麻雀業界の錬金術士たち(その2)


女流プロたちのクラウドファンディング


さあここからフィクションだっ!

ある漫画雑誌で、麻雀漫画がまた一つ、打ち切りで連載終了した。
わしの漫画ではなく、別の作家さんが描いた作品である。

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ちなみに画像の「まんが絵物語・紅孔雀」はまったく関係がない。
なんとなくのイメージ画像である。
この先で貼り付ける画像はすべて、ただのにぎやかしである。特に意味はないと思って、気軽にスルーして読んでいただきたい。


その終了した漫画の内容はというと「実在する女流プロ4人が、麻雀普及に頑張る日々を描いたドキュメント漫画」であった。麻雀教室の講師をしている女流プロや、まわりを取り巻く業界の仲間たちを取材し、可愛い絵柄で丁寧に描かれた、なかなかの良作である。わしは楽しく読んでいた。

ただ、その女流さんたちが所属する、まだまだメジャーではない某麻雀プロ団体、その仲間まわりの話が多かったせいで。一般の読者さんには「で、誰だよ? 知らねえよそんなプロ」と、内輪ウケの香りが強かったのはいなめなかった。そのプロまわりの友人やファンだけが、読んでキャッキャできる作りだったかもしれない。

実在する麻雀プロが漫画になることは今までも多かった。しかし、すでに多くの麻雀ファンに知られている大手団体のスター選手や、大きいタイトルを取ったばかりの注目されているプロ、などを取り上げた作品ばかりであった。理由はもちろん、ウケるからである。

そういった大舞台に立ってる人気プロではなく、その陰。草の根で頑張っている若いプロたちの活動にスポットライトを当てようというのは、とても面白い試みであったと思う。しかし良い作品でも、ページをめくってもらえなければ、読者アンケートは伸びない。残念ながら打ち切りになったようだ。

そしてコミックスも発売されないままで終わった。

「本が出ない」…それはわしも、前回の話で描いた通り、経験済みだ。
よくある話なのである。

特にその頃は、その漫画雑誌の出版社が、かなり経営の苦しい時期だった。倒産の噂が流れたりしていて、そこで描いている漫画家たちはかなり怯えていた。当時は相当人気アンケートが高くない限り、出版社側も怖くて本を出せなかったはずだ。本を刷って赤字になっても、漫画家は別に困らないが、社員には命取りである。


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だからこそ、わしも自分の本が出なかった時、仕方ないと我慢した。
どっちも苦しいのである。

しかし。

その「女流プロ漫画」の場合は、関係者が少々おむずかりになったようだ。
漫画家さんどころか、担当編集さんまで一緒に「なんでこんな良い作品を本にできないのか!」と、編集長相手にプンスカになったようで。

気持ちはすごいわかる。

…ただ、その担当編集さんは、わしの打ち切られた連載の時の担当編集でもある。わしの時は別に怒っていなかった。かなりクールにわしへ打ち切り宣告、そしてコミックスにならないというボスからの伝言を、淡々と伝えてきたことを思い出した。(オイ、なんだその温度差は?)と首を傾げてしまった。

結局、最後は編集長が深々と謝る形で終わったらしい。

なんで失敗した漫画を作った担当編集と漫画家に、ボスが謝らなくちゃいけないのだ。わしなら自分が謝っている。

少しモヤッとしたものを感じて、わしはその打ち切りの舞台裏を眺めていた。気持ちはわかるが、なんだろう。このモヤモヤは。


クラファンがやってきた、ヤーヤーヤー!


ある日、麻雀界隈のツイッターがザワつき始めた。

かつて打ち切りになった、あの「女流プロの麻雀普及漫画」を、コミックスにしようという活動が始まったのだ。その作品の主人公となった4人の女流プロ、そしてまわりの友人プロ漫画家さん、そして担当編集さんが「本にしようぜ」と大勢で声を上げ始めたのである。

出版社からは残念ながら、いろんな貧しい事情で本は出せない。
ならば、自分たちの力で本を作って出そう!と、企画を考えたようだ。

つまり「自費出版」である。

しかし自費出版にはお金がかかる。そこで応援してくれる麻雀ファンから金銭的な協力を募ることで、なんとか本を作り、出版しようとする計画だ。


その当時「クラウドファンディング」というものが流行り始めていた。
通称「クラファン」と呼ばれた、資金調達システムである。

自分の夢やアイデアを語り、共感してくれた大勢の人たちから、資金協力を受ける。いろんな「お礼の品」を用意して、それを高値で買ってもらうことで、お金を集めるという感じである。

