ウヒョ助日本全国歩き旅 (第5回:川崎〜横浜)
多摩川河川敷から、ほどなくしてたどり着いた川崎駅前。
わしの予想では駅ビルの壁全体、クローズの鈴蘭男子高校みたいに不良の落書きが埋まってる予想だったのだが、ごく普通の都会の駅前の景観。
「客引き行為禁止!」という横断幕があるってことは、夜には空気が変わって、キャバクラやエッチなお店に誘う、いかがわしい盛り上がりがあるのじゃろうか。
わしの中で「都会の基準」がある。駅前の繁華街に並ぶ、お店の看板で判断する。「ここらへんが、町のにぎやかさの中心かしら?」という場所を、なんとなくザッと眺めて。
大都会:店舗型の風俗店や、無料案内所の看板がある
都会:キャバクラと中華系マッサージ店がいっぱいある
普通の街:英文字の店名のスナックがそこそこと、パチンコ店がある
田舎町:和名のスナックと、コンビニがある
さびれた田舎町:小料理屋が1、2軒、コンビニなし
地の果ての町:床屋しかない
川崎は完全に大都会。とにかく「わしが聞いたことある地名はでかいに決まってる」という思い込みで、そりゃ見るまでもなく川崎は大都会じゃろ!…と、納得しておったが。
この先も歩き旅を続けた結果(案外そうでもないな。よく聞く地名なのに何もない駅前。まるで芥川賞を受賞して有名にはなったけど、その後ヒット作のない貧乏作家みたいな町…は、いっぱいあるんだなあー)に気づくことになるのだが、それはまた後のお話。
品川からここまでの長い歩きで、ジクジクと足の裏が傷んできたけれども。横浜方面に向かっていけるところまで、とりあえずは線路沿いをもうちょっとだけ歩いてみよう。
鶴見駅。
鶴見…なんとなく地名は聞いたことがある。駅舎はかなり立派で大きいが、先ほどの都会チェックシートで見るぶんには、大都会には程遠く「都会」カテゴリーの中でも最弱。中華系マッサージのお店ばかりがある。おそらく住民の人口だけはすこぶる多く、遊ぶ人は電車で近い川崎まで行くのだろう。大都会の近くに、こういう町は多い。たいがい面白いところは特にない。
足の裏の痛みがハンパなく辛くなってきたので、ここをゴールにして一度帰ろうかなと悩んだ結果「ゴールするには鶴見なんて地味だな…つまんねえ」と、良くも知らない町を脳内でディスり、ヨロヨロと先に進む。
しばらく線路沿いの大きい道を歩いていると、奇怪な駅を発見。
「国道駅…?」
高架下にポッカリ穴ぐらがあり、そこを無理やり駅舎にしてるっぽい。
ゲゲゲの鬼太郎で、サラリーマンが魔列車に乗り込むような駅じゃねえか。怖いよ。もう足の痛みが限界なので、ここをゴールにすることも考えたが、あまりにもこの駅から自宅に戻れる予感がしない。アニメではサラリーマンが、電車の天井に空いた穴から、磯女に襲われていた。それは死ぬ。死にたくない。もう少し頑張って歩いて、先の駅へ進むことに。
でかい道路が空中に何本も走っている。日本の大都会の女王、トランプでいえばクイーンのカード、横浜が近づいてきているのだろうか?
寺に入るためだけの踏切。
お寺の方が、もちろん線路よりもっと大昔からこの土地にあるだろうから。線路引くとき、けっこうモメたじゃろうな…なんて思いつつ眺める。
「いってきまーす!遅刻遅刻!」とパンくわえて自宅の玄関を出て、1歩目のところに電車走るのって、なかなかの強引さ、普通なら断固拒否だぞ。
足の裏の痛みの限界。
どこか座って休める場所を探し、児童公園を見つけ、ベンチに転がり込む。良い歳したオッサンが、オヤジ狩りにあった直後のような体勢でベンチでグッタリ寝ているので、先に公園で遊んでた子供連れのお母さんが警戒している。そんな人の目がもう気にならないくらい、疲れて身も心もボロボロ。
視線の先に、浦島太郎の壁画。
このあたりに、浦島太郎の伝説があるらしい。公園の名前も「浦島公園」
(ああ…海が近いのか)なんて、雲を眺めボンヤリ。
家に帰りたい。浦島太郎も楽しい海の旅の果て、いつかどこかで思ったんだろうな。帰りたい。
日が少しづつ落ちてきて、逆光でよく見えないが「横浜市場」って文字が見えた。初めて「横浜」の文字を見た。目標の横浜ゴールは近いのであろうか。遠くに大きいビル影も見えている。1歩ごとに顔をしかめるくらい足が痛いが、最後の気力をふりしぼり進む。
「えええ、もうここ横浜でしょ!? 見た目、大都会ですけどーッ!?」
と叫んでも、まだ横浜駅はしばらく先。それほど横浜は、ビル街エリアが広いようで。普通は都会といっても、駅前だけがビル街の風景、ちょっと歩いたらすぐに地味な住宅街…ってところが多いのだけれど。横浜は広範囲で、大都会の街並み。
横浜駅が近いのは、線路の先を眺めてもうわかるのだが、足が痛すぎて一歩も動けない。通行人も、今にもウンコもらしそうな顔で欄干にもたれかかってる、ドロドロ汗まみれのオッサンを横目にチラリ、だいぶ気持ち悪がっている。
横浜駅にゴール。
なんで駅舎が工事中なんだよ。しかも地味な駅口前にたどり着いてしもうた。巨大で豪華な駅舎をバックに、ゴールした達成感を味わいたかったのに。なんだコレ?
(ここがわしの生まれた町か)…という感慨に耽るハートの余裕もなく、ヘロヘロな足取りで切符を買い、電車に乗り込む。
見た目がもう、玉手箱を帰り道でフライングで開けてしまった浦島太郎のようになっておるが。早く帰りたいのじゃ。東京の自宅のお布団に…!
(つづく)
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