麻雀業界の錬金術士たち(その4)


編集部にウヒョ助への抗議


「お金があるところには、必ずいる人です」

まだわしが、その女流プロのことを、よく知らなかった頃。
麻雀業界にとてもくわしい方から、いきなり聞かされた人物評だった。

麻雀の話より、そっちが先に出てくるくらい、お金好きで有名な人なのか?そんなわけはないだろうと、彼女のツイッターをのぞきに行った。

彼女はその日、ホリエモンさんと会っていた。
それがハチルダさんであった。

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さて…わしが女流クラファンに6000円を支払い。
支援者の立場で、大真面目に質問をさせてもらおうとしたところ、いきなりのハチルダさんからのブロック先制攻撃。

一言も会話をしないまま、一方的なブロック。しかしお金はちゃっかり受け取っている。これはさすがにツイッターがザワついた。やり方が、たとえウヒョ助相手でもひどすぎる、と。

2016年の話である。

その年始め、わしは天鳳位にブロックされた。その時はお互いに会話があって、喧嘩ムードから派生したブロックで自然な形だったが。今回は会話すらないのだ。天鳳位とモメたことで、わしを攻撃してたアンチたちにまで、さすがに可哀想だ、売れない漫画家とはいえバカにされすぎだろ…と同情された。

元から彼女は、あまり評判は良くない人だったのだろう。
ハチルダさんの韓国サッカーばりのラフプレイにバッシングが集まり、表でそれをいえない業界関係者は、DMで日頃の愚痴を伝えてきた。


そんなころ、編集部からわしに連絡が入った。

社内の人間から、編集部に抗議が来たんです。
 ウヒョ助をいつまで野放しにするんだ?
 責任が取れるのか?…という内容で」

「責任…どういうことですか?」

「やあ、全然わかんないです。
 その人は以前は漫画編集部にいた社員なのですが。
 ウヒョ助さんも知ってる人かと…。」

「あ…わかりました!
 わしが直接聞いてきます。


すぐに誰かわかった。
クラファン応援サポートメンバーにいる、元担当編集だ。
今は漫画編集部ではなく、違う部署に異動していたらしい。
DMで直接、問いかける。


「わしの責任って、なんですか?」


ストレートである。
直接わしに来られて、かなり社員さんも、とまどっている様子。

話を聞くと、どうやらハチルダさんを嫌いな人から届く、わしへのたくさんのリプの中で。彼女がゲストでよく通う、オンレート雀荘に関わる発言をしてる人がおり。その人と会話をしていたログを消して欲しいという内容だった。わしは当時、もらったリプに全部返すスタイルだったので、相手の話に合わせて「じゃあ直接、雀荘に取材に行こうかなw」などと話していた。

「うちの漫画雑誌は、雀荘からの広告収入がとても大事で、雀荘とのトラブルはマズイのです。何かあったら責任を取れますか?」…という内容だった。

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「だったら連載切れ、この野郎」


言ってしまった。

なんで、ツイッターでもらう他人からのリプまで、わしが責任持たないといかんのじゃ。そこまでの会話はしとらんわい。

もっとストレートに「ハチルダさんのクラファンの話題はもうやめてください、後ろからケツ叩かれてキツいんです」って言えよ。6000円払ったあげく、ブロックされて、さらにわしの仕事まで奪うのか。おお、やってやるわい。戦争じゃ!

わしには逆効果だぞ、その圧力。

その漫画雑誌に麻雀漫画を連載してるから、恩がある人たちや、仲よい人たちに気をつかって、こっちはおとなしくしている。その鎖が外れたら、えらいことになるぞ。雀荘じゃなく、管轄の警察に取材だ。「またあの漫画家が来た」になるだろ。やらないよ。

しかも抗議された編集部もキョトンとしてるじゃないか。
その裏工作、全部、失敗だぞ。

泣きが入ってきて可哀想になってきたので、確かにまあ立場的に板挟みでキツかろうと「じゃあ、わしのリプだけ消しますけど、フォロワーさんの発言は消えませんよ?w」と、そこだけはお願いを受け入れてあげた。やる意味あるのコレ?…と首かしげながら、ツイ消し。さあこれでよし。

いっくぜえええええええええ、ハチルダ叩きを加速ッ!!


わしが鳴らす太鼓で、さらに「このクラウドファンディングどうなの?」の話題が加熱。わしはこういう「祭りの盛り上げ」が上手である。さすがに今回ばかりは「ウヒョ助だまれ!」の反論の声が一つもなかった。そりゃそうだろう。

ハチルダファンも、プロ団体の中の人も(ハチルダさん、そのブロックはまずい…!)と、頭を抱えていたようだ。あとあと聞いた。わしはずっと真っ当な疑問を、ボソボソつぶやいていただけである。


そんな中、クラウドファンディングの集金期間が終了。

80万で作れる本に、320万円以上のお金が集まった。
4倍の予算である。


普通、クラウドファンディングでお金が集まりすぎた場合は、支援者にお礼の追加をすることにお金を使う。目標は金集めではなく、語った夢を、その資金援助でかなえること。余った分を懐にしまっては、悪い商売をしたい奴らがいっぱい参入してきてしまう。プロジェクトをのぞいてくれた、支援者だけではなく全員に、何にお金を使ったか説明する透明性が大事なのだ。

