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2022年8月・9月に見た新作映画まとめ ~邦画がハイレベルでギョざいます!~

ようやく暑さもひと段落し、秋に突入しましたね。
秋の夜長ということで、食欲、読書もはかどりますが、
映画鑑賞にもおすすめの季節です。

8月から9月にかけては、日本の映画が特に面白い作品が多く、
どこか懐かしさを感じさせる心温まる映画が多かったです。

というわけで、8月・9月に見ることができた、新作映画はこちら!

・『プレデター:ザ・プレイ』@Disney+
・『サバカン SABAKAN』@TOHOシネマズ新宿
・『13人の命』@Amazon Prime Video 
・『NOPE/ノープ』@TOHOシネマズ新宿
・『ブレットトレイン』@TOHOシネマズ新宿
・『激怒』@新宿武蔵野館
・『さかなのこ』@テアトル新宿
・『百花』@TOHOシネマズ六本木
・『雨を告げる漂流団地』@Netflix
・『LOVE LIFE』@TOHOシネマズシャンテ
・『LAMB/ラム』@新宿ピカデリー
・『ブロンド』@Netflix
・『四畳半タイムマシーンブルース』@新宿バルト9

1本1本の感想をかるくこちらに書き留めておきます。

『プレデター:ザ・プレイ』

かつてアーノルド・シュワルツェネッガーが主演した人気ホラーアクションの新作がDisney+のオリジナル作品として配信されました。
近年の『プレデター』シリーズはエイリアンと戦ったり、B級映画の題材にされたりとちょっと雑な扱いになっていましたが、今回は舞台をアメリカ開拓時代に変更し、ネイティブアメリカンの戦士とプレデターの戦いを描く1本です。
『プレデター』シリーズの魅力は、大自然の中で、不利な人間が知恵を使いながらプレデターを倒すというところですが、今回の設定はそれにぴったりで、さらにネイティブアメリカンが主人公ということでどこか神秘的で気高さも感じる一本となっています。
ネイティブアメリカンの生活圏に食い込んでいく野蛮な開拓者たちのストーリーの絡め方も含め、シナリオの納得感も高く、良質なアクション映画に仕上がっており、ポップコーンを片手に見るのがおすすめです。

『サバカン SABAKAN』

1980年代の長崎を舞台にした、2人の少年のひと夏の冒険と成長を描いたヒューマンドラマです。もともとはラジオドラマ用の脚本を映画にしているためか、登場人物のしゃべりのテンポの心地よさが素晴らしく、中でも主人公の母親役の尾野真千子と父親役の竹原ピストルが実在感ある愛らしい存在感を放っています。みかん農園のおじちゃんとのライバル関係や、貧乏な中で工夫して生み出された料理のエピソードなど、それぞれの断片的な物語が長崎の美しい風景と見事に調和しており、さながら日本を舞台にした『ニュー・シネマ・パラダイス』のような作品でした(駅を舞台にしたシークエンスや、エンニオ・モリコーネそっくりの音楽など、ちょっと狙いすぎな側面もありましたが笑)。
ほのぼのした懐かしい気分を味わえる映画かなと思って劇場に足を運んで、その期待を上回るエモーショナルさがある一本です。この映画を見た後はタイトル通りサバ缶が食べたくなりますよ。

『13人の命』

『アポロ13』をはじめ、実話ものを描かせたら天下一品の名匠ロン・ハワードの新作がAmazon限定で公開されました。今回の題材は2018年にタイで発生した、豪雨のために洞窟に少年たちが取り残されてしまった事件と、その後の救出劇でのイギリス人ダイバーたちの活躍になります。
ロン・ハワード作品らしく、事態が起きるまでのテンポ間の良い語り口はもちろん、事実とフィクションを織り交ぜながら、救出にあたったそれぞれの人々の活躍と葛藤を余すところなく伝えてくれています。そして洞窟のセットを実際に作ったことによって生まれた、観る者に恐怖を与える洞窟内の洪水と、それとの人間の格闘の様子は、リアルさが追求されているがゆえに、より当事者たちの輝きが増すという素晴らしい映画になっています。
タイが舞台になっているために、仏教を中心とした信仰というものが人々にもたらした影響力についてもしっかりと言及されており、この手の映画にありがちな主人公を際立たせるために周りを無能に描くということを一切しておらず、とてもフェアなスタンスでした。
これだけ迫力と深みのある作品が映画館で公開されないなんてもったいない!サブスクの各社にはどの作品でも最低1週間は劇場で公開されるように善処してもらいたいものです。
とはいえAmazon Prime配信という状況はこのnoteだけでは動かせないと思うので、ぜひ自宅でこのウェルメイドな一本をお楽しみください。

