宙組『プロミセス、プロミセス』感想

待ちに待っていたこの日がやってきた。そう、今日私は、演目が発表された夏から、いや、『群盗』で初めてキキじゅりコンビを知ったあの日からずっっっと待ち望んできた二人の主演舞台『プロミセス、プロミセス』を、観劇することができたのだ。映像化しない幻の作品となることが決まっているこの作品。たった一度しか見ていないけれど、確かに一度見れたこの幸運を無駄にしないために、そして、全キャスト・スタッフのために、沢山の人が感想を残しているけれど、目撃証言は多いほうがいいだろうということで、私もこうして(長々と)文章に残すことにします。

0.総評

まずこれだけは言いたい。純粋に、めちゃめちゃ面白かった!最初から最後まで声出して笑ってたし、ハッピーエンドバンザイ!!!不倫ダメ絶対!!キキじゅり相性最高!!和希そらは女の敵!!(語弊)

語彙力を失った感想はさておき、色々思ったことを書き綴ろうと思います。

1.なぜこの作品が選ばれたのか、考えたけれど…

物語は、保険会社に勤めるチャック・バクスター(芹香)が朝ベットから目覚めるところから始まる。ちなみに、このときのパジャマ姿がめちゃめちゃ可愛い。顔を洗いひげをそり、髪をワックスで固めて、東京さながらの満員電車に揺られながら出勤する。モーニングルーティンも可愛い。キキちゃんのスーツ姿はめちゃめちゃカッコいいはずなのに、まさに平凡という言葉がぴったりくるしがないサラリーマン像が冒頭のこのシーンからしっかり印象付けられる。

そう、この物語には、壮絶な運命や、命を懸けた使命は存在しない。時代と場所の違いはさほど感じず、むしろ今私たちが暮らす現実に近い、日々のありふれた出来事が物語として紡がれていきます。普段の演目の宝塚らしさからはかけ離れた作品であり、そこに音楽やダンスが加わることで華やかさあったとしても、宝塚っぽいというよりも、圧倒的に「ブロードウェイっぽさ」が勝っていました。まあ、ブロードウェイ・ミュージカルなのでそりゃそうなんですが、じゃあこれをなぜ宝塚で上演することにしたのか、と私は見る前から地味に疑問だったのですが…(しかも版権的に厳しいし。)

私は今回観劇して、答えは意外とシンプルに「面白い作品を面白いメンバーで実現できるタイミングだったから」それだけなんじゃないかと思いました。単純すぎるけど。そもそもこの話、設定が面白い。保険会社という堅実そうな会社で不倫がめちゃめちゃ(何人カギ借りるねん)横行しているし、出世のためとはいえ男女の密会のために部屋を貸し借りする主人公と関係者たちの節操のなさ(しかも40分~1時間という単位)は見ていて本当にどうかと思う(笑)。主人公は食堂係のフラン(天彩)のことをピュアで純粋で何も知らない天使だと信じて恋しているし、そのフランはチャックの上司と絵にかいたようなドロドロの不倫関係に真っ向から悩むし、上司シェルドレイク(和希)は結婚指輪に高級時計を付けたその腕でフランを愛していると抱く見事な悪い男(しかしお金も地位も女性をおとすテクニックも持っていてセクシーではある)っぷり。そういう意味でプロプロはコメディを主軸にしながら、ピュアなラブロマンスでありつつ、昼ドラっぽさも加わっているというところで、他の作品と一線を画していると思う。

2.キキちゃんが作り出す「オーラ」と「若さ」はすごいという話

少し話はそれますが、今の芹香斗亜さんの成熟っぷりは凄まじいものがあると思っています。宙組公演を観に行くと、真風さんの圧倒的オーラは勿論ですが、もう一人トップスターがいるんじゃないかという存在感で2番手羽を背負ったキキちゃんがいて、個人的にはタカスペ的なお得感すら感じるレベルです。

そして、面白い作品を実現できる面白いメンバーというのがまさに、今のキキちゃんだったのだと思います。演出の原田先生をはじめキャストの方々が話しているように、基本的に不倫と生々しい男女の逢瀬が話の軸になっているから、大劇場作品向きではない。かつ、地味で残念なサラリーマンを魅力的に演じられるだけの主人公的オーラが必要。かつ、全編通して笑いを取れるだけのコメディセンスをもちあわせている。この条件にぴったりはまったのがキキちゃんだったんだなと。残念系男子というキャラ設定的にはキキちゃんのバウ主演作「MY HERO」に近いのかなと思ったりもしましたが、今回の役作りは与える印象が全く違って、もっとリアルで、もっと平凡で、もっと応援したくなる感じで、もっと人間臭い感じでした。そして何より今回のキキちゃん、ものすごく若い。若く見える。ほぼ最年長キャストなのに、若い。エネルギーが余ってる感じ。これがここまで積み上げてきた実力なんだなと思いました。そして、物語が進むにつれて見えてくる、フランに向けて見せる誠実さと優しさで、「ちょっと残念だけど、自分を一番に想ってくれる素敵な人」を的確に演じていたなと思います。(結婚したい感じの人です。)