すごい当たり前の話をわしはしていたのだが、ブロックされた。
不透明じゃないと困る理由があったのか。

麻雀業界はかねてより、内輪の金稼ぎでそういう不透明な怪しい商売が、常に見え隠れしていた世界であった。当時はせまく風通しの悪い業界ゆえ、まわりも怖くて偉い人にツッコめない。そこに甘えてきていた。

しかしクラファンは麻雀業界だけではなく、大勢のいろんな業界の人がのぞく。いつものノリじゃすまされないのだ。

なあ〜〜〜〜〜〜にが、麻雀卓を買う!…だ、馬鹿者が。

応援ゲストへのギャラも、イエローさんは「ありません!」とハッキリ言っていたが。同時にハチルダさんが「交通費や、雀荘への場代を差し引いて、それで残ったわずかなお金を4等分…」などと余計なことを言い出して「どっちだよ!」と、さらにザワつかせる。

グッダグダであった。


そんなこんなで、謎をいっぱい残したまま、320万円の金は生まれた。
2016年の夏の終わりのことであった。

あとは本が完成するのを待つだけである。
4倍の予算で、どんな豪華な本ができあがるのか?
これはもう、ワニ皮の表紙に違いない。黒光りしてるはずだ。
みんなが期待した。

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彼女たちは考えた結果、布製のブックカバーをつけることに決めたようだ。

全員がズッコケた。


哀れな支援者たち


2016年9月。
320万円をその手につかんだ、女流たちの本作りが始まった。

大好きな女流4人に大金をぶち込んで、忠誠と愛の証明を見事果たした、追っかけファンのオジサンたち。特に彼女たちが講師をしている麻雀教室「レッドチキン」に通っていた大勢の生徒は、達成感にウットリしていたであろう。

そんな彼らにご褒美のように、彼女たちから驚く吉報がもたらされた。
わしも驚いた。


ハチルダ 「私、結婚します!」
イエロー 「私も結婚します」


追っかけファン、全員ポカーンである。

数万円、時には10万円をこえるブッコミをした彼らである。
そのお礼の返事が「結婚します」である。
クラファン前から、長く交際していた男性とである。

「幸せになりまぁああああああああーーーーーす!!」

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わしは笑った。
ファンには悪いけど。
可哀想だけど、大笑いした。

こんなことあるのか。こんなえげつないことがあるのか。

結婚式は、クラファンのすぐ後、その秋には執り行われていた。
幸せそうな女流さんのウェディングドレス姿が、ツイッターに流れる。

結婚式の資金を集めてたのではないか?」
クラファンの前に発表したら、金は集まらないもんな」

などと、えげつない野次もあちこちから飛んでいたが。
さすがにそんなわけはないだろう。
失礼な!

年が明けた。

本作りの進行を伝える支援者へのメールが、全然届かなくなる。どうやら漫画家さんが、追加分の新しい原稿を描かずに日々ダラダラしているらしい。女流たちもどこかあせっていた。

1年経っても出来上がらない本。

まったく同時期にクラファンをスタートさせた、ホラー漫画の自費出版のプロジェクトもあった。わしはそちらも参考のため、支援をしていた。女流漫画の半分もお金は集まらなかったが、カラーページもいっぱいの、かなり立派な本が出来上がり、わしの手元にすでに届いていた。

2018年が近づいてきたが、まだ女流漫画の本は完成しなかった。
みんな、そんな漫画があったことも忘れかけていた。


そんな頃、ハチルダさんは、まだ生き残っていた自分のファンに「自分が出演する演劇公演のチケット」を売りさばいていた。

けなげなファンが、頑張ってまたお金を注ぎ込み始めた。
おそらく意地である。
というより、チケットを買わない、なんて言いづらい。
特に教室の生徒は、買うしかない。

そしてしばらくしてハチルダさんから、またもや驚きの吉報がファンにもたらされる。

「妊娠してるので、大事をとって降板します」

急に妊娠がわかったわけじゃない。舞台関係者は、ずっと前から相談を受けていたことをツイッターで語っていた。ハチルダさんが必死にチケットを売りさばいている時期である。降板をほぼ決めていながら「買って私の舞台、見に来てね」とファンや生徒にチケットを売っていたのである。

しかしその後も悪びれることなく「私と一緒に演劇を見にいくオフしませんか!」と、さらにまだチケットを売ろうとしていた。

さらに麻雀教室「レッドチキン」の4人は、オンラインサロンを始めた。プライベートな話を聞けるらしい。まだ心の傷が癒えない追っかけファンたちは、なんでさらに銭払って、新婚夫婦のイチャイチャを聞かされなくちゃいかんのだ。


「ハチルダこいつ、すげえ…!!」

わしにリスペクトに近い感情が生まれ始めた。
ここまでガツガツ生きられるものだろうか。


そして2018年、本がやっと完成した。


わしの手元にも届いた。十分に良い出来の完成度であった。
ただ、クラファンが2016年なので

2年も時間かけて、これ?
320万円使って、これ?

