心理学的に”よい”記憶の方法
〇ここでお話すること〇
大学生になって特定の学部に入ると、物事を大量に暗記する必要に迫られることは少なくないでしょう。それこそ「どうせぇっちゅうねん」というくらいの量を。
ここでは、心理学的に考えて”よい”と思われる記憶の方法について、考えをお伝えさせて頂きたいと思います。
〇大半は、覚えられないのではなく思い出せない〇
記憶に関する嘆きは多くの場合、「覚えれん……」という表現をとります。
しかし、心理学的には、「思い出せない」という表現が適切です。
〇人間の脳の記憶システム〇
人間の脳は覚える際に
感覚記憶➡短期記憶(ワーキングメモリ)➡長期記憶
と情報の転送を行います。
逆に思い出す際には
長期記憶➡短期記憶(ワーキングメモリ)
*ちなみに我々が認識できるのは、短期記憶(ワーキングメモリ)にある情報だけです。
と覚えたものを引っ張り出してきます。
さて、じゃあ情報はいつ長期記憶に入るのかということですが……
ちょっと以下の課題をやってみてください。
指示1.「インスリンは血糖値を低下させる」
これを覚えてください。
指示2.「94328758」
これを、目を閉じて言えるように覚えてください。
指示3.最初に覚えたことが何だったかを教えてください。
……。
指示3で「インスリンは血糖値を低下させる」と回答できたなら、この情報はもう長期記憶に入っています。
少し難しい話をすると、
①長期記憶に入った情報は生涯消えない
②短期記憶(ワーキングメモリ)では、数字7±2桁の情報しか保存できない
と、心理学的には考えられています。
なので、指示2において短期記憶(ワーキングメモリ)を数字で食いつぶしているにも関わらず、指示3で思い出せたなら、その情報は生涯消えない長期記憶に入っていて、そこから転送されてくる以外に方法がないのです。
つまり、指示3で思い出せたなら、それはもう長期記憶の中にあるのです。
でもきっと、読者のうち数名は、明日になったら思い出せなくなっているはずです。言い換えれば、長期記憶から短期記憶(ワーキングメモリ)に情報を呼び出せなくなっているのです。
ここを勘違いすると、問題が思い出せないことにあるにもかかわらず、すでに長期記憶にある情報を「長期記憶に転送しようとする」ズレた努力に時間を使ってしまうのです。
〇じゃあ、どのように記憶するのが良いのか〇
であるからして、なにかを覚えたいと思ったら、「覚える」のではなく「思い出す」訓練をすべきなのです。
簡単な例で言えば、何度もノートに書くより、何度も思い出したほうがよいのです(例えば計算カードを使ったりしてネ)。
その他の工夫としては、「覚える」際に、他の事項と関連づけるのも有効です。他の事項と関連付けて長期記憶に情報をしまっておけば、紐づけられた情報がきっかけとなって思い出しやすくなるのです。(詳しくは、活性化拡散モデルで検索してみてください)。
逆に「思い出す」ときは、なるべくいろんな角度から思い出す訓練をすると、思い出す回路が強化されると考えられます。
例えば……
糖尿病に関わるホルモンは?➡インスリン
糖とカリウムを細胞内に移動させるホルモンは?➡インスリン
C-ペプチドと産生量が同じになるホルモンは?➡インスリン
インスリンが作用しないとどうなる?➡血糖値上昇、細胞飢餓&血管障害
みたいな感じですね。少ない手がかりで沢山思い出すトレーニングができれば最高です。
〇最後に、覚えられたらいいのかという問題〇
さて、ここまでで、試験に答えるという点ではOKかと思います。
ただ、それが使える知識かといえば……というのが最後のテーマです。
使える知識には、3つの条件が備わっています。
◇正確性……間違っていない
◇流暢性……素早く思い出せる
◇深さ……関連知識も思い出せる
という感じです。例えば、「インスリンって?」と聞かれて、「血糖値を下げるホルモンです」と正確にこたえられても、思い出すのに2分も3分もかかるようでは使い勝手の悪い知識ですし、同時に頭の中で、『糖尿病に関わるホルモンで、測定にはC-ペプチドが有効で……』と思い浮かぶ深さがなければ実用に耐えないということです。
ぜひとも、覚えた後に思い出すトレーニングも忘れずに、正確で流暢で深い知識を蓄えてみてくださいね!
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