Mリーグ放送席観戦記(コバミサ無双編)


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2020年、10月5日。

この日、Mリーグの3年目がとうとう始まった。
大事な大事な開幕戦である。
スタートでいきなり、コケることは許されない!

ならば実況解説はもちろん、この二人。
安定の〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ


小林未沙!
土田浩翔!

ツッチーの解説が安定してるかどうかは、大モメの議論になりそうだが。しかし実況者に関しては、まったくの異論も心配もないであろう。

彼女にまかせれば、すべてが大丈夫!!
我らのコバミサじゃ!!


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雷電 vs 麻雀格闘倶楽部 vs 風林火山 vs サクラナイツ



第1試合目のカードは瀬戸熊、高宮、内川、二階堂。

瀬戸熊さんの入場アナウンス。

一瞬だけ「50歳のフシュ…節目を迎えた」チョイ噛みしたコバミサ。
どうやらこの日、熱闘Mリーグ取材陣によるコバミサ密着取材が入っており、舞台裏はあわただしかったらしい。

しかしわしら視聴者は、何も心配はしていない。

なにせ麻雀ファンに実況の神様と呼ばれている、コバミサこと小林未沙なのだ。おそらくこれが、最初で最後のちょいミスであろう。


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さあ始まった、開幕戦の東1局。

いざ試合が始まると、さすがのコバミサ、舌が日立の扇風機のごとく軽やかに回り始める。

これこれこれ!
そうだよ、これだよ!この声だよ!

Mリーグファンにとっては聴き馴染みのありすぎる、おふくろのような声。コバミサの声を聞いて初めてわしらは「Mリーグが開幕したのだ!」と、やっと胸が躍り始めるのだ。

瀬戸熊さんがサクッとアガって、続く東2局。
ここでコバミサ実況の、独特な表現が飛び出す。
二階堂さんが瀬戸熊さんから8000点をアガった、その刹那である。

「東1局の瀬戸熊の稼ぎを
 亜樹が、かっさらっていきます! 」


…よくこんな言い回しが、牌を倒した瞬間に出てくるものである。お給料をすべて握ってることで有名な、暴君の奥様を思い浮かべ、ファンはついニヤリとしてしまう。

東3局
ツッチーにより「麻雀は何があるかわからない」という、聞き飽きた、よくありがちなトークへと運ばれる。しかしコバミサは、そこに一言を添える。

「皆様も、筋書き無きストーリーを楽しんで頂ければと !」


ううむ、美しい。
ありがちなマグロの刺身に、紅葉を1枚添えるだけで、一瞬で懐石料理である。



南2局では、ツッチーから「振り込むからこそアガれる」という、雀鬼流っぽいオカルトトークをかまされるも。

「面白い考え方ですねっ」

と、否定も肯定もせず、上手に受け流すコバミサ。
テレビ番組の食レポ、腕のあるタレントさんが料理の感想を言いづらい時に「面白い味ですね!」とかわす、あの手法である。お見事である。
ツッチーのオカルトトークが大好きな視聴者と、苦手な視聴者がおり。かなり扱いが難しいところだが、コバミサは誰も傷つけない。


南3局、高宮さんの配牌に、ほんのりと大三元の香り。
開幕試合での役満チャンス。盛り上げたい場面で、コバミサ節が炸裂

「やぁ〜〜〜〜、チュンは今、誰も持っていません!
 高宮のところに来ると、本当にあるぞぉ、大三元!
 格闘倶楽部はアガってますからねー
 1年目! ファイナルで!
 チームメイトの前原が!
 縁のある役満かもしれませんよぉ〜? 」


すげえな。
よく記憶のメモリーから出てきたな、そんな2年前の情報。どこにもメモってないでしょ、それ。喉にオリーブオイルでも流し込んでるのかってくらい、ひっかかりもなくスラスラと。郷土博物館の案内ロボットか。怖いくらいである。

