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#不登校生動画選手権における「投稿作品の二次利用」について

【2023年10月16日追記:
石井志昂様のお名前を間違って記述しており、訂正しました。申し訳ありませんでした。たいへん失礼いたしました。(昴《すばる》のほうだと思いこんでおりました。)】

【2023年8月19日追記:
一般社団法人日本写真著作権協会による「
フォトコンテスト主催者の皆様へ」から「応募要項に関するガイドライン」を参照にし、不登校新聞Publishersのフォームにて問い合わせたところ、「共有・検討します」との旨、お返事をいただきました。きっと契約の当事者(主催者、入賞者、その親権者)間において、話し合い・調整等されるだろうと、ほっとしました。
表彰式直前の、非常にお忙しいであろうときにご対応くださり、ありがとうございました。どうかよろしくお願い申し上げます。
心から素直に「お疲れ様でした」と言えない理由が、まだ私にはありますが、そう言えるよう、自分にできることを捜したいと思います。】

はじめまして。アクセスしていただき、感謝いたします。
2023年7月1日、NPO法人全国不登校新聞社が主催する「不登校生動画選手権」が始まりました。
差し出がましく失礼しますが、私は、この開催に賛同はできない大人の一人です。いくつかある理由の中から、このnoteでは、「投稿作品の二次利用」という項目に関して書いていきたいと思います。

投稿作品の二次利用
入賞作品は主催者のホームページ、そのほかPRなどに期限の定めなく無償で活用させていただきます。また、用途により二次利用(複製、編集、上映など)させていただく場合があります。

不登校生 動画選手権 | 特定非営利活動法人全国不登校新聞社 (futoko.org)

「投稿作品の二次利用」では、著作権の「契約」について提示されていますが、未成年者も対象としているのに「親権者の同意」が要件にありません。そして、子どもや若者としても、著作者としても、不利益な内容と、私には思われます。

以下、理由を説明させてください。
長文になりますので、全文はもちろんのこと、太字部分に目を通していただけることも、たいへんありがたく存じます。どうかよろしくお願いいたします。


①応募概要

応募資格を持つのは、20歳未満で、「学校がつらい、行きたくないと思って学校を一度でも休んだ経験」がある個人やグループです。
「学校へ行きたくない私から学校に行きたくない君へ」をテーマに作成した60秒以内の動画を、TikTokに「#不登校生動画選手権」のハッシュタグをつけて投稿し、応募できます。
7月31日が〆切です。
作品は、審査委員長の中川翔子さん他6名により、訴求力、演出力、創造性を基準に審査されます。8月18日に東京都現代美術館で表彰式を開き、最優秀賞1名に副賞10万円、優秀賞2名に副賞1万円を、また審査員特別賞数名および入選20名には賞状が贈られます。

詳しくは、次のウェブページをご確認ください。
不登校生 動画選手権 | 特定非営利活動法人全国不登校新聞社 (futoko.org)

②子どもの変化を妨げれば、トラウマになる

不登校生動画選手権の開催にあたり、全国不登校新聞社代表・石井志昂さんのコメントがありました。

不登校を経験した多くの子どもたちが自分たちの経験を生かして社会をより良くしたいと考えている。

学校に行きたくない私から君へ「不登校生動画選手権」を今夏初開催 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

私は、不登校新聞に加え他のたくさんのメディアにおいて、石井代表の発言を拝見しております。そして、かつて「不登校当事者の子ども」であった石井代表こそが、「自分の経験を生かして社会をより良くしたい」と考え、望み、行動されているように、お見受けしていました。

さらに、全国不登校新聞社編集長・茂手木涼岳さんによれば

ここ数年で私が出会ってきた不登校経験者は、「不登校を経験したからこそ、今不登校で苦しんでいる人の役に立ちたい」、「自分の不登校経験を活かしたい」と口々に言う。

今、「不登校」を考えるために必要な言葉とは|不登校新聞 (note.com)