街角の募金で「貧しい人たちを救うため、私たちが作ってるこの靴下を2000円で買ってください」みたいなヤツの、ネット版である。

その「クラウドファンディングで、自費出版の資金を集める」というのだ。


なるほど。

そのやり方なら、わしの「卓上のコビト」も、同じ方法で自費出版できるかもしれない。同じ漫画家、気持ちはすごくわかる。ワガママが通るなら、やはり打ち切りになった漫画も、一冊の紙の本にしたい。たとえそれが自己満足だとしても。



自費出版といえば、思い出すことがある。


かつて、近代麻雀で「ゴールドハイ」という、突き抜けた世界観の楽しい麻雀漫画があった。しかし残念ながら、厳しい麻雀漫画の実情、コミックスの出版が途中の巻で止まってしまった。

しかし作者の上遠野洋一先生はあきらめなかった。
すべて自力、身銭と時間をかけ、続きを待ち望む読者に向けて、本を作ってしまったのである。気合の自費出版である。

わしは感動した。
わしは自分の作品に対して、ここまで愛情と責任感を持てるであろうか。


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その姿を見て、わしもいつか自費出版したいな…と思った。
同業者として、やっぱりカッコ良かったのだ。


そんな頃に、その「女流漫画をコミックスにしようクラファン」のお祭りが急に始まったのであった。本にしてもらえなかった、私たちの活動を描いた漫画を、どうか皆さんの協力で出版させてください、と。作品の主役となった、メインの女流プロ4人と作者が大声で叫び始めた。


「どうしても本にしたいんですっ!!」


さらにそのクラファンを、大勢の麻雀プロ仲間が宣伝応援をし始める。そして所属してるプロ団体や、女流と仲の良い著名人もそれに続いた。
彼女たちの夢を叶えたいと、追っかけのオヤジたちのリプにも熱が入り出す。財布を開いてスタンバイの構えである。

どうやら最低でも自費出版をするのに、80万円かかるらしい。
そう女流たちが、目標金額を発表していた。

80万円…そんなに本を作るのにお金ってかかるかな?…とは思いながらも。まあお金のかかった、豪華な良い本を作りたいのであろう。しかしクラファンの企画運営に、作者とそしてメイン女流4人、計5人おるわけだ。80万円を5人で負担すると、一人当たり16万円。

「クラファンに協力してあげてください!」と叫んでいる、大勢の仲間や著名人からカンパを集めれば、さらに負担は減るであろう。


「そこまでの気持ちがある本なら、てめえの金で作って出せや!」



…と正直、心の中で思っちゃった人は、そこそこいたはずだ。
わしもちょっぴり思ってしまった。
そしておそらく、自力で苦労して本を出した上遠野先生も騒ぎを眺め、多少はモヤモヤしてたはずだ。しかしみんな、空気を読んだ。

ファンと一緒に作り上げる本も、それはそれで素敵だし。その麻雀プロ団体にとっても、久しぶりに大勢が一丸となって応援し、みんなで楽しく盛り上げるイベントになりそうだ。仲間の結束を固めたり、団体の活動や所属プロを宣伝アピールするチャンスでもあり。全く悪いことではない。

なので、クラファン祭りが発足してしばらくは、わしもRTで宣伝応援したりしていた。本が出れば、それにこしたことはない…と、素直に思っていた。

しかし次第にそのお祭りに、怪しいスメルが漏れ始め出したのだ


どうも、出版社と関係ないところで、勝手に始まった企画らしい。編集部はとまどっている。そして、その漫画雑誌に女流ファンから「本を出さないなんて、ひどい出版社だ!」「そんな漫画雑誌、読まねえからな」「この女流漫画より、面白い漫画載ってるのかよ?」「これと比べて鉄鳴きの麒麟児なんかつまんねえ」などなど野次が飛び始めた。


ハア…?
なんでわしの漫画まで、ディスられてるの?

雑誌が悪者にされているのに、そのクラファン祭りを応援する協力者の中に、あの担当編集者が混ざっているのだ。意味がわからない。

様子がおかしい。

わしの「怪しいヤツを感じるアンテナ」が、ピクピク反応とし始めた。
この祭りは本当に、女流さんたちが純粋な気持ちで企画したのであろうか?
それとも、舵をきって知恵を授けてる、裏の何者かがいるのだろうか?

結論だけを先に言おう。

そのクラファンで紹介されていた、協力者のラインナップの中に

「脱税指南で逮捕、執行猶予中の男」
「情報商材を売ってる、転売ヤー」
「その妻となる女流プロ(漫画の主役)」

が、堂々とまぎれこんでいたのだ。

スペネコさんが写真を送ってきた。
麻雀界隈のタブロイド誌、スペネコスポーツの敏腕記者の彼である。

「この3人よく一緒に飲んでるようですよ。
 いつもの3人…って言って、女流が写真をアップしてました。」


この3人の職業をなんといえば良いのだろう。

いうなれば、錬金術士である。

(つづく)


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