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【112】音楽の話:ジークムント・フォン・ハウゼッガー指揮ミュンヘンフィルハーモニー「ブルックナー交響曲第9番」1938年、この曲の原典版の世界初録音 2023.2.14

 私はもう数十年も前。高校に入学したときに、これからはクラシック音楽をきちんと聴いていこうと思い、渋谷宮益坂にあったレコード屋さんで何もわからぬままに選び出したのが、フルトヴェングラー指揮の「ブルックナー交響曲第9番」で、私はこの曲をレコードが擦り切れるほど繰り返し聴き、ブルックナーとフルトヴェングラーに導かれて豊饒なクラシックの世界に没入していったのでした。
 当時はまだブルックナーは一般にはほとんど知られていない無名の作曲家であり、レコードとしても7番ワルター、カラヤン8番、そしてこのフルトヴェングラーの9番の3種しかカタログになく、学校の図書館のクラシック名曲解説全集?を見ても、4,5,7-9番しか説明が載っていないという時代でした。今のブルックナーのCDが棚に溢れる状況は隔世の感で驚いてしまいます。
 そんないきさつがあるので、私はブルックナーの演奏というと気になってチェックしてきました。当時FMで流れ、エアチェックして何度も聴いたチェルビダッケ/南西ドイツ放響の4番、フランツ・コンビンチュニ/ゲヴァントハウスの5番、ルドルフ・ケンペ/トーンハルレの8番などの演奏は忘れられません。
 今はユーチューブで様々な演奏が聴けるのは有難い限りで、ブルックナーの演奏とみると、ついつい時間を忘れて聴き入ってしまいます。
 
 昨夜、ふと目に入ったのがブルックナー9番の原典版の世界初録音だというこの演奏でした。

 ジークムント・フォン・ハウゼッガーさん、全く存じ上げない方でしたが滅茶苦茶かっこいい名前ですね。ジャケットの風貌もかっこいいです。
 録音は1938年、どうせ聴くに堪えない音質の情緒纏綿たる古めかしい演奏だろうと思いながら聴いたのですが、びっくりしました。
 音源は78回転SP盤だと思われますがそれにしては信じられないほどの高音質なのです。
 そして演奏は、冒頭から、毅然とした濁りのない明晰で雄大な構成でブルックナーの峻厳で清澄な世界が描き出され引き込まれてしまいました。
 こんな一番初期の演奏が、研究が進んだはずの現代の多くの演奏と比べてもはるかに上回る完成度を持っていたことに驚かされ、深く感銘を受けました。
 調べてみるとハウゼッガーさんは 1872年8月16日 - 1948年10月10日、作曲家であり指揮者でもあった方で、ミュンヘンフィルの首席指揮者を1920-1938年の18年もの長期間務め、全ドイツ音楽協会会長などにもなっておられる方で、ブルックナーの交響曲第9番原典版の初演者であり、その普及者としても知られている、のでしたからドイツの音楽界において重要な地位にあった方なのだったと思われます。
 フルトヴェングラーの14歳年上の大先輩であり活躍時期も場所も重なっていますから何らかの交流はあったのだろうと推測されます。

 少し時間関係を追ってみると、この第9番の交響曲は未完の曲で、ブルックナーは1894年11月30日に第3楽章までを完成させ、1896年10月11日死去する日の午前まで第4楽章の作曲に取り組んでいましたが完成には至らず亡くなったそうです。
 ブルックナーが亡くなったとき、ハウゼッガーは24歳、フルトヴェングラーは10歳でした。
 フルトヴェングラーが1906年に20歳で指揮者としてデビューした際にこの9番を演奏したという話は有名ですが、オーケストラのカイム管弦楽団が現在のミュンヘン・フィルであったことは知りませんでした。
 この時の首席指揮者はまだ第8代のハウゼッガーさんではなく、第5代のイェオリ・シュネーヴォイクトという方でした。ブルックナーの改訂版で有名なレーヴェさんが第3,6代の首席指揮者を務めていますから間に挟まれたこの時期のフルトヴェングラーの演奏は当然レーヴェ版だったのでしょうね。  ハウゼッガーさんのこの演奏が1938年で61歳のとき、フルトヴェングラーの唯一残る演奏が1944年58歳の時になります。 
 後年フルトヴェングラーがドイツ・ブルックナー協会の総裁をつとめ、原典版の価値を訴え普及に務めているのはハウゼッガーさんのの影響が少なからずあったのだろうと思うのです。

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