とのことですが、石井代表と不登校新聞社によって提示された「不登校のロールモデル」が拡散するにしたがい、共感した子どもが集まるものと思えます。
そして、子どもが「元気」であれば、自分を語る言葉や物語は変化します。

年を取るほどに、変化全般が困難になります。お年寄りに「ご自身の変化」を強要すれば、その寿命を縮めかねません。例えば、ご自身の常識を更新できず、孫の不登校を責めずにはいられない祖父母とその孫は、残念ながら距離を置くほかないかもしれません。
対して、子どもの変化は自然です。子どもの変化を邪魔するのは、 子どもの「生きる力」を邪魔することです。

東ちづるさんは、「不登校生動画選手権」を紹介するツィートにて、
>不登校の子は「ふつうになりたい」と言います。
と発言されています。
ある一人が、あちこちを回ったり迷ったりしたあげく、十年後のある日やはり「ふつうになりたい」に戻ってきた、ということはありえますし、問題にはならないと思います。しかし、十年間をずっと「ふつうになりたい」と思いつめたまま過ごすなら、苦しいかもしれません。

不登校を経験した子どもが、「ふつうになりたい」とか、「自分の不登校経験を活かしたい」と思うのは、不自然でもおかしくもありません。本人の話をていねいに聞けば、「なるほどね」「もっともだ」「無理もない」と、大人が理解するのも決して難しくはない、「子どもの思い」でしょう。
とらわれるとよくない、のはわかります。
大人が、「ふつうにこだわるな」「不登校をアイデンティティにすべきじゃない」と「子どもの思い」につめより、圧をかければ、「とらわれ」や「こだわり」を強めはしても、解放はしません。そして、「不登校生動画選手権」によって、「子どもの思い」をほめたり、特別扱いしたり、「活用する」こともまた、同様の「効果」をもたらしてしまうと思います。

トラウマというのは「時間的な居着き」のこと

内田樹 名越康文著『14歳の子を持つ親たちへ』2005年,新潮社,p104

と、内田樹さんは表現されています。

・ある出来事、感情、信念、症状に「自分」が居着き、動きにくい
・いつまでも何度でも、ふいにある時点の「自分」に引き戻される
・繰り返し同じパターンに巻きこまれる

といった、とらわれる感じや状態は、今日一般的に「トラウマ」と呼ばれます。

一般的に「作品」=「自己表現」とは必ずしもいえませんが、「不登校生動画選手権」の趣旨からは、「子どもが、不登校生である『自分』や『自分の思い』を語り、表現したもの」が集まると推測されます。
その「表現」は、後の本人と齟齬を生じる可能性が十分にあります。

「子どもが、『自分』や『自分の思い』を表現した動画作品」を、本人が管理し、いつでも編集や削除可能であれば問題ない、といいますか、問題を、自分の決定と行動の結果として、自分で引き受けて、自分で対処を重ねていくことが可能です。
しかし、不登校新聞社が「子どもの作品」を「複製」して保存し、「編集」も含めて「期限の定めなくホームページやPRなどに活用」すれば、問題です。子ども自らの変化を妨げるトラウマを、大人がつくりかねません。
さらには、著作者としても、権利が尊重されていないと感じます。

③応募された作品は「著作物」である

著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めています。(著作権法第2条第1項第1号)

また、著作物の種類(著作権法第10条第1項)として「映画の著作物」が例示されており、「ネット配信動画」はこれに含まれます。

次にあげる「不登校生動画選手権」の趣旨(一部)からも、作品が「著作物」であると十分に意識されているとうかがえます。

テーマは「学校へ行きたくない私から学校に行きたくない君へ」です。思いを述べる、絵を描く、風景を撮るなど表現方法はさまざま。自身の思いや創造性をぶつけてみてください。

不登校生 動画選手権 | 特定非営利活動法人全国不登校新聞社 (futoko.org)

