宝塚的ディストピアの完成形として~宙組FLYNG SAPA考察~(前編)

宝塚歌劇 宙組梅田芸術劇場公演「FLYNG SAPA-フライングサパ-」

先ほどライブ配信にて鑑賞しました。あまりにも上田久美子大先生らしい、そしてメッセージ性の強い作品だったので、考察してみたい衝動に駆られ、突如noteに登録。今にいたります。

勢いのまま…書きます!ネタバレ凄くあります。専門家じゃないので、そんなん知っとるわ!、それ違くね?って話ばかりになるかもしれませんが、脳内の整理になれば…程度の気持ちで書きました。(ハードルは下げてくスタイル)

1.ポルンカという「国家」の設定

監視・功利主義・独裁

この物語の舞台であるポルンカ。ここは、1幕の最初に登場した施設の名前が「パノプティコン」であることからも明らかなように、完全なる監視社会です。人々の個人情報(頭の中で考えてることも全部)はポルンカ政府によってすべて集約され、監視されています。この設定どこかで…と思ったら、G・オーウェルの『1984』が有名でしょうか。プライバシー、思想の自由なんてあったもんじゃない。人々から自由を奪い、多様性を排斥、危険思想を撲滅する。それによって「平和」を維持しようという思想ですね。

さらに、危険思想だと判断された人の記憶を消し、場合によっては政府の思想監視兵として働かせる。「平和」を維持するために多くの人が、その人の人間としてのアイデンティティ(=記憶)を消される。このことはポルンカの住民にとっては周知の事実であり、合法的なこと(=良いこと)として実施されている。多くの善良な市民を守るためには、少数のズレた人々を犠牲にしても構わない。最大多数の最大幸福みたいな、功利主義的な思想が表れています。

それを仕切っているのが、科学者で、空気や水のないポルンカで人間が唯一生きていく手段である「へその緒」という端末の開発者です。彼は総統として、ポルンカの決定権を握っている。へその緒なくして生きられない住民たちは、歯向かうこともなく善良な市民として生きている。独裁国家として安定しています。

2.印象的なシーンと3つの問題意識

格差・女性・技術と戦争

総統の回想の中で、ポルンカへと向かったロケット(?)に乗り込めたのは金持ちと権力者と科学者だけだったと叫ぶシーンがありました。このセリフからも分かるように、戦争や紛争で一番被害にあうのは結局社会的弱者である、という基本的なメッセージもこの作品では強く押し出されていたように思います。これってよく考えてみたら、『ベルばら』っぽいですよね。格差や社会的弱者というテーマ、意外と宝塚的なテーマなのかもしれない。現代はベルばらのフランスみたいに、格差がわかりやすく制度として残っているわけではないですが、今の日本も、そして多くの国家が間違いなく格差社会であり、戦争で一番被害にあうのは社会的弱者というのは変わらない問題として残っています。

戦時下・紛争下における女性の性被害、と書くと一気に重たいテーマになってしまいますが…。今回はすみれコード的には扱いにくいこの話題が、物語のカギを握っていました。暴力と恐怖は憎悪を生み、争いにつながる。特にこの作品は、少女を襲おうとする兵士という形で、はっきりとこの女性の人権問題に肉薄していたので、そういう意味では衝撃作と言えるかもしれません。しかもそれをすべて女性が演じる…。考えるのも嫌になる現実を舞台で問題提起するのは、宝塚というよりも「演劇」的でした。

総統が開発したのは、ポルンカでも生活できる身体にするための装置のみ。人々から情報を吸い上げる装置を開発したのは別の科学者で、その装置はあくまでも、医療利用することを想定されていた。誰かを救うために開発された技術が、人を殺す(この作品の場合はアイデンティティを殺すという感じ)ために利用されるという皮肉。軍事と技術革新の密接な関係性の風刺になっていると思いました。

3.キャストについて

オバク/真風涼帆さん

隠しきれない圧倒的カリスマ性、センター感、存在感…。いやはや素晴らしかった。演技力に感服。あの抜群のスタイルが完全に活かされていました。物語の演出上、派手な色やライトは一切出てこない。歌もダンスもほとんどない中で、圧倒的に求心力があって、主人公でした。というか、「男」でした。そして、孤独に苦悩する姿やリーダーとしてふるまう姿がシンプルにかっこよくて、限られたシーンの中でもヒロインや元恋人との関係性が違和感なく入ってきました。上田久美子先生がゆりかさんにこの役をあてがったことに、もの凄く納得。

ミレナ/星風まどかさん

まどかちゃんがいたからこそ、この物語が生まれたのでは?というレベルで似合ってました。というか、まどかちゃんの成長に涙(誰だよ)。元々、歌やダンスに加え演技力もある実力派娘役という印象でしたが、ミレナのようなつかみどころのないヒロインは見たことなかったので、意外だったし凄く良かった…。歌やダンスがほぼでてこないこの公演では、彼女の少女から大人になる演技が凄く光ってました。まどかちゃんの持つ健気さや活発さ、可愛い雰囲気(ロリっぽさ?)が、特殊な設定や近未来的ヒロイン観とマッチしてて、上田久美子先生本当にすごい…。

ノア/芹香斗亜さん

精神科医という設定から優勝してましたが、予想通り色気が爆発していました(急にオタク)。ご本人も仰っていたような気がするけど、物語の中で彼の情報が出てくる場面はほとんどなくて、そんな中でも優しさや理性的な面、彼の抱えた諦めに似た悲しみや人間らしい愛がにじみ出ていて、なんというか好きでした。わかりやすい色気じゃなくて、にじみ出る色気って感じでキキちゃんの進化を改めて感じました。

イエレナ/夢白あやさん

今回の大穴は彼女だったんだという助演女優賞、夢白あやさん。舞台センスがスゴイ。元々カッコいい、大人っぽい雰囲気の方なので、あてがきかと思わせるような役ではありましたが、本当にうまかった…。抜擢されるだけあります。目を引く存在感と演技。ファイナルファンタジーの実写かと思った…。

4.次のノートで考えたいこと

・言葉の選び方について(「ラッキー」「ハッピー」など)

・宝塚らしいエンディングについて

・他キャストについて

・感想

長くなってしまったのでいったんここまで。次回で完結させたい、考察。

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