という感想はいなめなかった。
しかし残念な出来ではない。彼女たちにとっては「独身時代を懐かしむ、素敵な記念品」になったはずだ。ファンのお金で。

まわりから疑問や批判の声があった部分は、すべて理解できたようで。全額をしっかり、本作りやお礼で使いきった。運営から大雑把なお金の使い道の内訳が発表された。それが正しいかどうかは別に問う気はない。タテマエでもしっかりしてくれると、応援してくれた仲間や団体に迷惑がかからない。それだけが嫌だったのである。

てか、ちゃんと言うこと聞くなら、最初からそうしろ。
何のためのブロックだったのだ、アレは。

本が無事に完成し、支援者全員にしっかり届いたことにより、クラファンに関わる物語が終わるかと思っていた。しかし、追っかけファンの苦難はまだ終わらない。


女流4人の中で唯一独身だった、ロシア美女っぽいシベリアンハスキーさん。今まで静かだった彼女が追い討ちをかける。

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「麻雀プロ、引退します」

本の完成とほぼ同時に、引退宣言。ファンの前から消える宣言だ。

女流プロ講師4人の「麻雀普及活動」を応援したくて、今まで金の注ぎ込みを頑張ってきたのではないか。彼女たちも「お金が余ったら、麻雀普及活動に使いまーす!」と浮かれていたはずだ。しかし引退。結婚発表以上にズコーーーーである。


そしてさらに、最後の核爆弾がファンに落とされた。


「麻雀教室レッドチキン、解散します」


麻雀教室、丸ごと消滅してしまった。
レッドチキンのオンラインサロンも放置である。

ここまでボロボロになった追っかけファンを、アイドルファンの世界でもわしは見たことがない。しかしそれでも純朴なファンは、彼女たちの新しい麻雀普及活動を応援するつもりで身構えていた。

意地の極致!

特に、レッドチキンのボスである、タンドリー華子さんが、新しい動きを見せてくれることに期待していた。彼女だけが期待だった。

そんな時、タンドリー華子さんの口がとうとう開いた。

「カレー屋をオープンします! 食べに来てね!」


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腰が抜け、福神漬けが床に散らばる。
ビンに詰めたスパイスを片手に、笑顔のタンドリー華子。

彼女たちがアピールしていた、麻雀普及活動とはなんだったのだろう?

そのカレー屋は、今。
香辛料の風味が消えるよりも早く潰れ、消えた。


そして1冊の本だけが残ったのだ。

夏草や、つわものどもが、夢の跡……



ハチルダを超えた旦那


振り返れば、楽しかった2年間のクラファン騒動であった。
わしの連載も消えてはいない。

しかしその間、麻雀界隈のゴシップを追い続けるスペネコスポーツは、ハチルダさんとは別の獲物を追いかけていたようだ。

「ハチルダの旦那、調べれば調べるほどやばいですよ」


スペネコさんが語った。

ハチルダの旦那は、彼女とは別のプロ団体に所属する麻雀プロ、若いながらも執行部の偉い人である。プロフの写真を見る限り、なかなかのイケメンだ。麻雀強いかどうかはわからない。

ちょっと気になるのが「お金を持ってるぜ」のイキリが鼻につくことくらいだろうか。まわりの後輩も、けっこう高いメシを食わせてもらっているらしい。何か本業があって、そちらで商売的にも成功されているのであろう。あのハチルダが惚れた男だ、そりゃたいしたものだ。


わしは基本、特に喧嘩を売られないかぎり、ほとんどのことはスルーする。クラファン騒動の時も、のちに自分の妻となる女流プロとモメているわしに対し、特に悪口を言うことも、ブロックしてくることもなかった。ならばこっちも放置である。

しかしこの旦那、一つだけミスを犯していた。
スペネコさんを無意味にブロックしてしまったのだ。

そのせいで、スペネコさんが「何の職業で稼いでるんだ、この人?」と、急に興味を持ち始めた。鼻をヒクヒク。こうなると、あの禍々しいモンスターは止まらない。それが旦那の災難の始まりであった。


「ブロック」は、しつこくリプしてくる荒らし以外、むやみにしてはいけないのだ。最大の挑発なのである。わしもスペネコさんも「人に話しかけないスタイル」…放置してれば無害な昆虫なのだ。

スペネコスポーツが、ハチルダの旦那の過去を掘り始める。そしていっぱいめくられてくる、おぞましい過去。


情報商材、占い師、怪しい仕事の相方、買い占めた商品を積んだ白いワゴンに埋もれる写真、そして彼が発売した本「転売のススメ」…。

それはまた、別のお話。

クラファンの話でおなかいっぱいになったので、とりあえず今回はここまでにしておこう。

3人の錬金術士の、最弱を紹介するだけで終わってしまった…!

(おわり)


ご機嫌がよろしい時、気分で小銭を投げていただくと嬉しいです。ただあまり気はつかわず、気楽に読んでくださいませませ。読まれるだけで感謝です。