審査基準として、訴求力、演出力、創造性があげられていることからも、同様に感じます。

応募された作品はすべて「著作物」です。
そして、著作物を創作したすべての人は「著作者」です。

④著作者の権利

著作者の権利とは、自分の著作物を、他人に無断で利用”されない”権利です。
他人の著作物を利用するには、原則(例外として著作権法第30条~47条)著作者の許可を得ることが必要です。
著作者は、自分の著作物の利用を許可したり、拒否したりできます。利用を許可するにあたり条件をつけ、収入を得ることもできるため、著作者の権利は、知的財産権に数えられます。
著作者の権利は、著作者が著作物を創作した時点で発生します。同じく知的財産権の一つである「特許権」とは違い、著作者の権利を得るために、出願や登録などの手続きを取る必要はありません。

著作者の権利は、大きくは「著作者人格権」と「著作権(財産権)」の二つからなります。

1.著作者人格権
著作者の精神的利益(思い、こだわり、名誉など)を守るための権利です。

氏名表示権
同一性保持権(自分の著作物の内容又は題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利)
など(著作権法第18条~第20条)があります。

2.著作権(財産権)
著作者の経済的利益を守るための権利です。

複製権
上映権
公衆送信権
翻案権
・二次的著作物の利用権
など(著作権法第21条~第28条)があります。

「著作権」といったとき、次の2パターンが見られますので少々注意が必要です。
・著作者の権利=「著作者人格権」+「著作権(財産権)」を指す場合
・「著作権(財産権)」のみを指す場合
このnoteでは主に、「著作権」=「著作者人格権」+「著作権(財産権)」として書いています。

⑤著作者の「思い」を尊重するために

「投稿作品の二次利用」のうち「PRなど」「編集(翻案)」はとくに、著作者として、不安と不快を強く感じるところだと思います。
PRの内容や目的も、どう編集されどんな文脈に置かれるのかも不明です。「期限」すら定められず、利用の「範囲」が不明確で、著作者が、著作物の利用を許可するか否かを判断するのは困難です。
著作者の「思い」を尊重するには、「原則、作品の編集(翻案)は行わない」「どうしても作品を編集(翻案)する場合は、都度、著作者に目的を告げ、相談し、確認を取る」ことが望ましいと思います。

参考として、多様な学びプロジェクト代表・生駒知里さんのツィートをあげさせてください。


⑥非営利ならOK?

全国不登校新聞社は、特定非営利活動法人です。「非営利ならば、著作者の許可がなくても、著作物を利用できる」という話はよく見聞きされます。ではその根拠と思われる、著作権法第38条を見てみましょう。

(営利を目的としない上演等)
第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

つまり、第38条によって「非営利・無償・無報酬ならば、著作者の許可を取らなくても、著作物を利用できる」のは、「上演」「演奏」「上映」「口述」の四つに限られます。著作物をホームページにアップロードするのに必要な「複製」や「公衆送信」、そして「翻案(編集)」は、著作者の許可なしにはできません。

さて、「不登校生動画選手権」は、TikTokが共催されており、次の株式会社らは協力されています。

・株式会社WOODY
・クックパッド株式会社
・株式会社学研ココファン・ナーサリー
・通信制高校ナビ
・キズキ共育塾
・株式会社すららネット
・文化放送
・株式会社ベネルート

不登校生 動画選手権 | 特定非営利活動法人全国不登校新聞社 (futoko.org)

さらに、通信制高校ナビ(株式会社クリスク)とアトリエはるか(株式会社ハルカホールディングス)は協賛されていることが、次のサイトより確認できます。
不登校経験をレアリティに!TikTok×不登校の大会開催が決定! - 通信制高校ナビ (tsuushinsei-navi.com)
TikTok、「不登校新聞」と共催の 『不登校生動画選手権』に協賛いたしました! | スペシャルコンテンツ | アトリエはるか公式サイト (haruka.co.jp)

