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【221】音楽が溢れて零れ落ちるドビュッシーの「アラベスク第1番」「月の光」:マリア・ジョアン・ピレシュさんのピアノは何て素敵なんだろう 2024.6.23


1 【大人のピアノ】で

 私がピレシュさんを知ったのは、Gentle Breezeさんという方が、私の記事にスキしていただき、どんな方なんだろうと思ってサイトを見に行ったときに、下の記事に教えていただいたのでした。

【大人のピアノ】リベンジシリーズ①ドビュッシーアラベスク1番|Gentle Breeze~幸せに働き心豊かに生きる (note.com)

 長いブランクを越えてもう一度ピアノに戻ろうとされているGentle Breezeさんが今取り組んでいらっしゃるのがドビュッシーのアラベスク1番で、憧れているピアニストがマリア・ジョアン・ピレシュさんだと書かれていました。

 私はピレシュさんをこれまで全く知らず、その記事で紹介されていたことで初めてその演奏を見たのです。

 ピレシュさんはおいくつなのでしょう。
 小柄でショートカットにした痩せたお顔の言ってみればおばあさんですが、優しいけれど奥に厳しさを持っているというのか、厳しいけれど奥に優しさを持っているというのか、いずれにしても真摯に生きてきた奥深さを感じさせる方でした。 

2 マリア・ジョアン・ピレシュ:ドビュッシー アラベスク第1番

 しばし天を仰いだピレシュさんが視線を落とし、無雑作に弾き始めたとき息を呑みました。
 音楽がいきなり鍵盤から溢れ、零れ落ちてきたのです。
 きわめて即興的でインスピレーションに富んだ演奏でありながら、なんの作為も、なんの飾り気も芝居気もなく、心の中から溢れでてくる音楽に胸が熱くなりました。

3 マリア・ジョアン・ピレシュ:ドビュッシー 月の光

この「月の光」も、なんて美しいのでしょう。なんという感性の持ち主なのでしょう。

 月の光も、アラベスク第1番も色々な方の名演を何度も聴いてきました。

 その中でもピレシュさんのこの演奏は最上級である、もしかしたら一番好きかもしれないと思いました。

 藤田真央さんの若々しさとはある意味真逆なのですが、ここまで澄み切った境地にたどり着いていることのなんというのか崇高さには頭が下がります。

4 ピアノの女王

 慌てて色々調べてみて、ピレシュさんがピアノの女王と呼ばれるほどの偉大なピアニストであったことを知りました。

 彼女はポルトガル出身の1947年7月23日生まれ、現在ブラジル在住、2018年に74歳で現役の舞台からは引退されておられますが、2021年にステージ復帰され、前掲のアラベスク1番は復帰後の2021年8月にライブ録音されたものなのでした。
 月の光は演奏日はわかりませんが、やはり復帰後であることは間違いありません。

 ピレシュさんは、復帰後の2022年には日本公演を行っているのでした。
 その時のコンサートの模様を記した下の記事を見つけました。

 帰ってきた、もうひとりのピアノの女王~マリア・ジョアン・ピリスの日本公演2022| ARTONE MAG (masenoblog.com)

2022年11月29日(火)19:00@サントリーホール
 この時点でピレシュさんは75歳になっていました。

 演目は
  シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番イ長調Op. 120,D. 664
  ドビュッシー:ベルガマスク組曲
 (休憩)
 シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D. 960
 【アンコール】
 ドビュッシー:アラベスク第1番

 溜息の出る魅力的なプログラムですね。
 この記事はそのコンサートの状況がそのまま伝わってくる素晴らしい名文で、ピレシュさんの音楽の美しさを見事に表現されています。読んでいてほんとうにそうだと思いました。 

5 間違ったピアノ協奏曲

 もう一つ、ピレシュさんの印象的な動画を見つけました。

 どのような行き違いがあったのでしょうか?
 リッカルド・シャイー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートで、マリア・ジョアン・ピレスはモーツァルトのピアノ協奏曲21番ハ長調K.467を弾くつもりでオケが鳴るのを待っていたので。
 ところがオーケストラが演奏し始めたのはピアノ協奏曲20番ニ短調K.466だったのです。
 ピレシュさんは雷に打たれたように慄然とし、パニックになり、頭を抱え、指揮者に私は出来ないと訴えます。
 けれどシャイーは「大丈夫、君ならできる!」と返し指揮を続けるのでした。
 オーケストラの長い前奏が終わりピアノのパートが始まったとき、ピレシュさんはおずおずとピアノを弾き始めました。
 そして、彼女はこの「間違った」協奏曲を全て暗譜で、一度も間違えることなく弾ききったのだそうです。

 どんな演奏だったのか全曲聴いてみたいですね。

*ところで、私は、初めにフルトヴェングラーとブルックナーからクラシックに入ったため、私が主に聞く音楽は交響曲にかなり偏っていて、それ以外の分野は穴だらけです。
 そうした意味で今回ピレシュさんのことを教えていただけのはとても嬉しいことでした。

 また、私が音楽を聴くのはレコードやCDが主体で、ライブコンサートに行くことはほとんどありませんでした。
 けれど、こうしてピレシュさんの来日コンサートの話などを聞くと私も色々調べて実演を見に行かねばと思うようになってきました。

 



 


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