『NOPE/ノープ』

『ゲットアウト』や『アス』など、社会問題を巧みにプロットに取り込んだ上質なサスペンスを手掛けてきたジョーダン・ピールの新作で、今回はこれまで以上に深くて難しいテーマに取り組んでいる一本です。
ハリウッド近郊で映画向けに使う馬を育てている牧場(世界で初めての映画と言われる『動く馬』の黒人騎手にルーツがあるという設定)で、不可解な物体が空中に現れ始め、その正体を写真に収めようとするが…というあらすじですが、ここでテーマになっているのが「見るという行為の残酷さ」です。映画やドラマでは望んで出ている俳優だけでなく、馬をはじめ多くの動物たちが見世物として利用されてきた歴史もあります。さらに近年ではTVバラエティやSNS投稿でも、俳優や芸能人に限らず、時には一般の人までも「ネタ」(笑いだけでなく怒りや感動の対象としても)として楽しんでいますが、果たして見られる側の気持ちに向き合えているだろうか、エンタメとして楽しめれば当事者の気持ちは軽視してよいなどという無責任な消費者になっていないか、というエンタメそのものが持つ残酷さに自覚的になれているかを突き付けてきます。
ドキドキハラハラな展開、後半の疾走感と映像の迫力など、テーマに対しての深堀りがなくても十分に楽しめるのですが、テーマに対してより深く考えると、自分のエンタメ、ひいては社会の見方が少し変わってくる、勉強になるおすすめの一本です。

『ブレットトレイン』

伊坂幸太郎の小説を原作に、日本の高層列車内での殺し屋同士のバトルをエンタメ成分たっぷりに描いた娯楽作。主演のブラッド・ピットをはじめとした見せ場たっぷりのアクション、そして原作にもあるタランティーノ的なウィットのきいたやり取りなど見どころ満載ですが、社会的なテーマといったものはゼロといってよいです。
監督自身があえて作りこんだという、へんてこな日本描写(日本刀を振り回すヤクザにはじまり、ネオンがぎらぎら光っている車両のある電車、そして名古屋駅前で我々の眼中に現れるのはなんと…)は、逆にここまで潔くやってくれると、ツッコミが止まらなくなる、愛らしいものとなっています。
真田広之をはじめとした日本人・日系人キャストの活躍も魅力的でしたが、個人的に一番好きなのはレモンとタンジェリンという殺し屋コンビ。ことあるごとに「きかんしゃトーマス」のジョークが飛び出す会話は微笑ましさ満載でした。
真面目に作りこまれたB級映画で、ビールやコーラ片手に頭を空っぽに楽しむ意味では最高の作品です。ぜひぜひ電車で映画館に足を運んで、大きなスクリーンでご覧ください!

『激怒』

雑誌「映画秘宝」の編集や映画関連の様々な著書やアートワークで知られる、日本最高の映画マニア高橋ヨシキが、満を持して送り出した自身初の長編監督作品です。
初監督の題材に選んだのは『ダーティハリー』のような暴走刑事もの。過激な住民自警団によって治安が保たれている町を舞台に、直情径行の刑事である主人公が、理不尽さに戦いを挑んでいきます。
本作で素晴らしいのが、カルト映画やインディーズ映画を様々な活動で支えてきた高橋ヨシキさんならではの、世の中の鼻つまみ者に対する温かい目線と、「普通とは違う」というだけで排除しようとする世の中に対する強烈な怒りです。コロナ禍でますます広がった、自分たちの規範を脅かす存在を排除しようとする暴力性を、自警団という実際の暴力で可視化することで、社会に対する強烈なメッセージを発しています。そして暴力描写という生ぬるい表現を超えた終盤のゴア描写は、「映画秘宝」の読者が見たい映像そのもので本当に楽しめました。
インディーズ映画であることは間違いないので、好き嫌いは分かれるかと思いますが、もしこの紹介で気になった方は一度見てみるのをお勧めします。