表彰式の会場で、これら株式会社のパンフレットが参列者に配られる可能性はありそうです。
また、入賞作品が、次回「不登校生動画選手権」のPRに利用される可能性は高いと思われます。そして次回も今回と同様、株式会社の共催、協力、協賛がある可能性も高いでしょう。すると、「不登校生動画選手権」やそのPRが営利目的にあたるか否か、私には判断つきかねます。
不登校新聞社には、すららネットやキズキ共育塾を「おすすめ」する記事もあります。
『不登校新聞』のおすすめ / 不登校新聞 (publishers.fm)

参考として、東京都行政書士会中央支部によるコラムをあげさせてください。
「非営利」での利用はOK? | 東京都行政書士会中央支部 著作権実務研究会 (copyright-chuo.tokyo)

営利目的の場合はもちろん、営利が目的になかったとしても、法人のホームページやPRに著作物を利用するならば、そのたびに著作者の許可を得て、かつ対価の支払いもあることが、「著作者人格権」および「著作権(財産権)」の尊重にかないます。
「不登校生動画選手権」で入賞した作品(著作物)を、「主催者のホームページ、そのほかPRなどに活用」するために、「無期限」かつ「無償」で、「複製・公衆送信・翻案(編集)・上映など」することを主催者に許可すれば、著作者として不利益です。
子どもとしても、よい経験になるとは思えません。

⑦未成年の契約について

とはいえ、「不登校生動画選手権」の当事者は、主催者と応募者(著作者)です。「契約」では、当人同士がどう思うかが大事です。契約は、原則として当事者の合意のみで成立します
主催者が著作権について提示した内容に、著作者が同意した上で応募すれば、入賞時には契約成立と見なされます。

ただし、著作者が未成年(18歳未満)の場合、契約には親権者の同意が必要ですが、応募要件に「親権者の同意」はありません。よって民法5条より、未成年者は契約を取り消すことが可能です。

しかし、未成年の著作者が、”想像とは違った”やり方で著作物を利用されて苦痛を覚えても、契約を取消できると知らないまま、何年も過ぎてしまうケースもありえると想像します。「実は合意に至っていなかった」とき、「想像と違う」「思っていたのと違う」ということが起こります。
不明な点は、応募する前に主催者に聞けばよい、のはもっともです。しかしそのときも、知識や理解が不十分であると、意思疎通が難しいでしょう。
著作権について合意を築き、契約を成立させるには、主催者と著作者の両方に、著作権や契約について理解する必要があります。

著作権や契約について考えるのが子どもの負担となったせいで、応募への意欲や、創作そのもののやる気がそがれることもあるでしょう。あるいは、著作権や契約についての理解は十分であっても、子ども(著作者)―大人(主催者)という関係のために、子ども側が言いたいことを言えないかもしれません。
そうならないためにも、「親権者の同意」を要件とすることが、未成年の著作者の権利の尊重にかないます。

⑧投稿作品の二次利用についての要望

noteでは、さまざまな企業が主催する、たくさんの投稿企画やコンテストがあります。私はnoteユーザーとして、数年にわたりそれらを見てきました。その感覚からいってもやはり、「不登校生動画選手権」における「投稿作品の二次利用」は、著作者にとって不利益と思える内容です。「親権者の同意」が要件にないことや、「二次利用」という表現から、きっと主催者の知識不足のせいだろうと勝手に失礼ながら憶測しましたが、率直にいって失礼だなあと思いました。「投稿作品の二次利用」について、「ついでにちゃっかりと、主催者が、無期限・無償でホームページやPRに使うことができる”素材”を入手するつもりだった」と見なされるリスクがあります。はじめから「素材を募集する企画」を行うか、あるいは「不登校生動画選手権」で「ぜひ、素材にさせてほしい」と望む作品に出会ったので、後日作者に交渉した、という話ならば違ってきますが。
noteに限らずにネットをあたってみたところ、地方自治体が主催したフォトコンテストに、同程度に著作者に不利益と思われるものを見つけました。
営利を目的としない組織の方が、著作権に対する意識が低かったり、ゆるかったりする傾向があってもおかしくないと思いました。

