【30】タンクトップは罪作り、な話 2022.6.6

 千葉のはずれの方の男の子が、大学を卒業して4月から東京の会社に勤めることになり、初めて満員電車に乗って通うことになったのです。
 その時に親や周りの友達から散々忠告されたのが、
 「いいか、痴漢と間違えられたら一生終わりだぞ。電車の中では絶対に紛らわしいことをするな。お前はいかにも疑われそうな顔をしているから特に気を付けろ。」
 それを胸に刻んだ彼は何事もなく通勤を続けていましたが、季節も初夏に向かうある朝、とある駅でどっと乗り込んできた中にいたむちむちタンクトップの女の子が混雑に押されて彼の胸に正面からぎゅうっと押し付けられるという事態になったのです。
 彼は 「そうか、言われていたのはこのことだ」 と思い、絶対に疑われないようにしなければと、鞄は女性から遠い側の左手に持ち、空いている右手は上に伸ばして片手万才の形にしたのです。
 けれど揺れる電車の中で手を上げ続けているというのは思う以上に大変です。 疲れてきて耐え切れなくなり、もう駄目だ、とおろした彼の手の指先が、幸か不幸か、女の子のタンクトップの胸元に引っ掛かったのでした。
  ペロン、 ポロリン、 キャーッ!!
 アッという間に彼は周囲の男たちに取り押さえられ、次の駅で降ろされ駅員のところに連行されてしまったのです。
 散々絞られた挙句に、彼の必死の訴えが認められ、過去に犯罪歴もなかったことで、故意ではなく事故であったということになり、厳重注意のもとに無罪放免になったそうですが、彼にとってはなんとも気の毒な不運なできごとでした。
 ところでこの事件で一番驚いたのは
  男の子、女の子、それとも間近で目撃した乗客、
誰だったのでしょうね?

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