『さかなのこ』

魚に関する他を圧倒する知識と、その独特のキャラクターで今や国民的な人気を確立したさかなクン。彼の自伝をもとに、『南極料理人』や『横道世之介』で知られるヒューマンドラマの名手、沖田修一監督がまたしても素晴らしい傑作を生みだしました。
上映前から話題になっていたさかなクン役にのんさんを抜擢するというキャスティングですが、本作ではいきなり「男か女かは関係ない」という強烈な一言(監督の決意表明といえるかもしれません)からスタートし、何の違和感もなく、さかなクンの持つ魅力を体現しています。
「好きなことを好きであり続ける」という姿勢の尊さを、さかなクンのふるまいによって友人たち(ヤンキーの友人たちとのやり取りが本当に最高で、映画館は爆笑の渦でした)がポジティブに変化していく様を見せる一方で、本作の一番秀逸な点は、その姿勢を貫くことの難しさもしっかりと描く点です。さかなクンの夢を支えるために家族が払った犠牲、アルバイトなどで社会と足並みをそろえられずもがく姿、そしてチャンスに恵まれずただの変人となってしまった姿をなんとさかなクン本人が演じることで、「さかなクン」という存在の幸運をくっきりと映し出します。
人並外れた好奇心と愛する気持ちを持つ変わり者が、その情熱と才能を理解し、彼を応援し活躍する機会を差し伸べた家族や友人により、社会から認められていくという一つの寓話としてとても温かみと教訓のある物語となっています。
今年公開された邦画ではNo.1と断言できる作品です!間口の広さと教訓の深さを兼ね備えた傑作なので、マストで観てもらいたい素晴らしい一本です!

『百花』

『君の名は』や『天気の子』を手掛ける、日本映画界トップのプロデューサーと名高い川村元気が、自身の著書を初めて監督した一本です。先日開催されたサン・セバスティアン国際映画祭でも監督賞を受賞するなど、早くも国際的に高い評価を得ています。
原田美枝子演じる認知症の母親の、過去の回想と、現在の息子たちとの交流と衝突を中心に描かれるのですが、その映像がとにかくきれいです。長回しショットも多用されており、邦画でここまでテクニックが用いられながら、きっちりとまとまっているのはさすが川村元気だと感じます。
「半分の花火」というセリフがキーワードになって描かれていく母と息子の思い出は、母親の身勝手さゆえに時に目をそむけたくなるものですが、それも含めて愛が浮かび上がってくるシナリオは、多少時系列のわかりにくさや動機の部分で粗があるとはいえ、その粗も含めた味わいがこの作品の大きな魅力です。「記憶と忘却」という題材をビジュアル的に表現した本作は、初監督作品とは思えないとても高いクオリティでした。
認知症の当事者やその家族は、観ていてつらい部分もあるかと思いますが、美しく儚い魅力があふれる興味深い一本ですので、ぜひご覧ください。

『雨を告げる漂流団地』

『ペンギン・ハイウェイ』などを手掛けたスタジオコロリドの新作はNetflixオリジナルのアニメ映画ということで、CM攻勢もすさまじい1本です。
天下のNetflixがここまでプロモーションするということはなかなかの力作かなと予想して再生ボタンを押してみました。
取り壊しが決まっている団地に集まっていた少年たちが、ある超常現象で団地ごと海に漂流してしまうという物語なのですが、そこからのサバイバルがあまりにあっさり過ぎて盛り上がりに欠けていて、15少年漂流記の団地版をイメージしていた私はかなりその点でがっかりしてしまいました。終盤のアクションシークエンスは迫力もあるのですが、それまで見せ場があまりに少ないかなと感じてしまいます。
ある人物の正体が明らかになるにつれ、本作は実は漂流ものに見せかけたスピリチュアルなアニメだということがわかるのですが、個人的にはどちらかに振り切ってもらいたいという思いがありました。
巨大資本がかかわっているからこその難しさもあると思うのですが、配信ならではのより尖った一本をNetflixには作ってもらいたいですし、コロリドはまだまだ歴史の浅いスタジオなので今後に期待です。

『LOVE LIFE』

矢野顕子の同名楽曲から着想を得て、ある悲劇に直面した夫婦が過去のトラウマにも苦悩しながら、それを乗り越えようと格闘するさまを描く一本です。
本作に関してまず取り上げたいのは、主演の木村文乃と永山絢斗の演技のすばらしさ。前者はしっかりとした軸を持ちながら、時にもろさや傲慢さも垣間見えてしまう女性、後者は紳士的ながらプライドの高さなどもちらつく男性を演じており、2人の夫婦役が一見円満に見えてぎくしゃく感もあり、とてもリアルな存在感がありました。さらに今回この映画における最重要人物ともいえる聴覚に障がいをもつキャラクターが出てくるのですが、演じているのは砂田アトムさんというろう者の俳優が演じるという当事者キャスティングを実践するなど先進的な取り組みも素晴らしいです。
キャスティングだけでなくストーリーも、人がついつい思ってしまう(あるいは口にしてしまう)悪意、それゆえに生まれる葛藤が一つのテーマとなっているのですが、それが冒頭からかなり強烈です。ただしその悪意を糾弾するのではなく、それを自覚して乗り越えていくからこそ人間は成長したり、だれかとつながったりできるのだということを手話の会話やロングショットも交えながら丁寧に描いていきます。
日本映画のレベルの高さを味わうのに加え、新しい試みを応援する意味でも、この作品はぜひ劇場で観てほしいです。ぜひリアルな人間描写の妙を堪能してください。

