
レトルトカレーを温めて「私はカレーが作れます」と言っているに近しいと思います。ただし付け加えさせてほしいのですが、誤解してほしくないのは、彼らを非難するつもりはないのです。レトルトカレーしか知らなければ、そうなってもおかしくありません。業務効率化により経理業務が標準化された結果生まれた現象ともいえます。実際レトルトカレーは便利です。マンダラのバターチキンカレーは美味しいです。
事業規模の拡大に応じた経理業務の発展としては
① 具材を用意して自分でカレーを調理する
(経理業務タスクの洗い出しとルーチンワーク化)
② ①をルーチンワークとしてこなしつつ、レトルトカレーの製造工程を発案・構築する
(経理業務の標準化に向けた業務フローの構築)
③ レトルトカレーを製造し、それを用いてカレーライスを作る
(経理業務の標準化)
という順序になろうかと思います。
スタートアップ企業にとって、まず最初に欲しい経理人材は①ができる人です。レトルトカレーしか扱えない(扱わない)人は、③の段階になってやっと必要になります。ですので、スタートアップ企業の経理の募集に応募を検討しているレトルトカレー派の方々は、どうかくれぐれもお気を付け下さい。いきなり包丁を持たされます。具材が冷蔵庫にない場合もあり、事によっては自分で野菜を栽培しないといけないかもしれません。
最後に、今までレトルトカレー派だった方々が、自分でカレーを調理することに少しでも興味を持ってくれること、そして経理の仕事がより多くの人(特に経営サイドの人)に理解されることを願います。
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