この局、内川さんから、親リーチ。

誰も立ち向かえず一人旅。ツモ切りを繰り返す親と、黙々とオリる3人。
特に説明すべきことがなく、変化がまったくない場面が続く。
実況解説が一番困ってしまう場面である。
並の実況者なら、沈黙に次ぐ、沈黙である。

しかしコバミサは沈黙の間を開けない。
画面に大きく映った、ウッチーのイケメンフェイスに合わせてすかさず

「カドカワ サクラナイツ!
 昨シーズンは、初参戦ながら、ファイナルに進出っ!」


上手い!
プチ情報で、4秒も稼いだ。
さらにここで解説者のツッチー、コバミサに合わせて続く。

土田「裏 乗るかなあー?」

コバミサが、それに対して最高の返し技を見せる。

「…どうですかぁ?」


これは上手い…!
これには震えた。天才としか言いようがない。
この凄さ、おわかりだろうか?

裏が乗るかどうかなんて、誰にも答えられない。
もし解説者が小林剛プロなら、フッと小さく微笑んで終わるところだ。勝又先生なら「それは、わかりません」と短く、呆れたように返す。なのでコバミサは、この二人や他の解説者には、絶対にこの返しはしない。

しかしながら、今宵の解説者はツッチーなのである。

「裏が乗るかどうかのオカルトトーク」を唯一できる解説者なのである。
ツッチーにこのテーマで好きに喋ってもらえば、かなりの時間を埋めることができる。それを見通しての「どうですかぁ?」なのである。すごい。ツッチーも空気を読んで、それに合わせてトークを繰り出す。

天才実況者と、ベテラン解説者による、阿吽の呼吸。
芸術的な協力プレイ
である。
ツッチーは、もっと評価されるべきである。
ツッチー1人にしかできない、役割がある。


続く、南1局1本場。

全員の手が進まず、ジリジリした重い展開のまま、終盤。
こういう時にコバミサの得意技が出る。

「選手の表情を、視聴者に言葉にして伝える」
…という、簡単に見えて難しいテクニックである。

「もぉおおおおお〜〜〜〜〜ん!
 …て、顔してますよね、亜樹も 」

「ちょっと他の選手も
 時間をとって、首をひねって
 なんだかなぁーって雰囲気、出てますよねぇ」


これはコバミサがよく使う技である。その後の局でも「苦しそうに8mをチーしていきます!」「ググッと力がこもります瀬戸熊ぁー!」などなど。カメラが一瞬だけ拾った選手の表情、それをアクションの表現に加えるだけで、何気ないシーンが急にドラマチックになるのである。

そしてとうとう迎えた、1試合目のオーラス。
内川さんの配牌を見て

「一見バラバラの手牌に見えますが
 化けるかもしれないぞっ!」

これは遠くに見えている、チートイツのことである。
クソ配牌をクソ配牌の感想で終わらせない。これぞコバミサ。

そしてオーラス1本場、ここでまたコバミサは、わしをうならせた。
リーチかダマかの判断を、解説のツッチーにたずねた場面でのセリフ。

「やー、どうなんでしょうねえ、コレ。
 全30人のMリーガーの内
 どういう選択をする人が多いのか…?」


そうだよ、もう29人じゃないんだよ。忘れてた。
Mリーガーは30人なんだ。
堀プロが加入して、今シーズンからは30人だったんだ。

みんなが気づいてないかもしれない数字を、さりげなく会話に混ぜてくる。わしもこれのおかげで気がついた。ですよですよ、30人なんですよ。開幕戦の第1試合が終わる前に、視聴者に伝えておきたいキーワードを自然にはさんでくるコバミサ。この気配り。さすがである。

その後の言い回しも、独特で面白い。

「うーん、うさんくさい牌がきたぞ!?」
「閉店しますか? …閉店しましたっ!」
「亜樹選手、素晴らしい危険察知能力を見せました!」


トップは二階堂さんで、1試合目が終了。

第1試合目から、細かい実況の小技が光りまくるコバミサ。
2試合目に入り、さらに神様の調子が乗ってくる。

第2試合目のカードは
勝又、岡田、萩原、藤崎

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各選手が入場を終えた後、ツッチーが「それぞれが、それなりに思いがこもった顔してましたねえー」という、何かを説明をしてるようで、まったく説明できていない雑なセリフをぶっこむ。「駐車場で猫たちが、それぞれ眠そうに寝てますね」くらいパッとしない。