『LAMB/ラム』

アイスランドの羊農家の夫婦が、飼っている羊から生まれた半分人間、半分羊の赤ちゃんを育てるという、狂気のスリラー映画です。北海道出身で、実家に羊がいたこともある私としてはぜひ見たいと思いまして、劇場に足を運びました。
ホラー作品は苦手なので、観る前は怖さがありましたが、実際に観ると1シーンを除いてぞくっとするようなシーンはないです。むしろ「今何を見せられているんだ」というクレイジーな光景が特に何のツッコミもなく進むという独特の雰囲気が漂います。
ストーリーの展開を楽しむというよりは、映画全体に流れる独特の時間を味わう一本ですので、内容についての細かな評論は語るだけ野暮というものですが、個人的には最後のあるどんでん返し展開(ビジュアル的に最もインパクトが大きいです)のあとをもっとたっぷり見せてほしかったです。
ホラーやスリラー映画が好きな方は、北欧発の尖った一本として、ぜひチェックしていただければと思います。

『ブロンド』

マリリン・モンローについて書いた小説の中でも、かなり内容が過激かつ審議が疑わしい作品を映画化したNetflixオリジナル作品です。
主演はアクション女優としては若手最強との評価を得るアナ・デ・アルマス。キューバ系ですし、アクションのイメージが強かったので、マリリン・モンローを演じ切れるかどうかという心配の声も世間ではありましたが、演技面ではマリリン・モンローの美しさをしっかりと表現できていると思います。
ただ本作は、シナリオも、見せ方も、はっきり言って「問題作」という部類だと思います。天下のNetflixがこんな炎上必至の作品を出すとは、何か政策に問題があったのではと思わざるを得ないです。
シナリオに関して言えば、本作のメインであるマリリン・モンローの男女関係の問題をことさらに悲劇的、かつ彼女自身も奔放な時期があったかのように描かれていますが、これはかなり脚色が強く、社会のイメージを無理やり膨らましたような形になっています。そして妄想でふくらまされた過激な性描写を、必要以上に生々しく描いており、途中観るのがかなりつらくなる作品でした。
完成度だけでなく倫理観でもかなり問題のある作品ですので、本作はよっぽどの物好き以外は見ない方がよいと思います。Netflixは上質な映画もあるのですが、最近は他社に押されているのか、オリジナル作品の出来が良くない傾向にあり、ちょっと心配な状況です…。

『四畳半タイムマシーンブルース』

森見登美彦原作で、『ピンポン』や『映像研には手を出すな!』を手掛けたサイエンスSARUがアニメを手掛けた、カルト的な人気を誇る作品『四畳半神話大系』。京都の下宿を舞台に、個性豊かな登場人物が織りなすユーモラスなやり取りを、独特の作画で描くオンリーワンな魅力を持つアニメが、今回タッグを組んだのは、京都で活躍する劇団「ヨーロッパ企画」が手掛けた傑作戯曲『サマータイムマシンブルース』。どちらも独特のテンポ感が魅力の作品だけにその化学反応はいかに…。ということで両方とも大好きな私はウキウキで映画館に足を運びました。
実際に観た感想としては、どちらの作品の魅力もしっかりと浮き立っていて、オープニングから夢中になりました。シナリオは『サマータイムマシンブルース』から大きく変化はないのですが、『四畳半神話大系』の世界観とキャラクターと融合することで、ここまでの新鮮味が出るのかと正直驚きでした。彼らの会話劇はずっと見ていたいほど、面白さと知的興奮にあふれていますし、最後のきれいな着地も見事でした。
サブカル好きには、天国のような2時間だと思いますので、ぜひご覧ください。Disney+でも配信されますが、やはりこのごちゃまぜの世界観は映画館でより堪能できる一本です。ぜひお楽しみください!

まとめ

以上、8月・9月に劇場で観ることができた映画たちでした!
最近の邦画は、脚本のレベルがとても上がってきていて、
ストーリーに入り込みやすいものが多くなってきていますが、
今月はそれに加えてキャスティングなどでも勝負している作品が多く、
観ていてとてもワクワクしました。

10月は今のところ大作の公開予定はなく、ミニシアターでゆっくり過ごすことになりそうですが、11月は新海誠の新作と、『ブラックパンサー』の続編が控えているということもあり、そちらは感想を書くのも体力を使いそうな予感…。

というわけで来月もお楽しみに!

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