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試演会振り返りレポート*川瀬亜衣

この記事は、川瀬亜衣さんの2021年7月10日、11日に開催した「クサワケテ ユケ ワークインプログレス(試演会)」の振り返りレポートです。
川瀬さんは、7月10日のパフォーマンス『見ないダンス』に出演しました。

見ないダンス 
ダンスの覚え方

 ダンサーとして舞台作品に立つとき、客席に集まられた皆さんへ自分の体を通してダンスを届けようとする。今までは、ダンスが体の形や動きとなって結晶されることを望んでいたように思う。
 踊るとき、あたりに聞こえる音、自分が出す音、体が感じる圧や質、におい、温度、見えるもの、皆んな感覚しようと体を研ぎ澄ますが、それらを得たら、やはり体の形と動きになって出力されていく感覚が強い。だから、私は素直に心の望むままその精度を高めようと稽古を重ねてきたのだと思う。   
 そうすると、自ずと体の表面の意識が高まってくる気がする。どんなシルエットになるか?それによって空間はどう造形されるか?どんな印象が覚えられそうなポジションか?その形へはどのような動機が体を動かすのか?  …

    いずれも視覚的にダンスを客席へ届けようと、身体操作と身体感覚や意識をチューニングして取り組むために、体の表面の意識のボリュームが大きくなる。私が私の体として感覚できる領分とそうではない他の世界、これら2者の際として感じられるものが体の表面だと感じるが、ダンスの舞台に立つときは、パーンと敏感になった体の表面で自分の体がある空間の形を動いては感覚し、どのような造形をどんなリズムでかたち作って連ねていこうかと体がその時その場所にあるものに対してレスポンスしていく。
    今回「見ないダンス」を踊ると、この体の表面というのが今までのそれとまったく違った雰囲気だった。

 「見ないダンス」では、客席の皆さんには目で見ずにダンスを鑑賞してもらうということで、中でも音に着目してダンスを立ち上げようとしていた。
 音は不思議だ。耳は鼓膜に振動を感じて音として聞くのだから、皮膚や表面に直接触れてくる動きかもしれない。私たちの体じゃどうしても通過したりできない隔たりも、音は自在に通り抜けられるし、直接私たちの耳の鼓膜にさえ触れる。通りの向こうの車の走行音だって聞こえるし、雷の轟や雨の当たる音さえごおごおと作品上演空間に流れ込んでくる。
 光の届かないところでは目に像は写しこまれないが、音は暗闇でも物を伝って振動を届ける。そう思い巡らしているうちに、音はどれもが分け隔てなく誰かの耳の鼓膜を揺らす可能性があることが体感として理解され、ついに体内と体外の際は溶けて消えてしまって感じられた。
 「見ないダンス」の作品の中で踊る私の体の際はふやけて溶けて、体のもっと中の方、体温の高い柔らかい部分を頼りに私の体を感覚していたように思う。ワークインプログレスで、実際に人前でパフォーマンスをして初めてはっきりと感覚した。

 私にとって「見ないダンス」はとても久しぶりの作品出演で、コロナの影響もあってか普段の稽古はどうしても一人でコツコツとした雰囲気になりがちだったため、稽古場とはいえ人前で踊るという感覚に妙な新鮮さがあった。
 恐る恐るの雰囲気が満タンだったのだけど、歌いながら動き続けるという稽古をした日、久しぶりに自分の「踊る」感覚が返ってきてくれたのだった。
 歌と踊りの同時進行はなんだか噛み合わせがうまくゆかず、もし一緒にやろうとすると、自分がこれまでやってきたような踊りになりにくい。自然と、踊りがブレスするタイミングや空間を感覚しようとする意識のボリュームをあげているタイミングなどで、声をあげるような感じになった。声はあたり一面自分の体も含めて響くからか気持ちがあわあわしてしまう。まだまだ私は声が体に響くことに対して不慣れなのだと思う。翻って、私がこれまでやってきた踊りは、発されることのない声が燃料にもなっていると感じた。
 この日の稽古は、伴戸さんと大歳さんもそれぞれ一人ずつ行って順繰りに見ないダンスを体感した。当たり前のことかもしれないけれど、びっくりするくらい、全員違うダンスをしていたのが、とても嬉しかった。面白いと思うものが、いろんな要素・シーンとなって、作品の中に配置されていく。
 稽古の後半では、音響の甲田徹さんが加わり、映像の小池芽英子さんが加わる。創作の中に人が増えて、作品に登場するのは人間だけではななくなって、鳴り物がいくつも登場することになった。物は定位置に吊るされて音を響かせたり、人間に投げられて音を鳴らしながら空間の中を人知れず移動したりした。
 物と関わる動作と音に誘われて生まれてくる体感によって踊らされることもあった。同じ空間で踊っていた大歳さんとは、付かず離れず関わっていたような感覚がある。私たちの踊りの行き先が、音となって客席にダンスを届けることだと思っていたので、大歳さんと川瀬の二人が近くに寄り合って何か関わり合うようなことをやることも、お互いの距離は空間的に遠いので音で応答したりすることも、視覚的な効果ほど差異はないのではないかな?という体感があった。だから、自分の日常的な他者との関わり方とは匙加減が少し違う感じになる。実際、客席にはどのように届いていただろうか。


 上演後、研究会の皆さんと振り返りの感想を一人ずつ話し合った。その際に、音が響きやすいところとそうでないところがあることを知った(客席奥の壁きわで立ち上がるとダイレクトに聞こえること)。今回、踊り手としての「見ないダンス」に触れられたのだと思った。今度は、客席に起こり得る「見ないダンス」のさまざまを知り、私のまだ知らない「見ないダンス」を踊る体の新たなチューニングを得たい。
(2021.9.23)

写真:草本利枝

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