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ナイトくん
今日のお昼は、コンビニでカフェラテとシャケおにぎりを買って、公園のベンチでと思って歩く。
今年の10月は一気に気温が下がったけど、天気が良ければ、お昼の太陽はそれなりにあつい。
公園の一番手前のベンチは、どうやらお休みモードの方がいたので、隣にもうひとつベンチが空いていたけど、通過することにした。
少し先にある次のベンチでは、座った人と立ったもう1人が話している。遠目からも犬がいることは確認できた。
よし、こっちにしよう。話の邪魔にならないよう、そぉーと隣の空いてるベンチに座った。
腰を下ろし、姿勢を調整して、さておにぎりと袋を破りながら前の方を眺めた。手前の少し上の柵で鳩がこちらを見ていた。
たぶんこちらを見ている。頭を少しずつ動かしながら、丸い目がこちらを凝視している。
あげねーぞ。
とか内心面白がっていたら、犬もこちらに寄ってきた。
あーら、カワイネカワイネ…
ほっこり。こんな太陽の光が素晴らしいお昼はおにぎりを食べ、カフェラテを啜りながら、ワンコウォッチするべきだよ。これ以上の幸せがあるだろうか。
何ももらえないのを理解したのか、興味が失せて向こうに行ってしまう。
うしろ姿もカワイネカワイネ…
チラチラ犬を見ながら、おにぎりを頬張る。
立っていた女性が去っていく時、犬はまた近くに寄ってくれた。
カワイネカワイネ…
そして、隣のベンチに座ったおじいちゃんと私が取り残された。と、両耳をピンと立てた犬が1匹。去り際に女性のとこのわんちゃんに態度が悪かったかなんだかで、おじいちゃんに一撃喰らっていた。
少し米をつまんで鳩に投げてあげる。一回投げると全部寄ってくる。数が10匹くらいだからまだなんとか。おにぎりの残りを口に放り込むと、おじいちゃんが鳩を指しながら、話しかけてきた。
「あそこの鳩、足のとこ、見える?歩き方が変でしょ。指が一本しかねぇんだ」
身を乗り出し、じっと鳩の群れの一番後ろでひょこひょこしている鳩を見た。口の中の米を急いで飲み込む。
「ほんとだ。どうしたんですか?」
近視な上メガネを置いてきたので、本当はあんまり見えていない。ただ歩き方が変と言われれば確かに変だ。
「よくこのベンチの後ろでうずくまってるから、前ここの人が捕まえて病院連れてったんだよ。リウマチだってさ。治らないって」
「鳩もリウマチあるんですか?初めて知りました。そうすると大変ですね」
「ああ、指が1本だけだと枝にも止まれない。よくそこらへんの草むらでうずくまってるよ」
などと鳩の話から始まって、色々話しているうちに、耳がピンと立った犬はつまらなくなったのか、私の方に寄ってきた。
あら!カワイネカワイネ…
まず少し身を屈めて、様子を観察した。お触りしてもよろしいでしょうかという私なりのコンタクト。
「今年いくつなんですか?」
「もう15だ。人間で言うと80の年寄りだ」
と、犬の様子からしてokらしい。いくぞ。と、手を頭のてっぺんに乗せた。ポカポカだぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜
幸せ。
「今触ってる茶色い毛のあたりね、全部白髪」
「白髪!?犬も白髪あるんですね!知らなかったです」
犬も白髪があるらしい。茶色と白が混ざった模様だったが、茶色い部分に混在している白い毛は全て白髪らしい。
「もう80だから、目も白内障で、片目がもう見えねぇし、耳も遠くなっちまった」
なるほど、先ほどから犬がこちらを見ているのに、見ていないような感覚は白内障だからか。私の話す声を確認しながら距離を縮めて来たのもそういうことだったのか。
「ポカポカだね〜」
と言いながら、頭を撫でたり、体を撫でたり耳の下の方を撫でたりした。とても心地の良い暖かさ。
「ナイトくんー」
顔を上げると、知らないおばあちゃんがおじいちゃんに「こんにちは」と挨拶をしていた。
私も「こんにちは」と頭をペコっと下げた。
ナイトくんって言うのか。かっこいい名前だね。
その後は、おじいちゃんとその知り合いのおばあちゃんと全然関係ない私とで、3人で仕事だの公園の桜の木について話した。
「ここの土地の下は川なんだ。だから桜はこれ以上成長できない。ここの上に植えられた桜はかわいそうだよ。植えられたらもうどこにも行けないから」
植えられたらもうどこにも行けない、か。ナイトくんを撫でながら、その言葉を反芻する。
「枝もどんどん切られて。梅は切っていいんだが、桜は切っちゃダメなんだよ」
私も植えられ、どこにも行けなくなっているのだろうか。根を生やすのも、下が川で、どうにもならないのか。余分な枝を全て切り取られてしまうのか。雨も日差しも風も、ひたすら受け止めるだけしかできないのか。
日差しは目を開けられないほどだが、ナイトくんの体はひたすら温い。
去り際、おじいちゃんはナイトくんに鼻をつけて話しかけた。
「ほら!またあったらよろしくねは『ワン!』だろ!」
「ワン!!」
気持ちのいい返事だった。元気な15歳。
休憩時間的にもう間に合わなくて、少し小走りで戻る。少し顔を見上げて澄み渡った秋の青空を見る。暖かいのに少し泣きそうになる。
来年の春、また桜がみれるだろうか。ナイトくんの目に映る桜はどんなんだろうか。一緒に見れたらいいな。桜。
2023.10.26 星期四 晴れ
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