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【45】音楽の話7:「春よ来い」のベストの歌唱は、鶫真衣さん。そしてさらによかったのは? 2022.7.6

世の中一杯敵に回してしまうかもしれませんが、私が何を言ったところで押しも押されもせぬ天下のユーミンですから、個人的な戯言だと思って聞いてください。

ユーミンについては100%好きな訳ではありません。けれど「ひこうき雲」は凄いと思いました。どの曲がというよりアルバム全体としての完成度がすごくて一つの作品になっていると思いました。第2位が「MISLIM」第3位が「COBALT HOUR」、ファーストアルバムから第3作までがその順序で1-3位、それ以降については追い掛けようという気にならなかったし、正直言って無くても困らないと思っています。
でも「春よ来い」、この曲だけは例外です。テレビ小説は申し訳ないが一度も見ておらず、この曲とドラマとの照応については全く知らないのですが、歌詞とメロディーと編曲のすべて、特に歌詞のすばらしさ、大正浪漫を思わせる日本の文語調の言葉の美しさは、真直ぐに心に響いてきます。どうしてこんな詩と言葉を書くことができたのだろう、ほとんど奇跡のような作品であり、ドラマとは切り離し、独立して後世に残すべき曲だと私は思います。

この歌でまず聴くべきは上のユーミンのオリジナルでしょう。やはり心のこもった素晴らしい歌唱だと思います。
ただ私が思うのは、この歌の場合はユーミンのちょっとハスキーな声でなく、もっと透き通った声であったほうが似合うのではないかとという気がしたのです。
この曲は多くの歌手の方の心も射止めたようで、ユーチューブをみると、いろいろなジャンルの個性豊かな歌い手さんのカバーをみることができます。その他に琴による演奏など器楽によるものも数多く並んでいます。
僕は、かなり以前から理想の「春よこい」を求めて何度も探したことがあったのですが、ほんとうにこの曲に合っているという演奏をみつけられなかったのです。
器楽による演奏は、歌詞が聞けない点で十分にこの曲を表現することは不可能で除外されますし、他の歌手のカバーも、浜崎あゆみさん、平原綾香さん、坂本冬美さん等の錚々たる歌手が自分の「春よ来い」を思い入れを込めて歌っていて夫々に面白いのですが、これは違うという思いが拭えませんでした。
そんな中で、ある人からこれいいよと貸していただいたCDの中で、ほんとうによい「春よこい」に出会ったのです。それが下の 鶫真衣(つぐみまい)さんの歌でした。

鶫真衣さんは調べてみると国立音楽大の声楽科を卒業しているソプラノ歌手で、陸上自衛隊初となる声楽要員として入隊し、中部方面音楽隊に配属され、陸自の歌姫として幅広く活動されているという方なのでした。
このビデオは降りしきる雨の中、真衣さんの若々しく凛とした透き通った歌声とひたむきに真直ぐに歌う姿勢がこの曲にとても似合っていると感じました。

歌とともに流れる字幕を見ながら考えたことは、この曲の主人公の女性と彼(君)の関係性はどんなものだったのだろうという疑問でした。

 彼女は今いくつくらいなんだろう?
 彼は今どこにいるのだろう?
 時代背景はいつのころなんだろう?
 二人はどのように出会ったのか?
 そしてどうして別れてしまったんだろう?
 どうして彼女は彼のことを待ち続けているんだろう?
 彼が彼女のもとに帰って来ることはあるのだろうか?
 