めちゃめちゃネタバレですが、好きな表情を3つ。1つは、フランと偶然医務室で会って、ここぞとばかりに話しかけるシーン。目を輝かせて話しかけるチャックと、話は聞くけれど全く目を合わせないフラン。フランが全く自分に興味がないことに気付きつつも健気でかわいらしいです。2つ目はフランの不倫に気付いた時のキキちゃん。悲しいような、切ないような、逆に笑えてくるような表情が上手すぎ。3つ目は、失恋して自殺未遂をして意気消沈するフランを元気づけるシーン。慈愛に満ちていて、あんな風に辛いとき必死に自分を笑わせてくれる人いたらいいなと誰もが思う素敵な笑顔でした。好き。

3.天彩峰里が作る「濃い」ヒロイン像

今回の作品、じゅりちゃんは出番もナンバーもめちゃめちゃ多く(ソロ3回くらいあった)、夢千鳥の比にならないほど圧倒的ヒロインで、しかもキキちゃんからめちゃめちゃ愛されて、ファンとして超嬉しかった…!そして今回も、演技力をフル活用させた絶妙な役作りでした。不倫をしている若くて可愛い女の子、となると、それだけの女の子というか、下手すれば不健康な感じになってしまってもおかしくないと思うんですが、じゅりちゃんは、ものすごく健康的で、健気で、いやらしくない色気のある魅力的なフランでした。特に愛おしそうにシェルドレイク(和希)からの花束を見つめたかと思えば、一瞬だけ悲しげにうつむいて、一気に哀愁をまとわせる、みたいな丁寧な役作りが本当に良かった。フランの抱いている不倫相手への想いは本当にまっすぐで、観客としてフランのことをいやらしい女性だとは全く感じさせないほど。ただ、相手は本当に悪い男なので(のめりこんじゃう気持ちも分かるけど)だまされないで!!!!と思いながら見ていました。もの凄い特徴のあるキャラクターではないし、何か大きなことをする役柄ではないけれど、観客の印象に残る濃い役作りだったと思います。

劇中何度か流れる♪好きよ~好きよ~愛してる~の歌があるんですが(タカニュで一瞬流れた)、じゅりちゃんの音域ぴったりで、聞いていて心地いい!じゅりちゃんの昭和歌謡好きは、歌に気持ちを乗せることにめちゃめちゃ良い影響を与えているんじゃないかなと個人的に思いながら聴いてました。本当にかわいかった~!!あとポップな色の衣装がめちゃめちゃ似合う!!お衣裳さん天才!!

ちなみに、本当に個人的な意見でしが、じゅりちゃんは彩乃かなみさんみたいな歌うことへの丁寧さ(技術的にではなく、雰囲気として)を持っているような気がしていて凄く好きです。

4.『アーネストインラブ』的な面白さ

どうにかこの作品のイメージを掴んでほしいのであえて言いますが、宝塚で上演されたことのある同じブロードウェイミュージカル『アーネストインラブ』的な面白さの作品だったといえば、なんとなく伝わるような気がします。キャストが役として観客に話しかける構成や、思わずクスッとするテンポの良い掛け合い、膨大なセリフ量、シンプルなセットを補う細かいつくりの小道具の数々。映像化しないのが一層悔やまれます!

5.キキじゅりは素晴らしいという話

正直、キキじゅりでここまでハッピーで幸せで二人にぴったりな作品を目にできると思っていなかったので、本当にうれしかったし、やっぱりキキじゅりの相性って素晴らしいと思うんですが、どうなんでしょうか。二人とも、太陽みたいな明るさと大人の色気を持ち合わせていて、実力も申し分ないと思うので、またこれからも二人中心の作品を見たいなと、強く気持ちを新たにしました。

6.最後に

本当は、いかに和希そらが悪い男(沼)かという話も、まゆぽんありがとうの話も、留依蒔世って凄い、という話もしたいですが、長くなったのでこの辺で。映像化しないのが悔やまれる(2回目)。素晴らしい作品をありがとう。千秋楽まで無事完走することを祈っています!


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