参考として、イラストレーターであり、3級知的財産管理技能士の資格をお持ちの、オオスキトモコさんの記事をあげさせてください。
静岡県主催のフォトコンテストの応募規約がひどい件 - TOMOKO OOSUKI (hatenablog.com)
世田谷区による著作権侵害事件から考える、地方自治体の知的財産権契約をめぐる問題 - TOMOKO OOSUKI (hatenablog.com)
著作権に関連する問題に加えて、クリエイター側から見た「感じ」もよくうかがえる内容です。

著作権について、相談できる人や場所はいくつもあります。ただ現状では、「専門家」も「相談窓口」も、必ずしも著作者の側に立っているとはいえない(クリエイターよりも、クリエイターに仕事を発注する企業寄りのことも少なくない)ようです。
「不登校生動画選手権」の開催や拡散に関わった、メディアや、クリエイターを含む著名人や、子どもの権利を擁護する職や立場にある大人たちもやはり、きっと、「まだ遅れている」のでしょう。
それでもなお、不登校新聞社には、著作者である不登校生の権利を尊重した、入賞作品の利用(入賞作品を発表する目的以外での利用はしないこと)を再検討してほしいと望みます。

大人が「子どもによかれ」と思い、子どもをほめたり、子どもの活躍の場や晴れ舞台を設けようとするとき、上下関係が生じます。一方で、著作者としての「権利」や、子ども自らの変化(成長)を侵さないよう尊重するとき、関係は対等です。

noteユーザーの、クリエイターとしてのプライドは高いと私には見受けられます。「クリエイター」に、プロかどうかや、年齢は関係ありません。TikTokはほとんど不案内ですが、TikTokユーザーが、クリエイターとしてプライドが高くないとは、まさか思えません。

⑨かつての全国不登校新聞社から(※7月28日加筆修正しました)

ここで、アドラー心理学関連の書籍より、ひとつ引用させてください。

他者のために貢献できたということは、もっとも大きな満足をもたらすものです。(中略)子どもたちの成功や善行にたいしてほめことばをかけるのは、達成の純粋な喜びを汚し、貢献感をもって暮らすことの至福を奪うだけのことです。

野田俊作 萩昌子著『クラスはよみがえる』1989年,創元社,122p

2002年、全国不登校新聞社は、吉本隆明さんや大槻ケンヂさんなど、18名の著名人へのインタビューを収録した書籍『この人が語る「不登校」』を講談社から出版しました。このとき、「子どもの貢献」がなかったことにされたと、私には読めました。
少々長くなりますが、当時の理事である、奥地圭子氏、多田元氏、山田潤氏の連名で記された冒頭「刊行にあたって」より、引用させてください。

 全国不登校新聞社は、現在、東京、名古屋、大阪の3局体制で活動しており、5人の専従スタッフと多くのパートスタッフ、ボランティアの協力で成り立っています。
 また、北海道から鹿児島まで全国18の通信局があり、活動を支えています。この通信局は、それぞれの地元で、登校拒否・不登校に関する親の会や、子どもの居場所づくりなどの活動を積み重ねてきた方々が担っています。
 発行回数は、月2回。ブランケット判6ページ立てで、現在の発行部数は約5000部となっています。また、この新聞の発送作業は、ボランティアの母親たちが、手をまっ黒にしながらまる1日かけて取り組んでいます。
 紙面は、一般紙にはない独自の情報が満載されています。不登校や子どもの人権に関するニュース、特集、解説記事、各地の動きをはじめ、当事者の子ども・若者の体験談や意見、親の手記、相談欄、不登校の歴史など、不登校に関連してこれだけのものが掲載されているメディアは少ないと自負しています。さらには、子ども・若者が自ら企画・取材・編集をしているページもあります。そして、この本につながるインタビューは、毎号5面のトップを飾っています。
 また、各号の論説は、編集顧問をお引き受けいただいている左記の方々に、交代でご執筆いただいています(五十音順・敬称略)。

