恋愛強者

「本気で好きだったのに…」

Aちゃんは私の部屋にきて泣いた。
おもちゃを買ってもらえなくて駄々をこねる子供みたいに泣いた。

4年に1回あるかないかの儀式のようで、付き合いが長い私にとってみればそれは驚いて取り乱すほどのことではない。

ジムで出会った、マッチョの彼氏と別れたらしい。

今日のAちゃんは、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいに失恋に没頭している。
1人の男性のことで感情が上がったり下がったりして、なおかつちゃんと表現して発散できるタイプの人だから心配はいらない。

私たちは学生時代から一緒にいる。

初めて男性にフラれたAちゃんを見たときは私も辛くなった。なるべく側にいて励まそうとしていた。
次の日、学校で会ったAちゃんはケロッとしていた。なんなら明るかった。

Aちゃんは恋愛体質で、次から次へと恋をする。
横断歩道の白い部分だけをスキップするくらいに軽やかに。

フラれたら「相手に見る目がない」と言うし、

好きな人に恋人が出来ると「タイミングが合わなかった」と言う。

マッチングアプリで変な男で出会えば、観察して女子会のネタにして笑い飛ばしていた。

いつか出会った男だけで家を建てると言って、建築関係の人ばかりを狙っていた。

出会った人と仲良くなって、すぐ人を好きになるAちゃんだけど、付き合うまで体の関係を持つことはない。
意外と自分のルールがしっかりしている。

いつも楽しそうで掴みどころのないAちゃんはモテる。
彼氏にする相手はAちゃんの方から選ぶ立場になっている。

合コンに行ったら、必ずその日のメンバーで一番いいと思った人を決めて、後日ごはんに誘うくらい積極的だけど、全く執着心がない。
違うと思うことはちゃんと言うし、故意に傷付けるような人とは離れることができる人だ。

優しいAちゃんは、いつも全力で男と別れてくる。
好きという未練が1㎜も残らないくらいに綺麗に別れる。

「どうしてそんなに前向きでメンタル強いの？」
私はAちゃんに聞いたことがある。

「それだけの価値がある女だからだよ」

Aちゃんはひとしきり泣いたあとに
「焼肉行こうか」
と言った。