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コタツで寝ると脳が震える
ある日スーパーで買い物した帰り道。
ガサリ、と音がして、その瞬間に持っていたスーパーの袋が少しだけ軽くなった気がした。
ふと横を見ると、1kgの白砂糖を手に持った幼女がいた。
僕が買った白砂糖を幼女が拝借していた。
幼女は白砂糖の袋を口で噛みちぎったあと、ガツガツと砂糖を食べ始めた。食べるというか、袋の穴に口をつけて吸っていた。
みるみるうちに吸われていく砂糖を僕は唖然としてみていたが、ふと我に返って「き、君、何やってるの?」と幼女と砂糖を引き離そうとした。
しかし、その子は何を言っても砂糖を吸うことをやめなかった。
一心不乱に砂糖に挑んでいたので、手も口の周りもベチョベチョだった。そして、砂糖が半分くらいになったところで口を離し、ベッタベタの手で僕の指をハシッ掴んだ。
どうやら懐かれたようだった。
懐かれたのはいいが、状況が何も理解できず呆然と立ち尽くしていたら、母親らしき人が目の前に現れた。
肩で息をしていたので慌ててきたのだろう。
母親はまるで何度も同じことがあったかのように、「あんたまた砂糖吸ってたの」と、幼女から砂糖を奪った。
そして、少し多めの代金を僕の手に握らせてペコリと頭を下げて背を向けた。
「あっ、ちょ、ちょっと待ってください」
思わず呼び止めていた。
ここまで思考が止まっていた僕だったが、もう少し状況の説明が欲しかったのかもしれない。
少しだけ話を聞いてみることにした。
ざっくりとまとめると、
幼女は甘いものに目がなく、すぐに飛びついてしまうけど、甘いものは食べてはいけない病気らしい。病気になる前はアイスが一番好きだった、と語った。
僕は「砂糖を使わずにアイスを作って持っていきます」、と母親に言った。
なぜこんなことを言ったのかはわからない。
もしかしたら幼女と死んだ妹と重ね合わせていたのかもしれない。
口の周りをベタベタにして、僕の事なんか興味がないみたいなフリをするくせに、ずっと指を握って離してくれなかった妹。言葉をちゃんと話せないまま死んだ妹。
母親は困った顔をして、しばらく考え込んだ後頷いた。
帰り道はほぼ同じ方向で家も分かった。
家に帰ってからは、スーパーで買った食材を放ったらかしにして、無心でアイス作りに挑戦した。
何日か経って砂糖を使わないアイス作りは完成した。弁当を包む安っぽい布でアイスを詰め込んだタッパーをくるみ、急いで家を出た。
喜ぶに違いないと、自信に満ち溢れていた。
足取りも軽快だった。
一度も休憩をしないまま、あの幼女の家まで走り続けた。
家に着くと、インターホンを押す前にタイミングよく母親が出てきた。
そして、少しだけ眉をひそめ、頬に手を当て、さらりと、口にした。
あの子、死んじゃったのよ。
マンガのように僕の手からタッパーが落ちた。
急いでたからフタをしっかり閉じてなかったのだろう、中身が飛び出たアイスがやたら惨めに見えた。
母親は仕方ないのよ、と言って、それ以上言葉を発さなかった。
妹の時もそうだった。
家族全員が仕方ないと言った。
医者も、葬儀屋も、親戚も、みんな仕方ないと言った。
なんだよこれ。
ふざけるなよ。
仕方ないってなんだよ!
僕は膝から崩れ落ちて、空に向かって叫んだ!
なんて言ったかは覚えていない。
なぜなら、そこで目が覚めたからだ。
泣いていた。
コタツで寝てた。
そういえば、コロッケと唐揚げで白米をたらふく食べたから苦しくて寝転んでいた事を思い出した。
涙とヨダレでクッションが沁みてた。
いや……、マジでなんだこれ。
砂糖を吸うってなんだよ。
というか、妹いねえし。
むしろ、登場人物、全員知らねえし。
夢って、ホントに意味が分からない。
コタツで寝たからこんな訳のわからない夢を見たのだろうか?
考えても考えても分からない。
ゾクゾクっと身震いがした。
もしかして、脳が震える、ってこういう事?
とりあえず、暴食してコタツで寝るという僕がとった行動は、『怠惰』だったのは間違いない。
皆さんもコタツで寝るのは、なるべく控えましょうね。
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