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不眠症で生きていくための睡眠の知識

「この不眠症の人生を生きていくためには、もっと睡眠の知識を得なければなるまい」そう感じたため、睡眠に関する書籍を読んだ。手にとったのは、『睡眠こそ最強の解決策である』(マシュー・ウォーカー著)だ。

なかなか文量がある本で、書かれていることすべてを頭のなかに叩き込むのは難しい。ここは、特に自分と関係のある事柄だけを選んで見ていこう。

最も重要なのは、「睡眠は毎日7時間~9時間の範囲が適切である」という点だ。もしほかの部分は忘れてしまっても、ここだけは絶対に逃さないようにしよう。もっと言えば、7時間以上はぎりぎり合格点の範囲、実際には8時間以上が望ましい。

なお、ここでいう「睡眠時間」とは「実際に眠っていた時間」を指す。ただ床で横になっていただけの時間は含まれない(たとえそれが就寝前であっても)ので注意。

レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠の2種類がある。このこと自体はよく知られている。どちらも脳と身体にとって欠かせない存在で、どちらか(あるいは両方)の睡眠が不足していると、深刻な影響が出る。

深いノンレム睡眠は、もういらなくなったニューロンを削除し、夢を見るレム睡眠は、逆にニューロンのつながりを強化する。この両方により、人間は睡眠中に記憶を定着させているのと同時に、記憶の容量スペースを確保している。つまりは、脳のメンテナンスだ。

重要なことに、このメンテナンスの機会は後回しにすることができない。たとえば、2日連続で5時間睡眠をしたとして、その後日に普段より多めの睡眠をすることでバランスをとる、ということはできないのだ。2日間の睡眠のなかで行われるはずだった記憶の定着は、二度とその機会が失われてしまう。

もう少し具体的に、1日の睡眠時間で見てみよう。

仮に起床時間を早めて、8時間睡眠を6時間睡眠に変えるとする。単純な計算では、25%の睡眠が失われたことになるだろう。しかし、実際はそうではない。ほとんどのレム睡眠は睡眠の後半に行われるので、睡眠時間が少ない状態で起きると、レム睡眠の60~90%を失うことになる。逆に、起床時間が同じでも就寝時間を遅くするパターンでは、今度はノンレム睡眠の大半を失うことになる。

これは勉強はもちろんのこと、スポーツにも影響を与える。スポーツの世界では「筋肉が(動きを)記憶している」という言い回しが使われることがあるが、これは正しくない。筋肉はなにも記憶しない。なにかを記憶するという機能は脳にしかない。スキルの習得を行いたければ、充分な睡眠をとることが近道なのだ。

睡眠不足において、ある重要な害を伝えておこう。それは「睡眠の不足による、自分の能力の低下を過小評価する」という傾向だ。著者によれば、いずれの研究にも共通している傾向だという。曰く、“これはたとえるなら、バーで飲みすぎた人がふらふらの足どりで車のキーを握り、「酔ってないから運転ぐらいできる」と言い張っているようなものだ。”

カフェインとアルコール

これまでも睡眠におけるカフェインとアルコールの関係は、いろいろ語られてきた。漠然と、カフェインを摂取すれば眠気が吹き飛び、アルコールを飲めば寝つきがよくなると理解している人が多数派だろう。しかし、実際のところはどうなのか?

著者によれば、カフェイン・アルコールの双方とも、睡眠にとっては害であるという。

まず、カフェインから見ていこう。

カフェインに眠気を阻害する効果があることは、ここでいちいち説明しなくてもいいだろう。問題は、その効果がどれだけ持続しているかだ。

・体内のカフェイン量は、飲んでからおよそ30分後にピークを迎える。
・ただし、ピークを過ぎてもカフェイン自体は残り続ける。
・カフェインの半減期(成分が体外へ排出されるまでの時間)は、平均して5時間~7時間。

つまり、午後7時半頃にコーヒーを1杯飲んだとすると、午前1時30分になってもまだ半分のカフェインが体内に残っていることになる。

また、カフェインを含んでいるのはコーヒーやお茶、エナジードリンクだけでなく、一部のチョコレートやアイスクリーム、鎮痛剤などにも含まれている。「カフェインゼロ」を謳っている商品も、実際には少量のカフェインがある。この点にも注意したい。

