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試演会オンライン振り返り*「ことばでうごく」光島貴之×辻野恵子

2021年7月10日、11日に開催した「クサワケテ ユケ ワークインプログレス(試演会)」の研究会メンバーによる振り返りをオンラインで行いました。パフォーマンス、ワークショップ、美術など、創作過程での試みや収穫、ワークインプログレスを経て今後の課題などを、各企画の担当者が話しました。

※振り返りは、参加者の都合により2021年8月22日、9月26日、10月15日の3回に分けて行った。

パフォーマンス『ことばでうごく』
作・演出・出演:光島貴之 辻野恵子
ミクステクスチャー:小池芽英子
「見えない人は自分は動かず、言葉で人を動かしてえらそうにしている!もっと1人で歩いたり自分でいろんなことをやれよ」半世紀も前の盲学校時代、「エリート盲人」に対して嫌悪感を持って言われた言葉です。
以来ぼくは、自分で体を動かし、人任せにせず、何でも体験することを大切にしてきました。ところが今回思いついたパフォーマンスは、言葉で人を動かそうということ。動かされるのは僕自身でもあるので、「エリート盲人」になるのとは違いますが。少し不安も持ちつつ、言葉のやりとり、また言葉と言葉のあいだの時間から、その瞬間のからだと心の動きを感じる。そんなことを観客の皆さんと共に体験できるといいなと思っています。
(試演会の当日パンフレットより)


練習場所の変化で相手を感じづらくなった

辻野:4月頃から週1回、10:30-12:00に練習をしていました。毎回、いろんなことを試したり、光島さんに質問したり楽しかったんですけど、やっぱり、(本番の)日が近づいてくるにつれてというか…。作品の構成は、前半は光島さんと私のやり取りがあり、途中からお客さんに参加してもらおうと考えていました。お客さんとのやり取りを具体的にイメージできたのは、6月の月イチワークショップ。試演会をやるアトリエみつしまでリハーサルをやり、その時に初めて「ああ、こんな感じか」と思いました。その時に、客席の配置も、一方向ではなく囲む形にすることを決めましたが、そこから結構、いろんな発見がありました。
川那辺:月イチワークショップ以降にどんどん発見がうまれていったということですか?
辻野:発見というか、うまくいかないこととか。それまで練習は、光島さんの鍼灸院でやっていたんです。狭いので、相手がやっていることがすごくわかりやすかった。でも、アトリエでやった時、広くて、今まで感じられていたことがわからなかった。広いとこんなに違うのかと。それで私の家や公園でも練習したんですが、公園はすごく難しくて。その時のことを、光島さんが研究会へのメールで「何かに乗り上げた」と書いておられた。
光島:そうそう、うまくいかなくなった。
辻野:それまで順調にきていた感じだったので、「あぁ」って。それと、私はお客さんがどんどん私たちに指令をしてくるようなやり取りを想像していました。研究会のメンバーにお客さん役をしてもらった時、そういう感じになったんですよね。私は、この展開は面白いと思ったんです。だけど、光島さんに聞いてみたら、混乱するし、とてもやりにくいし、置いてきぼりになる感じがすると。それで、本番の5日前ぐらいに、お互いに言いたいことを言いましょうとメールでやり取りをしました。そしたら「光島さん、そんなこと思っていたんですか?」ということがありました。私が面白いと思うことが、光島さんにとってはピンとこないとか、そういうことがたくさんありました。本番前日に「この作品、面白いんかな?面白いことが思いつかへん」と映像の小池さんに泣き言を言っていたんです。
最終的には、そういうことがあったからこそ、やれることとしては最善を尽くせたかなと自分では思います。光島さんがあまりにもできるから、目が悪いことを忘れそうになるんです。空間(認識)の違いとか、声が四方八方から聞こえてくるとわかりにくくなるとか、私は想像できなかった。その他に、私は、宮沢賢治の作品を取り入れたらどうかと提案したんです。オノマトペも入っているので、共有しやすいと思いました。でも、光島さんに宮沢賢治は視覚的な表現が多いからピンとこないと言われました。
光島さんが安心して動けなかったら私も面白くない。その人としかできないことをしたいと思いました。