しかしそこはコバミサが、間髪入れず、続けて上手に合わせくれる。

「 決意の表情!
 興奮の表情!
 さあ!
 どのような気持ちを抱えて、今
 卓に座っているのかーっ!? 」


コバミサあんた、吟遊詩人か。
本当に毎回、よくそんなセリフ、いきなり思いつきで口からハープの音色のごとく、ポロンポロン出てくるもんだなと。

東1局。

「あっと、岡田です! 急所が埋まった!
 厳しいところをズバリと引き入れました!」

独特のコバミサ表現。
他にも「これしかないっていう牌を〜〜〜」などもある。


東2局。

「女子選手ラッシュが始まるのでしょうか!?」

決してMリーグでは「女流プロ」という言葉を使わないコバミサ。呼び方は、女子選手男子選手である。女流という言葉を使うと、じゃあ男性はなんて呼べば良いのか。そういう曖昧な表現は、しっかり避けていくコバミサ。丁寧で、さすがである。

さらに「山読みを鍛える秘訣」というテーマで、ツッチーが
「よく、フを見ることですね」
という語り出しで回答を始めた。

そこはコバミサ、すぐにフォロー。

「 フ… 牌譜ですか。 記録。」


視聴者に、意味が伝わらない恐れがある語句には、すぐに追って説明を短く足すコバミサ。そしてツッチーのトークを止めることもなく、邪魔もしないフォロー。
こういうところも、お見事なのである。

東2局、1本場。

ここでまさかの、卓トラブル。
試合が一時中断されてしまう。
放送席に画面が戻り、何かを喋って、時間を埋めなくてはいけない場面。

ここでツッチー。
「卓のご機嫌が悪いのでしょうね」
という楽しいオカルトトークで、その時間を埋め始める。
上手い!
こういうところが、本当にツッチーの便利なところである。
長年、多くの放送で解説を務めてきた、さすが経験深いベテランである。トラブルには慣れっこなのだ。


さらに、コバミサも上手い。
卓トラブルが解消されるかな?…のタイミングで

「ちょっと今ですね
 麻雀卓がビックリしているところでございまして。
 えへへへへっ♪
 特に大きなトラブルにはなっていない模様です。
 おそらく、まもなく再開すると思われます!」 


うむ、可愛いっ!
楽しいムードを生み出す、コバミサスマイル。
笑顔に続いて、現在どういう場面で試合が止まっているか
何局目で、誰が親番なのか、などなど状況を丁寧に伝えるコバミサ。


東3局。

ここでコバミサ、小さなミスを犯す。

「萩原、自分の手牌を見つめ
 ちょっと首を傾げた。
 んー? イマイチなのかあ?」


ツッチーが「いやいやいや、そんなことないでしょ!」と返す。
それにコバミサも「うん、そんなことないですねえ」と返す。

なにせ、そんなハギーの配牌は、2シャンテンである。
ここで、コバミサにはぜひ覚えてもらいたい。

ハギーは好配牌の時、首を傾げる悪い癖がある。


配牌にドラアンコの時などは、腕を組んで困ったように空を見上げる。
お願いだから、触れないであげて欲しい。

よって、厳密に言えば、コバミサのミスでは全然ない。
ただただ、ハギーが悪い。


東4局、1本場。

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岡田さんの悩ましい場面。
ドラドラ赤のチャンス手。
引いてきた3sを大事に持って、99pや89sの愚形をほぐしていきたいところ。
元・麻雀プロであるコバミサも、それをよくわかっており