 私の想像ではこんな情景が浮かびます。

 彼は本当に優しい包容力のある誠実な男性だった。
 彼と彼女は隣同士の幼馴染み、彼は4-5歳年上、兄と慕い、妹として愛し守り親しみあって育った。
 年頃になって彼は上京して大学へ、そして久しぶりに帰郷したときに再会した二人はごく自然に惹かれあい、両家に祝福されながら将来を誓うようになる。
 そんな二人がどうして別れてしまったのか、彼が他の女性に目移りして去ってしまっうなどということは考えられない。止むを得ない事情があって彼は去って行き、そして帰ることがなかった。
 何故なのだろう?
 歌詞に擬古文調が入っていることから時代は戦前、大正の終わりから昭和初期? 戦雲急となる中、彼は日本の独立を守るため、両親を兄弟を、愛する彼女を守るために戦いに赴いて帰ってこなかった。神風特攻隊の一員だったのかもしれない。
 出撃し南海に散り、遺骨も見つかることはなかった。
一枚の戦死通知だけが届くが、彼女は彼の死を信じることができず、彼のことを忘れることができず、いつか戻ることを祈って待ち続ける。
 1年、2年、5年、10年、20年・・・
 結婚を勧める話も多くあったが、彼女は独りで生きてゆき、もう30代も後半、彼のことを思い出すことも少なくなっている。
 そんなある早春の日、にわか雨に濡れる沈丁花の香りをかいだ時、突然彼の記憶が蘇る。
 何か特別な思い出があった?
 沈丁花は薫り高い花、早春に咲き、春の到来を知らせる花。
 もしかすると、その沈丁花が咲いたとき、
「いい匂い、もうすぐ春ね。」
「そうだね、春になって桜が咲いたら僕たち結婚しよう。」
「ええ。」
頬を染めて、うつむいて、小さな声で、でもはっきりと答えた。
沈丁花の花の前で、手をとりあって、幸せに胸を一杯にしながら、二人は約束を交わしあったのかもしれない。
果たされなかった約束。遠い過去。
彼を待ち続けた長い時、

今、沈丁花の香りの中で、彼の優しい笑顔と優しい声の記憶に包まれて、彼女は彼がいつも傍にいてくれたこと、守り続けてくれていたことを感じ、その長い時を待ち続けたことが決して不幸ではなかったことを想っている。

このビデオをみていて初めて気づいたことなのですが、この曲は花見で歌いたい歌とかいわれたりしていて、ミュージックビデオなどを見ていても満開の桜を背景に歌われることがほとんどです。でも沈丁花だったのですね。季節はまだ早春、桜はまだ咲いていないのです。来なかった春を思う歌なのですね。イメージが僕の中で変わりました。

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「春よこい」作詞、作曲:松任谷由実

 淡き光立つ 俄雨
 いとし面影の沈丁花
 溢るる涙の蕾から
 ひとつ ひとつ香り始める

 それは それは 空を越えて
 やがて やがて 迎えに来る

 春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
 愛をくれし君の なつかしき声がする

 君に預けし 我が心は
 今でも返事を待っています
 どれほど月日が流れても
 ずっと ずっと待っています

 それは それは 明日を越えて
 いつか いつか きっと届く

 春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
 夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く

 夢よ 浅き夢よ 私はここにいます
 君を想いながら ひとり歩いています
 流るる雨のごとく 流るる花のごとく

 春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
 愛をくれし君の なつかしき声がする

 春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
 夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く

 春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
 愛をくれし君の なつかしき声がする

 春よ まだ見ぬ春…
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 僕の想像はユーミンの考えた世界とは全く違っているのでしょう。
 けれど、いずれにしても、この曲は、髪を染めて、フルメイクで、付けまつ毛のギャルが歌う歌ではないと思うのです。浜崎あゆみさんは僕の大好きな歌手でいつか別稿で取り上げたいと思っていますが、ごめんなさい。誰が考えたのか知りませんがこのビデオの演出は悪い冗談としか思えません。

 鶫真衣さんを追いかけていたら、もっとすごい「春よこい」に出会いました。

鶫真衣さんと松永美智子 陸士長(中央音楽隊)の二重唱です。自衛隊音楽隊のしっかりした演奏に支えられ、二人の声が重なり合い響きあうことで、より奥深い世界が展がり、形作られます。

これが僕のベストの「春よこい」です。


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