練習を重ねて作っていく経験

川那辺:光島・辻野チームが、作品でやってみたい、実験したいことは、他人に動かされてみるということでしたよね。それ自体は、今回、どれくらい達成されたと思いますか?そこに対して、新たな発見などがあったら、それも教えてください。
光島:言葉によって動かされる、動くというのがあって。かなりできたかなと思っていますが、動かされている、自分が動いている動きに関して、動きながら、さらに説明じゃないけど、単に動かされているんじゃなくて、自分が動いている時、自分の動きに対して言葉というのも、やっぱり必要だと思ったんですね。それは、伴戸さんたちの作品を見て、余計そう思ったんですね。そこまで出来るとよかったなという反省はありますが、かなり難しいと思っています。それと、広いところでやって、結局、うまくいかなかったのは、辻野さんも言ってくれたように、今回はあまり接触しないということ、言葉で動かすということだったので、広いところにいくと混乱してしまうというか、こちらとしても実感が持ちにくかったというのが一つ。僕、今までやっていたのは、ほとんどコンタクトインプロみたいな感じで、練習も全然なくて、前日や本番前に少しやる程度。ほとんど即興的なことしかやってなかったのが、今回は4月からですからね。練習するごとに反省したり組み立てたりして、こういう形で作り上げていくというのは、今まで経験がなかった。だんだん、煮詰まって難しいところが出てきた。そういうことで辻野さんも悩んでいた時に、僕は泣きつく人はかめいさんだったんですけど(笑)、メッセンジャーでぼやいてました。別に辻野さんだけじゃないんですよ。僕も泣いていたんですよ。
辻野:でも、それでよかったですよね。
光島:それはよかったと思っています。いろいろ、ちょっとわかってもらってないなということ、僕もわかってないなということが、出てきていたんで、それが解決というか、わかったということがよかったのかなと。あと、反省は、取り囲むような形で客席があったことで、辻野さんがやりたかった、周りの人から声を出してもらうとか、周りの人も動いてもらいながら僕らも動いていくというのが、やっぱり難しかったんですよね。取り囲むじゃなくて、対面している形であれば、僕も客席の動きというか雰囲気、声の様子とかを捉えやすいなと思ったので、もし、次にやる時は、取り囲むやり方はやめて、対面する形でやれば、辻野さんがやりたいことがやりたい気もするし、それは僕もやりたいことではあるので、いけるかなと思いました。
辻野:でも、私はそれを絶対やりたいというわけでもないんです。その時は面白いかなと思ったんですけど、それよりは光島さんとのやり取りがちゃんと出来て伝わりあえるというか、そこを優先したいと思います。私たちのアフタートークの感想で、見えない方、生まれつき見えない方かな、は、私たちのパフォーマンスでどう動いているのかわからないところがあるとおっしゃっていた。伴戸さんの作品では、ダンサーの大歳さんや川瀬さんが、すごくいい感じで説明しながら踊ってはったので、そういう感じでできたらいいなと思いました。でも、私たちは、動きは即興でやっていたから、説明と言っても、オノマトペくらいが精一杯。この前、光島さんは振付をつくりあいたいと話しておられました。そういうこともやってみたいなと思います。もしかしたら、光島さんはたくさん稽古するのに懲りて、もうやりたくないかなと私は思っていたんですが(笑)、次につながる話が出てきてよかったなと思いました。ワークインプログレスをやって、今、私は、やっとスタート地点に立ったという感じがしています。

「笑い」はキーワードかも?

