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【169】音楽の話:「都会の孤独と憂愁」アリス紗良オットさんのサティ、ドビュッシーについて 2023.10.13

 アリス紗良オットさんについては、ここで紹介するサティのグノシエンヌの演奏を聴いて以来、書かなければと思っていました。

 調べてみると、アリスさんは1988年にミュンヘンで、ドイツ人の父と日本人の母の間に生まれており、タワーレコードのプロフィールによれば、
95年のドイツ連邦青少年音楽コンクールを皮切りに、権威あるコンクールで次々と優勝。2008年に19歳でドイツ・グラモフォンからデビュー。2010年にエコー・クラシック賞ヤング・アーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞。・・・」と輝かしい実績と将来を持ったピアニストです。
 95年と言ったら7歳の時ですよね。信じられないですね。
 
 一方のサティは1966年にフランスで生まれた作曲家で音楽界の異端児、変わり者として知られ、ドビュッシーやラヴェルに影響を与えているそうです。
一番有名なピアノ曲「ジムノペディ1番」は1888年に作曲されたものですが、日本では1963年頃から映画やTVのBGMやCMにも使われて、広く知られるようになっていったようで、誰もがどこかで聴いたことがあると感じると思います。

そのような訳で、サティはコンサートなどでも取り上げられることは多く、とても多数の方が演奏しています。

元々サティの音楽は、サティ自身が「家具の音楽」と言っているように、酒場などで演奏する際に、お客の邪魔にならないように目立たず脇役として存在するもの、今でいうBGMとかイージーリスニングを指向していたようなのです。
そのため従来の多くの演奏も軽くて流れるものとして表現していることが多いような気がするのです。

けれどアリスさんによる下の動画の最初に演奏されるサティのグノシエンヌ第1番を聴いたとき、全く違う世界に自分がいることに気付きました。

アリスさんの弾くピアノの繊細で冷ややかで芯のある音は夜の闇の中から零れ落ち、そしてまた夜の闇の中に消えてゆくようでした。

「都会の孤独と憂愁」、高層ホテルの一室でしょうか。都会の夜の中に独り、締め付けられるような不安の中にいる一人の女性の心の揺れ・・・
サスペンスドラマの1シーンのような・・・

この動画ではサティの「グノシエンヌ第1番」「ジムノペディ第1番」「グノシエンヌ第3番」を続けて弾いています。

 2曲目も3曲目も冷たい雨の雫のように心の中に染入ってきます。

同じコンサートなのでしょうか、ドビュッシー「月の光」「夢」もやはり夜の歌です。すごく内面的なアリスさんの心の表白、ピアニシモの美しさは例えようがありません

アリスさんのサティとドビュッシーは凄いと思います。

この演奏は2018年8月に発売されたものですが、その後アリスさんが2019年2月に「多発性硬化症」という難病で左手が動かず演奏中断、ピアノが弾けなくなったという記事があり心配していたのですが、最近の状況について調べてみたところ、恐怖と絶望の中、病気を乗り越えて復帰されているということで安心しました。

下の「Alice Sara Ott: Tiny Desk Concert」は病から復帰後の2023年7月14日に行われたもので、すごくプライベートでカジュアルな雰囲気のスタジオでアリスさんのリラックスした飾らない素顔がうかがえる貴重で楽しいミニコンサートになっています。
演目は下のようにショパンの前奏曲を3曲と、チリ・ゴンザレスという現代の作曲家の前奏曲で計4曲というプログラムです。
*Chopin: Prelude Op. 28, No. 24
*Chopin: Prelude Op. 28, No. 7
*Chilly Gonzales: Prelude in C-Sharp Major
*Chopin: Prelude Op. 28, No. 15 “Raindrop”

いずれもとてもよい演奏で、中でもラストの「雨だれ」はスリリングでした。彼女の元気な姿を見ることができて嬉しいです。
写真のピアノの上に置かれた白い折鶴は彼女がその場で折って飾ったものだそうです。


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