「使い勝手の良い3ソウ!」

と、表現。
結果、岡田さんは89sのターツを残し続けていたのが、あまり上手くいかない展開で、残念ながら流局。視聴者によっては、ミスに見えたかもしれない。

ツッチーが「麻雀は理屈じゃないし、正解はわからないから」とフォロー。
その一局では、どれが正解かはわからない、という話。
続いてコバミサもフォロー。

「100回やったら…ねえ?
 どちらが正解か。
 収束してくるかもしれないけれども。
 この1回ではどうなんだ〜〜〜!?…ていうっ」


イマイチ伝わりづらいが、必死にフォローしてるのだけは伝わり、ホッコリ。
この二人は誰も傷つけない。
ただしツッチーは、たまに日吉さんだけ傷つける。

南1局。

「ダマテンにすることを
 『 忍者する 』って言うんですね!?」

と、ツッチーのネタに乗っかってあげる、コバミサ。
そして藤崎プロにテンパイが入る。
ダマかリーチか。
藤崎さんならダマにするのかな?…の場面。

「忍者するぅ?」


ちゃんとツッチー用語を一度は使ってあげる、優しいコバミサ。
ツッチーのネタを決してスベらせない。
最後までネタに乗っかってあげる、まるで老人介護である。


南1局、3本場。
ここで、ツッチー&コバミサが、ミラクルを起こす。

「アガっても盛り上がらない手役はあるか?」というテーマで談笑、そこでチャンカンはどうだろう?…という話に。

そこでコバミサ「チャンカンは盛り上がるんじゃないですか?」という予想をして

「たぶんまだチャンカンは
 おそらくMリーグで
 出た記憶はないですけれども。うん。
 楽しみですね、いつ出るのか。」


と、この話題をシメたのである。

これがのちに11日後。
茅森さんのアガリで、初のチャンカンが出現するのである。

この時のコバミサ予言を含めて、もちろん大盛り上がりとなった。


勝負も佳境、南3局!

ゲームの盛り上がりのピークで、コバミサの凄腕もピークに達する。

「さあああああああ!!
 女子選手の連勝となるかっ!
 昨年、辛酸をなめたEX風林火山の連勝となるかっ!
 あるいは、雷電!
 格闘倶楽部が割り込んでくるかぁーっ!?」


ノリノリでコバミサ節が大炸裂。
勢いでこんなセリフが出てくることにも驚きだが、噛まずにスラスラ言えてしまうのが恐ろしい。台本あっても噛んじゃう日吉さんなら、6回噛んで舌を噛み切っている。

最終決戦、オーラス2本場!

さらに、ハイボルテージで舌をまわすコバミサ。
コバミサ本人も楽しみ、試合の盛り上がりも最高潮。
藤崎さんのダマ12000点のテンパイを前に

「うわああああああああああーっ!!
 ニンニンッ!!
 ニンニンッ!!
 ニンニンきましたぁ!!
 ダマテン! ダマテーーン!!」


コバミサ大絶叫である。
最後の大接戦に熱くなっているであろう、視聴者の熱度に実況も合わせていく。最後の最後まで、構成がお見事すぎる。オーケストラのようだ。

トップ目の岡田、それを追う勝又、藤崎の三つ巴の勝負は
勝又先生のツモアガリで決着!

「最後、ラスト1枚をつもったのは勝又でしたーっ!!」

コバミサの声が跳ね上がる。
最後の最後まで、これぞ実況の神様・コバミサという素晴らしさで、開幕戦の2試合が大成功、無事に幕を閉じた。

…かに見えた。

「EX風林火山、2連勝というー!!
 …失礼。 すみませーんっ!
 400点届かないっ!」


コバミサ、岡田さんのトップを、勝又先生のまくりトップと勘違い。

コバミサ、最後の最後で放銃っ!!

…惜しい!

しかし開幕戦のおよそ3時間の長丁場を、いろんなテクニックを織り混ぜて、大成功に導いたコバミサ。

合計獲得得点は…
1試合目、53900点。
2試合目、83900点。

実況者として、大トップであるっ!!

ご機嫌がよろしい時、気分で小銭を投げていただくと嬉しいです。ただあまり気はつかわず、気楽に読んでくださいませませ。読まれるだけで感謝です。