光島:試演会の後、「さりげなくラジオ」に出演しました。ラジオをやっている稲垣さんが試演会を見に来てくれたので、感想なども聞きました。その中で「光島さんは笑いをとろうとしていますよね」という話が出てきて、僕自身もそうだと思ったんです。確かにその傾向が僕にはあったなと思って。もしかしたら、笑いというのは一つのキーワードだったのかもしれないし、そうなってくると、やってきたことが、どういう範疇に入るのか。お笑いなのか芝居なのか。
辻野:(笑)え?わざとらしかったということですか?
光島:そうじゃなくて、それが面白かったって。
辻野:なるほど。
光島:笑えるところもあった、「よかったです」という話だったんです。僕も関西の人間で、吉本新喜劇で育った人間やから、笑いを意識しているところもあったんやろうなって。そういうことも意識しながらやればいいかなって思いました。
伴戸:笑いで一つ、いいですか?私も笑いはすごく好きなんですけど、桂枝雀さんの本を読んでいて、大事やなと思ったのは、笑いというのは「ほんま領域」と「ウソ領域」の間を行き来することで、価値観を揺り動かされるところでうまれてくると。そういう意味では、アートは、普段とは違う見方を提示することで、ハッとする驚きや、そこで笑いもうまれるのかなと思います。そういう意味では笑いというのは、ただ単にエンターテイメントという枠組みだけでも考えられないことだろうと思いました。
光島:そうですね。僕もそう思いました。辻野さんと練習している時に、鍼をする場面とか、僕が日常やっていることを取り入れるという話があって、僕も前から鍼やマッサージをアートとして表現したいなと思っていたんですよね。今回、初めて、そういう形がちょっとだけできたんですけど。初めは、鍼をやるというのは、ちゃんと日常やっているのをそのままやればいいのかなと思っていたんですけど、それでは面白くないというか、それをデフォルメして極端にやるということになっていったんですけど、それも、実際と空想の世界、その辺りの行ったり来たりがあることが、見ている人にも伝わるのだろうと思ったので、それはその通り。
辻野:基本的に私は笑いをとろうとしてない、してないというか、わからないけど、笑いは真剣にやらないと面白くない。笑いを狙っていくと、笑わせようということが目立って相手は笑えないですよね。めちゃくちゃ真剣にやった方が、私は面白いと思っています。
川那辺:今、出ている「笑い」というテーマは面白そうだし、「振付を作る」という言葉も、次のステップとして面白いことだなと思います。辻野さんのパフォーマンスで、私、笑いっぱなしなのですけどね。
辻野:私はお笑いがすごく好きです。そこにストイックに取り組みたいと真剣に思っているから、笑いに関してはいろいろ思っていることはあります。

客席の配置から感じたこと

五島:光島さんは、囲み舞台がやりにくいとおっしゃっていました。次は、対面でやりたいという理由をもう一度お願いします。
光島:当日の反省でも言ったかもしれないですが、私は、ぐるりと取り囲まれて人の声が聞こえてきたり、動きの気配があったりすると、自分がどこにいるのかわからなくなるのです。どっちを向いてやっていいのかわからない。工事現場に取り残されたような感じというのか。方向性もわからなくなったりするので、そういう意味で、周りが盛り上がれば、盛り上がるほど、自分が置いてきぼりになるような感じ。それはひょっとしたら慣れかもしれないのですが、そういう経験をこれからしていくこともないだろうと思うので、そういう意味で、取り囲むよりはステージと客席が分離されている、区切られている状態の方がやりやすいし、音の方向が、例えば、右半分の人がこうなっているねとか、左半分の人がとか、ステージに近い人が声出しているかなとかわかりやすいんですよね。そういう意味で、分離した形でやりたいなって。
五島:わかりました。直前に、円形にするか対面にするかを決めた時に、お客さんの声を入れるなら、囲んだ方がいいのでないかと変えましたよね。でも、結局、やってみたらそういうことだったということですよね。
光島:そうですね。囲むことにしたもう一つの理由は、その方が人数も多く入る、お客さんとの距離も均等で近い、かな、ということで、僕はいいなと思ったのですが、なかなかそうはうまくいかなかった。
(2021年8月22日)

写真:草本利枝


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