ウヒョ助日本全国歩き旅 (第2回:高田馬場〜日本橋)

わしの故郷は、北海道の旭川市。

25歳の時に、漫画家になるため上京した。東京に出てきた方が、地方にいるよりチャンスが多いと思ったからだ。なぜなら漫画のお仕事をくれる出版社は東京にある。

プロの漫画家を目指す新人さんが、日本中に大勢いるわけですよ。 さて、遠い北海道から原稿を郵送してくるだけの「顔の見えない新人」と、出版社に原稿を直接持ち込んでくる「見慣れた顔のいつものアイツ」 …編集者は、どっちにお仕事をあげたいだろうか?

2017年 2月末日、まだ夜が明けぬ早朝。

42歳、中堅漫画家に育ったわしは、汚いスウェットに薄汚れたダウンジャケットをはおっただけの服装で、高田馬場の駅前にたたずんでおった。

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急に先週の散歩の続きをしたくなったのだ。

フラフラとコンビニに買い物へ出かけたついでに、勢いで始発電車に乗り込み、前回の散歩でゴールした高田馬場駅に降り立ってしまった。 人に見られたくない汚い格好だが、こんな時間にそれほど人はおらぬじゃろう。夜明け前に歩き出し、町が起き出してザワザワと動き始める前に、サッと家に帰ればいいではないか。

わしが新人時代、日本橋ヨヲコさんという新人さんがおり。同じ時期に同じ雑誌でデビューしたのに、画力はわしと雲泥の差で、すっごく上手。スタイリッシュな絵柄、そしてなによりペンネームの「日本橋」という苗字が、妙にオシャレに感じて。田舎者の自分には、とても東京の香りがする美しい言葉の響き。

なにせ、こっちのペンネームは「ウヒョ助」だ。

そうだ、東京の中心にあるという、日本橋とやらに歩いて行ってみよう!


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地元・旭川を歌った曲を、いまだにわしは1つも知らない。せいぜい「お風呂のデパート、高砂温泉〜♪」のローカルCM曲くらいだ。

でも東京を歌った曲は山ほどある。 遠い雪国の旭川に住んでいても、東京にあるらしい地名や建物ばかりが歌詞に混ざり込み、メロディと電波に乗って届いてくる。

「神田川」

フォークソングの名曲のタイトルにもなった、神田川に沿って東に向かえば、日本橋に近づくという情報をフォロワーさんからいただいた。信じて川沿いを進むが、これが神田川と思い込んでる、自分のことをまったく信用できない。

大丈夫か? これ神田川なのか?


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空がほんのり明るくなってきた頃には、沿道の建物の階数が増えてきた。ビルの背が高い。ここが何通りと呼ばれる通りなのか、まったく知らないくらい、わしは東京のことをいまだに知らない。


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朝日が登ってきた。あっちが東なのじゃろう。

太陽に向かって歩けば、どんどん東京の中心部に近づくはずだ。


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飯田橋の歩道橋から見る朝日。

この飯田橋というオフィス街には「竹書房」と「秋田書店」という、小学館とは違ってガラの悪い、いかつい出版社のビルがある。

わしがお世話になってる、指定暴…違う、出版社さんだ。


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普段は電車で通って、原稿を届けている出版社に、とうとう自宅から歩いてきてしまった。 妙な達成感。

上京してからは、自宅と出版社を行き来するだけで、それ以外の場所にほとんど行ったことがない。上京して20年近く経った今でも、渋谷には3回くらいしか行ったことがなく。 ハチ公像を初めて見た時は、はしゃいで写真を20枚くらい撮ってしまった。

この竹書房から先は、わしにとって未知のゾーンである。


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あの憧れの、江戸城。

皇居も見るのが初めてである。ニュース映像で、全裸の外人が石垣に貼り付いてるのを見たくらいで、実際にそのお堀の周りを歩き、迷子になってる自分に感動。 どこじゃ日本橋は。



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日本橋を目指していて、マンハッタンに着くとは。

この街並みの中、寝巻きのスウェット姿で歩いてる成人は、わしくらいですよ。ハリウッドのコメディ映画か。ポリスアカデミーの光景だよ。まさか世間の出勤時間が訪れるとは。

人の目から隠れるように移動し、やがて見えてきた、憧れの名前の場所。


日本橋。


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あの道路の真ん中にあるパネルが、時の扉。

あれが、日本中の道路の起点になってるらしい。車道の真ん中にあるため、近づいて写真は撮れず。スウェット姿でも、交通法は守らないと。これがもし、わしが全裸だったら行きますよ。どうせ逮捕ですよ。

「起点」が散歩のゴールなのは、いかがなものか?

ここをゴールにして良いものか?

そう、ここからが、わしの旅のスタートですよ!

(つづく)

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