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旅の「始まり」①

高校三年…いや、正確には卒業式を終えてから大学の入学式を控えた3月中旬だから、何処にも属していない時期だ。

リビングでゴロゴロしている僕に見かねた父親が、あるモノを押し付けてきた。

紙製の切符入れ。

「ゴロゴロしてる暇があれば、外にいってきなよ」
寝ぼけ眼を擦りながら、袋をあける。

出てきたのは、水色の切符だった。

新幹線の切符とは違う、見たことのない物だ。

「青春18きっぷ。全国の在来線が乗り放題だ」
「小田原とか八王子、宇都宮まで行けるの?」
「そんな使い方勿体無いぞ。行こうと思えば、京都や大阪まで行ける」

地図帳を眺めるのが趣味だった僕は、東海道新幹線の他に、東海道線が西の方まで行っているのは何となく知っていた。

だが、やはり「何となく」であり、「箱根の向こう側はよく分からない世界」という関東民イズムのようなモノも抱えていたのである。

当時の僕にとって、新幹線の切符は高い。
自発的に買えるほどのものではなかった。

だが、これは5枚で12000円ちょい。1枚、2400円くらいだ。関東から出れば、めちゃくちゃ元が取れる。

気兼ねなく使える。

目的地はすぐに決まった。

中学生の頃から飽きることなく眺めていた布陣図の戦場。

関ヶ原だ

旅の「始まり」②に続く