寝つきが悪い、眠りが浅いといった症状が出る場合、まずはカフェインを疑ってみることだ。

次はアルコールだ。

アルコールに関して、著者ははっきりと「鎮痛剤に分類されるドラッグ」と言っている。具体的には、以下のような効果がある。

・アルコールは前頭前皮質を麻痺させる。前頭前皮質には衝動を抑える働きがる。酔うと気が大きくなり、言動に抑制が効かなくなるのはこのため。
・アルコールを摂取して眠った人の脳波は、自然な睡眠の脳波と同じではない。むしろ、軽い麻酔をかけられた状態に近い。
・アルコールは睡眠を断片的にし、レム睡眠を阻害する。

つまり、寝つきは良くなるものの、その後の睡眠が断片的になり、レム睡眠が阻害されてしまうため、アルコールは駄目だということだ。

ついでながら、上述したアルコールの効果から、巷でよく言われる「アルコールによってその人の本性が出る」という言説が嘘だとはっきりわかる。覚醒剤でラリった人を指して「本性が出たんだ」などと言うだろうか? この言説は、アルコールを批判の目からそらすために誰かが作り出した詭弁に過ぎない。

不眠症について

さて、カフェインのせいでもなく、アルコールのせいでもないとしたら、いよいよ不眠症を疑う必要がある。そのまえに、不眠症の主な症状を確認しておこう。

・「入眠障害型」──なかなか寝つけないという症状。
・「睡眠維持障害型」──夜のあいだに何度も目が覚める症状。

これらの症状のうちどちらか、あるいは両方が数週間~数ヶ月も続いているようなら、「睡眠専門の」医療機関を受診すること。

なお、わざわざ「睡眠専門の」と括弧をつけているのは、それだけ睡眠には専門的な知識が不可欠だからである(と、著者は述べている)。

次に不眠症の要因だが、大きく分けて2つある。

・悩みや心配事。
・落ち込みや不安。

どちらも精神的な要因である。不眠症が鬱病などと合併しやすいのはこのためだ。

なぜ不眠症になると眠れなくなるのか。それは、脳がずっと緊張状態にあるからだ。生物の脳は危険をまえにしたとき、「戦うか、それとも逃げるか」を判断するモードに入る。野生の本能だ。このモードが解けなくなってしまう状態が不眠症の正体である。

不眠症の治療についてだが、睡眠薬を使う方法と、認知行動療法の2種類がある。どちらか片方だけでなく、両方一緒に行ってもいいわけだが、著者は睡眠薬の使用には否定的だ。

睡眠薬にはいくつものデメリットがある。基本的な働きはアルコールと同じで、脳の外側を眠らせているだけ。自然な眠りにはつながらない。断薬時に副作用のせいでリバウンド効果が出る。服薬によって癌の発症リスクが高くなる……といったことが理由だ。

よって、認知行動療法だけの治療を筆者は勧めているのだが、姫呂はこの主張には懐疑的だ。それは自分の実体験として、認知行動療法があまり効果がなかったからだ。姫呂は鬱病に由来する不眠症を抱えていて、最初の頃は医師も睡眠薬を勧めていなかったのだが、まったく睡眠が改善する兆しがなかったので今では普通に睡眠薬を飲んでいる。そして実際、睡眠薬を飲んだら改善した。著者は、「睡眠薬にはプラシーボ効果しかない」とも述べているが、それは嘘だろう。姫呂の実体験が、睡眠薬の有効性を証明している。

また、これは本書を読んでいてずっと感じたことだが、この著者はメリットやリスクを大げさに語る傾向があるようだ。今のところ、著者の主張にどれくらい裏付けがあるかもわからないので、すべてを鵜呑みにしないほうがいいかもしれない。

8時間睡眠をキープする

とはいえ、著者が提唱する「最適な睡眠時間」には同意できる。それすなわち、「人間の大人にとっては、平均して覚醒が16時間、睡眠が8時間が最適なバランス」だということだ。この生活リズムをキープする。それが最も重要なことだ。

なお、夜に充分な睡眠をとるコツとして、午後3時を過ぎたら昼寝はしないということが挙げられている。この時間を過ぎてしまうと、夜間に眠気がやってこなくなるらしい。また、寝る直前の運動や、極端なカロリー制限も睡眠を阻害するという。覚えておこう。


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