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社会の先頭を切って理想を実現していくこと

紹介が遅くなりましたが、日本宗教学会の学会誌『宗教研究』最新号(第98巻 409 第1輯、2024年6月)が届いていました。
 
外川昌彦先生の論考「エリアーデのインド体験とインド先住民の巨石文化」ほか、樋口雄彦著『明治の旧幕臣とその信仰』の書評など興味深く拝読させて頂きました。
 
最新号で、注目したのは、「男女共同参画・若手研究者支援委員会:日本宗教学会における男女共同参画・若手支援に向けた取り組み」です。
 
本論は、二〇二一年に実施し二〇二二年第八一回学術大会で報告した調査票調査の結果報告と、二〇二三年第八二回学術大会において開催した「情報交換会」の報告である。
 
とありますが、アカデミズムの世界においてもジェンダーバイアスに起因する圧力・要求などの男女における意識の差は大きく、男女共同参画はなかなか実現されていないこと、が浮かび上がります。
 
まずこうした調査をもとに「本学会における女性研究者や若手研究者の抱える諸問題の可視化と改善に向けて大きな意義」がありますので、今後も不断の取り組みが必要ですし、これはアカデミズムに限定された問題ではなく、生活世界の生活者においても同じであると認められます。
 
さて、「宗教学という学問の特徴、特有の課題についての指摘」で瞠目すべき点がいくつかあります。抜書すると次の通りです。

「宗教学会のジェンダー不公正の背景には、明らかに宗教教団の男性中心主義と女性蔑視が存在している。しかし、会員の中に教団関係者が多いこと、また教団を対象に研究するものが多いことが、宗教界の性差別批判を困難にしている。さらに、男性研究者の強い仲間いしきによる、異質な女性研究者を排除しようとする傾向は他の学会に比べても顕著である」。 

「宗教学というより宗教界では特に女性が教職や指導的立場につきにくいこと、日本の宗教界でのジェンダー格差がやはり研究の面へ作用していることを強く感じます。(中略)まず、宗教学を目指す女性が増えること、そのためには、生育段階から幅広く男女共同参画が行われ、女性が研究者につくこと自体が抵抗がない社会であることが必要です。学会の役割は、そうした社会の先頭を切って理想を実現していくことではないでしょうか」
 
目に見えない、また自覚されにくいジェンダー格差は、宗教そのものに起因することや、学術制度に起因することは否定できない事実ですが、そうした文化や慣習、制度に起因することは、こと宗教や学術組織にだけ限定される問題ではありません。
 
わたしたちの暮らしを振り返っても、そこから浮かび上がるジェンダー格差の諸問題は同梱であることは否定できない事実ですよね。生活も政治の世界も同じです。
 
だとすれば、指摘にあるように「宗教学を目指す女性が増えること、そのためには、生育段階から幅広く男女共同参画が行われ、女性が研究者につくこと自体が抵抗がない社会であることが必要」だし、「学会の役割は、そうした社会の先頭を切って理想を実現していくこと」に尽きます。
 
そして繰り返しになりますが、例えば、ここでいう宗教学や研究者といった言葉を、政治や経済、政治家や会社役員、学会を議会や会社と置き換えてみても、解決へ向けての同じロードマップになると考えるのは僕だけではないですよね。
 
そうした取組を、身近な世界で続けていきたいと思います。
 
それが学問と暮らしを結びつけること、あるいは政治をより身近な世界へ引き寄せることだと僕は考えています。


氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。