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日本の中小上場企業の内部統制は先進国でも特異な立ち位置にあるという話

中小上場会社の内部統制」という本を読んで、おそらく規模の小さめの上場会社で内部監査や内部統制に関わっている人(日本で何人くらいいるのだろうか・・・。)にとっては号泣ものの事実「日本だけが中小企業に厳しめの内部統制報告制度を要求している」を教えてくれるすごい本だと思い、今日はこれの紹介をします。(内部統制ってなに、と思った方はこちらも参照ください!)

「中小上場会社」とは 

「中小上場会社の内部統制」が対象にしている会社は、「内部監査室が2名以下」の会社です。私の会社は内部監査室は1名、内部監査業務は常勤監査等委員や総務部のメンバー数名と分担していますが、たぶんこの定義に当てはまります。私のことだ!!

本研究会では・・・組織として継続的な内部監査の有効性を維持できる人数を3名以上としている。これは、内部監査の実施において、監査チームの実施者は2名いなければ、経験の浅いメンバーへの訓練や監督が難しいと考えられ、さらに品質管理の観点から別の者による査閲が実施できることが望ましいことから、組織的な監査の実施のためには3名以上が必要との考えである。(p.6)

 え、じゃあ会社の規模が大きくならないと、そもそも内部監査の有効性が確保出来ないよ!私どうしたら良いの!と思った人もいるかもしれません。私は思いました。実は、その背景には、日本の内部統制報告制度の特徴があるのです。あなたが大変な感じがしているのは、あなたのせいではないのかもしれません。

日本の内部統制報告制度は先進国の中でもオンリーワン

内部統制に関わっている方々はJ-SOX法という法律があることは知っていると思います。(よくわからないなと思った人は、また内部統制全体について説明する記事を書こうと思っています。→書きました。)これは2002年7月にアメリカで成立したサーベンス・オクスリー法(SOX法)を参考に日本で作られた法律です。アメリカでは当時、エンロン事件やワールドコム事件など大規模な会計粉飾事件が相次ぎ、これを防止する目的で作られた法律です。
しかし、この法律は本家アメリカでは限定的に施行されています。

アメリカでは時価総額で区分し、一定規模未満は適用時期を遅らせて適用する予定であったが、延期を繰り返し、結果的には適用が免除されている。
 日本の内部統制報告制度の特徴として、「全上場企業に一律に義務付けられているのは、先進諸国の中でわが国だけである」ことが挙げられる。(p.2)

「全上場企業に一律に義務付けられているのは、先進諸国の中でわが国だけである」ここだいじなので二回言いました。つまり、ひらたく言うと法律を作ったアメリカ人も、「こりゃ大変だから小さい会社でまともにやったらコストがかかりすぎて無理だ。」と判断して免除したものを、日本だけが真面目に取り組んでいる!と言うことです!
 なんてことだ。

 ただ、すぐにこのあと書いてあるように

ただし、導入の目的である内部統制報告制度のもたらす効果との対比で制度に関して考えることが必要であろう。(p.2)

 なので、じゃあ、やめましょう!という話ではないとは思います。

法的な裏付けは内部監査については現時点ではない

中小上場企業は、規模が小さいため人材が足りていません。その状況でしっかりとした内部統制のプロセスをいれるとコスト面できついところがあります。その上で、さらに内部監査の世の中での定義も、ふんわりしたところがあります。

内部監査はそもそも経営目標の効果的な達成を目的とすることから、法令によって縛られることなく、企業等のニーズに基づいて実施されるものである。法令に基づく監査ではないことによる限界がある一方で、法令に縛られない自由な監査を追求できるメリットがある。(p.52)

 監査法人による監査や、監査役の立ち位置などは法律によって定められたものです。一方で、内部監査そのものは特に法律の裏付けはありません。

そもそも先進国ではコストを理由に免除されていることを日本だけはやっているという前提と、やることは決まっているけど、実行自体は「良い感じでよろしく」となっていて、しかし自由ではある。

この条件を踏まえた上で、面白い感じの内部統制構築を考えられるかどうか、が問われているのだな、ということがわかり、とても面白い本でした!

面白い監査手法などを教えてください!

今回は、「中小上場会社の内部統制」の前半部分だけを取り上げました。

内部統制に関わっている人は、実は結構ここは設定的に無理があるかもしない分野なんだなー、という知見の1つとして参考になるのではと思い、書きました。

この本の後半も赤裸々な内部監査担当者の悩み(本当は現場に戻りたいよ!と叫ぶ元営業部長)が吐露される紙上パネルディスカッション、グループ会社統合あるあるなど、共感と戦慄が交錯する優れたコンテンツが目白押しなのでおすすめです!

またうちではこんな監査で対応しているよ!みたいなことがありましたら、ぜひ、twitterなどで教えてください!



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