全国不登校新聞社編『この人が語る「不登校」』2002年,講談社,p7

続いて次ページに、評論家、医師、大学教授など15人の氏名があげられています。

引用を読んで、「この本につながるインタビュー=毎号5面のトップ」を、「子ども・若者が自ら企画・取材・編集した」と思った方はいらっしゃるでしょうか。そう思えなくても無理はない書き方だと感じます。そうと知っている人ならそう思って読み流すけれど、知らない人ならそうは思わないような、絶妙なさじ加減と見ました。
不登校新聞は、1998年に創刊しました。そして翌年の1999年、不登校当事者の子どもたちが自ら取材する編集部が立ち上がり、当時未成年だった石井昂表もこれに参加(注1)します。しかし『この人が語る「不登校」』では、この引用以外に「子ども・若者が自ら企画・取材・編集をしている」ことに触れた箇所はありません。

当時の編集部長・山下耕平さんによる「あとがき」には、

 無名の新聞社である私たちのインタビューに快く応じ、この本への収録を承諾してくださった18名の方々に、心より御礼申し上げます。

全国不登校新聞社編『この人が語る「不登校」』2002年,講談社,p249-p250

とありますが、「無名のNPOであり新聞社の、理事や編集部長による」インタビューならNGでも、「不登校当事者の子どもたちによる」インタビューだから応じてくださった著名人がいたはずだと、私ならば想像します。しかし繰り返しになりますが、「子ども・若者が自ら企画・取材・編集をしている」ことは、「あとがき」にも登場しません。
「あとがき」の次には、「著編者のプロフィール」として、3人の理事と編集部長の氏名・経歴が紹介されています。ページをもどって目次を見ると、著名人の氏名と同じ大きさで、3人の理事の氏名が載っています。
著名人の方々が、「不登校当事者の子どもたちによる」インタビューに応じてくださったと思ったのなら、『この人が語る「不登校」』というタイトルにもならないでしょう。『不登校当事者の子どもたちへ語る』となるはずです。当時の不登校新聞社が、「不登校当事者の子どもたち」ではなく、「この人(著名人)」や、「不登校問題」や、あるいは世間のほうを向いていると感じられます。これは、「不登校」を、子ども本人の問題ではなく、社会問題としてとらえ、解決しようとする態度とも違うと思います。

当時未成年の石井代表は、「取材というツールを使うと有名人に会える(注1)」「取材に行ってみないか、有名人に会えるよ(注2)」などと大人から声をかけられて、不登校新聞の活動に参加したそうです。
子どもにこういう声かけをするような大人だからこそ、「子どもの貢献」を「なかったことにした・できた」のだと、私は感じました。

(注1)「私」が救われるために取材する。不登校新聞が貫く当事者視点での発信 | 集英社オンライン | 毎日が、あたらしい (shueisha.online)
(注2)(3ページ目)「世界一受けたい授業」で堺正章も感動 不登校新聞・石井志昂さんの「学校に行かない生き方」 | AERA dot. (アエラドット) (asahi.com)

吉本隆明著『ひきこもれ』(2002年、大和書房)には、72pから76pにかけて、不登校新聞によるインタビューをもとにして書かれた一章があります。実はここには、吉本さんと、「不登校の子ども」しか登場しません。そして163pで、「ぼくは市民運動が嫌いです。」とおっしゃいます。
『この人が語る「不登校」』の出版時、編集部長だった山下さんは、吉本さんからお説教を受けたと、次のブログに記しています。
吉本隆明さんのお説教 (maigopeople.blogspot.com)
こちらは事実であると思われますが、『ひきこもれ』では、大人である山下さんはいなかったことになっています。

