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生活のピースを組みなおせ!~医療職を志す学生への職業紹介:作業療法士編~

はじめに

将来、医療系の仕事に就きたいと思っている人は少なくないでしょう。そんな中高生のために、こんな面白い職業があるぞ!ろいうご紹介記事をNoteに準備しました。私の職種は医師なので、どうしても「医者から見て」という記事になってしまい、本職からするとそれは違う!という部分も含むかもしれませんが、それでもよければ是非どうぞ!

1)作業療法士の魅力

医師として修業中の私ですが、実のところ医師よりもこっちの職種になりたかったなと思う職種が3つありまして……、その1つが作業療法士です(ちなみにあと2つは、看護師と社会福祉士です)。なぜ、作業療法士に強い魅力を感じるのか、そこからお話を始めたいと思います。

みなさん、大きな病気やケガを負った患者さんが入院した場合、入院前の状態まで改善して病院を退院できるケースってどれくらいあると思いますか?実は、この割合はそんなに大きくありません。むしろ、命は助かったけれど、例えば手足がうまく動かせなくなって、今まで通りの生活を送るのは難しいという状態になることが少なくないと言えるでしょう。言い換えれば、医師はなんとかして病気やケガを治療して、”元の状態に戻そう”と考えますが、それが叶うことはあまりないのです。この点、作業療法士の考え方はスマートです。そもそも作業療法士は、”そのまま元の状態に戻そう”と考えません。大事なことなので繰り返しますが、作業療法士は”そのまま元の状態に戻そう”としません。では何をするか。病気やケガを経ても残った能力を活かして、患者さん1人1人が大切にしている「作業」を再構成しようとするのです。このNoteのテーマ、「生活のピースを組みなおせ!」とは、こういう意味ですね。

2)作業療法士はいかに代替するかを考える

さて、代替という難しいコトバを章立てに使わせてもらいました。具体例を出して説明しますね。例えば、脳梗塞という病気によって、右手を動かすことができなくなった大学の数学の先生がいたとします。この先生は数学が大好き、学生に教えることがもっと大好きで、右手が動かせなくても大学で講義を受け持ちたいと考えていたとします。

このとき、医師は脳梗塞の治療を行い、なんとか右手が動かせるようにもっていきます。しかし、完全に元に戻ることはなく、なんとか動かせるけれど、授業ができるほどの改善は得られないというケースは少なくありません。ここで作業療法士が考えるのは、動かなくなった右手をどうするかではなく”ダメージを受けていない左手をどのように使うか”です。

おそらく作業療法士は、初めに左手で文字を書く練習を提案するでしょう。利き手でなくとも、練習するとかなり綺麗に字を書くことができるようになるんですよ。作業療法士は、動かなくなった右手に拘らず、動く左手をつかって、この先生が大切にする授業をするという”作業”を実現しようとします。

しかし、左手で字を書くにしても、あまり早く書くことはできず、授業をするのは難しいことが分かりました。じゃあ次にどうするか。きっと作業療法士は、黒板に板書するのは最低限にして、パワーポイントなどのソフトを使って授業を行う提案と練習をするでしょう。パワーポイントであれば、クリック1つで授業を進めることができますからね。

さらに、パワーポイントにしても、文字を打ち込むのに時間がかかるという問題が出たとします。それならばと、音声入力の提案をして……

どうでしょうか?右手が使えなくなってしまった数学教授に、左手や声など、病気でダメージを”受けなかった”機能を組みなおすことによって、授業をするという”作業”を再構築していく様子が伝わるでしょうか?このような、「できなくなってしまった”作業”を、残された能力を別の形で組み合わせることによって別の形でできるようにすること」を”代替”といいます。

3)作業療法士の”作業”って

このように、作業療法士は、ダメージを受けた患者さんに残された能力をかき集め、”代替”するスペシャリストであると言えます。そして、代替される、その人にとって大切なことを”作業”と言います。

作業には、いろいろなものが入ります。例えば、食べたりお風呂に入ったりすることも作業です。今お伝えしたように、授業をすることも作業ですし、バイクで走り回ることがその患者さんにとって大切なのことであるのなら、これも作業です。とどのつまり、作業療法士が頭に冠する”作業”という2文字は私たちの生きるということ、または生きがいとほぼ同義であり、作業療法士は病気やケガでできなくなってしまった”作業”が再度できるようにするという、きわめて患者さんの生きがいや価値観に寄り添った職種なのです。また、このような背景であることから、心の病気に対しても作業療法は重要な役割を占めています。精神科作業療法なんて言いますね。みなさんも、心が疲れたときに、なにかしらの”作業”に没頭することで、心が軽くなる経験があるのではないでしょうか。

4)医師が思う、作業療法士の魅力

患者さんの病気やケガが重症であればあるほど、できる限りの医療を行っても、患者さんを完璧に元の状態に戻すことは難しいように思います。これがおそらく、狭い意味での医師の限界なのでしょう。でも、作業療法士は違います。確かに少し不格好になってしまうのかもしれませんが、患者さん1人1人が人生において大切にしていた”作業”を工夫と機転と組み合わせで、再構築していくことができます。アイディアが生まれる余地がある限り、作業療法には恐らく限界が存在しないのでしょう。医師としてこれ以上の回復が望めない患者さんに対してでも、それ以上の日常生活や生きがいを追求することができる作業療法士という職種は、尊敬するとともに心強く感じるのです。

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