(プロローグ:第2話) メイビー糖尿

バクバクバクバクッ!

わし、いつものように、ホコリだらけの布団の上で目を覚ます。あれ…いつもはケヒョケヒョの咳払いの音で始まる朝のはずなのに。今日はバクバクバクバク。なんじゃ、バクバクで始まる朝なんて、3歳の頃に見たNHK教育「バクさんのカバン」以来だぞ。

それが、自分の心臓の鼓動の音だと気づいたのが始まりだった。

タバコに火をつけ、まずはPCで、いつものようにツイッターの通知欄チェック。………あれ、よく見えない。目の前のモニターに白いモヤがかかっている。タバコの煙でもない。目に白いカルピスでもかけられたような。目やにのようで目やにじゃない。まるで白い膜が眼球にベッタリはりついてる感じ。

しばらくして、ゆっくり視力が戻り、目の前の白い霧も晴れてきた。さっそく目に飛び込んでくるアンチからのクソリプ。「うるせえバカ」と短く返信。

そして描きかけの原稿に手を伸ばし、漫画仕事スタート。

ん? ……ペンをまず取ろうとしたら、その手がプルプル震えている。指先全部がプルプル。各指にそれぞれ、いろんな色とりどりの可愛いチワワが巣でも作ったのか? あんなチワワ、こんなチワワ、こんにチワワ。ワシの手は、サンリオの商品開発部に乗っ取られたのか?

ところがペンを握ると、手の震えが止まるのですよ庄屋様。ペンから手を放すと、またプルプルと指先のチワワが震え、踊り出す。

しばらくすると今度は、自分の頭部に違和感。ずっと髪の毛がザワザワ逆立ってる感じ。(お、わしも40歳になって、とうとうスーパーサイヤ人になれる年齢か)と鏡をのぞくと、そこには金髪のカカロットなどおらず。いつもの汚い無精髭のオジサンがいるだけ。

や、これは鳥山明先生が描くキャラじゃない。ミナミの帝王のモブにいるキャラだ。「ない袖は振れんのやぁああああああッ!!」って泣いて叫んでる方のキャラですよ。おっかしいなあ、と髪の毛に触る。自画像アイコンではハゲ頭だが、現実のわしはフサフサ。

そのフサフサに触れるたび、頭皮がピリピリとする。頭全体が妙に敏感になった感じ。ワイルドに女性器で例えようかと思ったけど、ここは「鬼太郎の妖怪アンテナがずっと反応してるっぽい感じ?」…というマイルドな表現で。ええ。

そして寝起きだというのに、いきなり身体が疲れている。顔色も悪い。原稿が全然進まない。ちょっと描いては、フゥウウウウ……。オッサンの吐息ほど気持ち悪いものはない。

さらに足先が、なぜか痺れてきた。もともと仕事で座りっぱなしなので、いつもよく痺れがちだけど、今回はつねに痺れっぱなし。まさか、さっきの頭皮の妖怪アンテナは、足元にしがみつく、見えないスト2のブランカでもとらえていたのかと。緑色のアイツを。おまえ初心者とはいえ、電撃コマンド入れっぱなしだな、みたいな。もっと他のコマンド覚えろよ、みたいな。

そして夕食。もちろんいつものように、5分で食べ尽くすつもりで箸を握ったが、なぜか7分後、気絶したように寝ているわし。嫁様に起こされ、知らないうちに寝ていたことに気づく。食後すぐに激しい睡魔。なんだコレ?

さらに尿の回数が増える。1日に何度もトイレに通う。元々コーヒーばかり、もとい、コーヒーでしか水分補給をしない生活が数年も続いており。コーヒーにはそもそも利尿作用と、口を臭くする効能はあるのだが。オシッコまで臭い気がする。

深夜、いつもより早く体力の限界が訪れる。布団に転がり、早めの就寝………と思ったが、またもや聞こえてくる、バクさんのカバンのテーマ曲。

ボクはビーバー♪ なんたってビーバー♪

バクバクバクバクッ!

自分の心臓の音がうるさくて、眠れない。

怖い、怖い、怖い。

飛び起きて、ネットの検索窓に、自分の気になる症状を全部打ち込み、グーグル先生を夕日に向かって走らせるという、メンヘラ女子が毎日やってるアレを、わしが初めてトライ。グーグル先生がわしに差し出した、正解に近い答えは…

「糖尿病」

もしくは

「自律神経失調症」

恐怖で全身がチワワになる。生まれたての西野カナくらい震えてる。なぜなら、わしのお爺ちゃんは、父方も母方も糖尿病で亡くなっておるからだ。

(たぶん糖尿病だよな…)と、震えるチワワのまま、それからも1ヶ月以上、病院に行かないわし。ドクターに「キミは糖尿病だ」と、診断確定されてしまうのが怖い。原稿を届けに行くたびに「その顔色どうしたんですか?」と不気味な顔をされる。帰宅し、鏡をのぞく。冬の日本海の色。

体調不良に対し、それでも病院には行かず、足掻き続けたわしだったが。どんどん遅れていくお仕事。今週は間に合いそうだが、来週はどうだろう。その次の週は無理かもしれない。

そしてとうとう病院より行くより先に、わしは編集部に電話をすることになる。

「1週、漫画を休ませてください…」

(つづく)



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