「当時の全国不登校新聞社は、子どもを誉め称えるべきだった」といいたいわけではありません。そうではなくて、もっと、編集部員としての子どもたちへの感謝や労いがあってもよかったのに、それどころか、なかったことにした上に、その分大人が大きい顔をしたようで、たいへん残念に思いました。

石井志昂代表と現在の全国不登校新聞社は、2010年より子どもたちの活動をサポートする体制を整え(注3)、不登校新聞のみならず、他のメディアも通して「子ども・若者が自ら企画・取材・編集をしている」ことの周知に努められました。そして、『この人が語る「不登校」』でなかったことにされた、編集部員としての、子どもたちの尊厳の回復を果たされたと、私はお見受けしています。
(注3)NPO法人全国不登校新聞社のマーケティング導入事例 - Panasonic NPOサポート マーケティング プログラム - サステナビリティ - パナソニック ホールディングス (holdings.panasonic)

「不登校当事者の子ども・若者」というカードを切って、著名人へ取材をしているように世間から見なされると、子どもや若者にとっても、また著名人にとっても、不名誉になりかねません。不名誉にはなりえない、ポジティブな、かといってほめるわけでもなく、そして嘘のない「語り」が石井代表によって成されたと、次にあげる記事から感じました。

当事者が紙面作りに携わる「子ども若者編集部」の活動は、職業訓練でも、子どもたちの自己実現でも、不登校の子どもの支援でもないというスタンスだ。
「不登校の子が社会に出るためのテストや訓練ではありません。不登校の子たちが感じたこと、苦しんでることは財産だと思うのです。それを、紙面を通して社会で共有する仕組みだと思っています」

「世界一受けたい授業」で堺正章も感動 不登校新聞・石井志昂さんの「学校に行かない生き方」(4/4)〈dot.〉 | AERA dot. (アエラドット) (asahi.com)

こちらを読み、素直に感動いたしました。

そして現在私は、過去全国不登校新聞社により、やはりなかったことにされた出来事があり、いなかったことにされた「子ども編集部」のメンバーがいると知りました。そのかつての子どもを含めて、子どもを大切にする活動を続けていただきたく、これからの全国不登校新聞社におきましても、切に望んでおります。何卒、よろしくお願い申し上げます。

最後に、ここまでお付き合いしてくださった方々に、お礼を申し上げます。
たいへん、ありがとうございました。

(このあと、相談窓口と参考資料をあげたいと思います。よろしければぜひご覧ください。)

⑩相談窓口・参考資料等

・公益社団法人著作権情報センターの「著作権テレホンガイド」は、クリエイターの側に立って相談を受けてくださると、私は感じました。無料です。
相談室・資料室 | 相談室・資料室 | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

・同法人による、著作権Q&Aもわかりやすいです。
著作権って何? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC
こんなときあなたは? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

・文化庁による「令和5年度著作権テキスト」も、著作権について詳しくていねいに説明されており、参考になります。ファイルをダウンロードして閲覧可能です。
著作権に関する教材・講習会 | 文化庁 (bunka.go.jp)

・イラストレーター オオスキトモコさんの著作権に関する記事は、イラストが楽しいのはもちろんのこと、「クリエイター側の視点」をうかがえるところも興味深いです。
【基礎知識シリーズ・1】著作権・著作者人格権とは何か - TOMOKO OOSUKI (hatenablog.com)
【弁護士監修】イラストレーターがつくるべき「確認書」のススメ - TOMOKO OOSUKI (hatenablog.com)

・一般社団法人日本写真著作権協会による「フォトコンテスト主催者の皆様へ」では、フォトコンテストの主催者向けの「応募要項に関するガイドライン」を確認できます。
フォトコンテスト主催者の皆様へ | 一般社団法人日本写真著作権協会(JPCA)


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