麻雀業界の錬金術士たち(その1)


 麻雀漫画は打ち切りになりやすい


「連載漫画の打ち切り」が決まる時、何よりも大きい理由の一つが「コミックスが売れなかった時」である。この売れ行きじゃ本を刷れば刷るほど赤字、返本で出版社のビルが傾く、カンベンしてくれ!…という時に「先生すみません…連載をあと3話で終了してもらえないでしょうか?」という泣きの声が編集者からせつなく届くのだ。

出版不況で漫画を買う人達が減り。どのジャンルの漫画本も全体的に売れず苦しい中、麻雀ジャンルは特に厳しい。

麻雀漫画はもちろん、麻雀の好きな人が買うジャンルだ。複雑なルールを熟知していないと、勝負のギリギリの駆け引きの面白さがなかなか伝わらない。麻雀本来の魅力を伝えようとすればするほど、中身が複雑になる。

「ようは玉を、網の中に入れりゃいいんだろ? それさえわかれば十分読めるぜ!」と、誰にも理解が簡単なサッカーやバスケットボールの漫画と比べて、麻雀漫画は敷居が高すぎて、手を出す人はそんな大勢はいないのだ。

どんな漫画もコミックス1冊あたり、1万部売れていないとかなり厳しい。
10万部売れれば表彰ものだ。

しかし現在はそのラインを超えるのはなかなか難しく。特に麻雀漫画は客層が狭くもっと厳しいので、たいがいがコミックス2巻くらいで連載が打ち切り終了したり、時には途中からコミックスが出ないことも多いのである。


わしが大昔に描いた麻雀漫画で「卓上のコビト」という作品があった。

いまだコミックスになっていない。一部の麻雀ファンに、マニアックな人気があった作品だ。わしもお気に入りであった。


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この漫画は、わかりやすく言えば「麻雀漫画版:ジョジョの奇妙な冒険」である。自分が飼っている「小人」を卓上に放ち、その小人の能力でイタズラをすることで、麻雀勝負において有利に戦う「コビト使い」同士のバトル漫画である。

例えば…

「ピンズの穴を増やすコビト」がいたり

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「配牌の図柄をまるごと貼り替える」とんでもなくチートなコビトがいたり

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「相手の手牌を固定する」
…そんな嫌がらせをしちゃうコビトもいた。


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他にも「ドラ表示牌を小槌で叩いて、違う図柄に変えるコビト」「相手の舌にからみつき、ポンチーを言わせなくするコビト」などなど、いろんな能力のコビトが出てきて楽しかった。

しかし、画像を見れば皆様にもおわかりであろう。
絵が下手な上に、コビトのデザインが気持ち悪かった。

コミックスが出ないくせに、主人公が3回変わり、第2部まで続いたという謎の作品だったが。本にはならず、お蔵入りである。でも仕方ない。あまりにも読者を選んで、本を刷っても売れなそうだからだ。

もしも今「作画の漫画家を、可愛い絵柄の作家さんに頼めば」ワンチャンあるかもしれない。惜しい作品であった。

わしはその作品の打ち切りを告げられた時、文句は言わなかった。
心の中では悔しかった。愚痴も長々と言いたかった。
でも我慢した。
出版社側の苦しい事情や、自分の力不足も痛感していたからだ。

打ち切りになった時、グダグダ文句を言ったりすると(この漫画家、面倒臭いな、もう一緒に仕事したくないな)と編集者も思ってしまうだろう。わしならそう思う。漫画家の替えなどいくらでもいるのだ。

その後しばらくして、鉄鳴きの麒麟児シリーズのお仕事をいただいたのも、この時の引き際がきれいだったからかもしれない。


さて、現在描いている「鉄鳴きの麒麟児」および「キリンジゲート」

連載が8年と長く続いてはいるが、まったく売れていない。
おそらく赤字ギリギリであろう。

なぜ持ちこたえられているか。
おそらく大きい2つが

「原稿料を下げている」
「作者がもらえるコミックス印税も下げている」

かと思われる。
そうじゃ、みずからわしは取り分を下げているのである。

原稿料に関しては、麒麟児の連載が始まる前に「他の漫画家さんの原稿料が高くて苦しいので、かわりにウヒョ助さんを下げていいですか?」という、他の漫画家さんは言われたことがないであろうセリフで、原稿料を1ページあたり2千円下げられている。年間に直すと100万円の損失である。

しかし、それで連載がもらえるならありがたい。

さらにその編集さんが、打ち切り回避のお願いをしてくれたおかげで、その後も長く続いている作品である。その原稿料のおかげで、幼稚園児だったムスメが中学1年生まで大きく育ったので、まったく恩しか感じていない。

しかし、麻雀最強戦の賞金300万円のうち、100万円はわしの金だと思っていただきたいっ!!
あれはきっと、わしが下げられた原稿料の分だ!

最強位は全員、わしの漫画を買うように。
たとえ部屋がせまくても。


そして次は「コミックス印税」である。

普通、コミックスが1冊売れるにあたり、作者へ入る印税は1割。
本の定価の10%である。
700円の本なら、70円。

しかし、わしは3%まで下げている。
下げた分を出版社の取り分にまわせば、赤字のラインが下がる。
より長く連載を続けることができるのだ。

飯田橋の海鮮食堂で、編集さん、そして闘牌監修の渋川プロとメシを食べている時にコミックスの値上げを提案された。コミックスを毎回買ってくれる固定ファンはいるので、値上げして窮地を乗り切ろうという、ごく普通にあるような戦略である。

しかし、わしは「さらに印税下げてもいいから、読者さんの買いやすい値段にしてあげてほしい」とお願いした。印税0でも構わない。連載さえ続けば、原稿料は入るし、何より漫画で描きたいことを最後まで描き尽くせるからだ。

そんなこんなで、ギリギリの中で連載は続いている。
本当に麻雀漫画は、読者さんが買ってくれる1冊の重みがでかい。

その1冊が、連載を続けさせてくれているのだ。
編集さんの温情もかなり入ってる。
作者に入る印税などは、問題ではないのである。

この場を借りて、買ってくださった皆さん、ありがとうございますっ!!


…さて、ここまで「麻雀漫画の厳しい現状」を語ったのは、これからノート記事でテーマにしたい「麻雀業界の錬金術士」たちの話につながるからである。

特に次から語りたい「とある麻雀漫画の打ち切りから始まった、クラウドファンディングの醜い話」において、基本情報として知っておいてもらいたい話だったからだ。

よいか、おまえら。
皆の衆。

この先の話はフィクションだからな。
実在する人物や団体、麻雀プロなどは一切関係ない話である。

フィクションだからなぁああああああああーーーーーーーーーーーっ!!

よって次回「女流クラウドファンディング」の話!!

そして、そこから派生する「転売屋の麻雀プロ」の話をのんびり語りたいと思う。作り話として楽しく読んでくだされい。

(つづく)

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