見出し画像

東京遠征中に推し棋士に会ってきた話【後半】

この記事は前回の記事の続きになります。

2枚落ち1局目

ということで、再び加瀬将棋教室にやってきた私は今度こそ入会費を払って正式に教室の生徒に。ただ、普段は長崎在住ですから定期的には来ることができないということで、1回スポットの受講ということでお願いしました。

教室では2局教わることができます。毎回、担当の講師が2名おられる(場合によっては加瀬七段も講師をお務めになる)ので、それぞれ1局ずつ教わって、感想戦までやってもらうという形での勉強となります。

手合いは希望をお伝えできるようで、今回は2局とも2枚落ちで教わろうと思っていました。もっともその割には、こちらは「二歩突っ切り定跡」のパターンの一つをうろ覚えしていただけなのですが。そこはもう、気合でのぞんで後はその場でベストと思った手を指そうということで臨みました。

1局目は、一瀬浩司アマに教わりました。2枚落ちの下手から、例によって4筋、3筋と歩を突いていく形。途中まで覚えていた通りに進行したのですが、どこだったか上手が指すはずの1手を省略されて、下手の飛車の横利きを通す前に位を取られて仕掛けられてあら?なんか思ってた展開と違ってきたなと思った瞬間、どんどん抑え込まれてしまうという展開に。

例の振り飛車が対抗形でよく負けるパターンに入っていくのとよく似た展開になったな…と思いつつも、ここは明らかに緩めてもらったなという手もあったので、なんとか手をつないでいこうと自分なりに奮闘はしました。

途中「それだと負けますね」的なことを言われて無理やり手を戻されて、「ここでいい手があるんですけど」というヒントなどまでもらってしまって。そうか、将棋を「教わる」ってこんなことなのだなと妙に一人で納得しながら、なんとか詰ませるまで誘導してもらいました。

講師の先生がた、指導を受けるたびに思うのですが、記憶力(対局振り返りのときにすぐ再現できる例のすさまじいあれ)もさることながら、こちらの棋風はもちろん、悪癖も一瞬で見抜かれるというのがすごいなと改めて思います。

そういった彼らの能力(ある種の職能なのでしょうか?)直接お目にかからなくてもテレビやネットなどのメディアを拝見していればわかることでもあるのですが、目の前でその将棋の記憶力のすごいところを目の当たりにする感動という部分はあるように思います。

ともあれ、メインの2局目、推しの棋士に教わる前に2枚落ちで1局教われたのはありがたいことでした。今の1局を踏まえた反省を経て、戸辺七段に教われるな、と。

2枚落ち2局目:ついに戸辺七段にお目にかかる

さあ、1局目が終わりまして。教室には主宰の加瀬七段はもちろん、奥様も教室の様子を温かく見守ってくださっていたのが印象に残っています。2局目の前に「戸辺七段(との将棋)、緊張してる?」といったお声掛けをいただいたように記憶しています。

そらもう、緊張していないはずないじゃないですか。メチャメチャ緊張していました。なんなら、今回の東京の本来の用事である言語研修よりも緊張したくらいです。

すぐ部屋のほうにどうぞ、と言われたのですが、一度落ち着かないとまずい。ということで、少し洗面所で気合を入れなおさせていただいて、戸辺七段の待つ対局の部屋に向かいます。

い、いた…ホンモノだ。

テレビ(とAbemaTVとYouTube)でしか見たことない、まごうことなき戸辺誠七段がおられました。

戸辺七段のほうからごあいさつくださったので、かなり恐縮気味に挨拶をお返しして、「2枚落ちくらいでいいですかね?」とおっしゃったので、あらかじめ想定していた通りの手合いでしたし(というかそれはもう推し棋士ですから異論もへったくれもあったものではありませんよね!)、ぜひそれでお願いしますということで2枚落ち2局目となりました。

やはり、自分が覚えていた定跡どおりの展開で途中までは合っていたのですが、どこか1手省略されて先に6筋を位取りされてしまって、飛車の横利きを止められる展開に。

ひょっとして、2枚落ちでの上手の常とう手段なのかもしれないなと思いつつ、さすがに1か月以上前のことでもありますしどういう棋譜だったかまでは覚えていないのですが、やはり途中何度か手を戻していただいたりヒントをいただいたりして、1局目の一瀬先生と同じく詰みまで誘導してもらいました。

以下やや専門的になりますが、大事なポイントをいくつか教えてもらいました。

上手の狙いがどこか(あるいは、狙いがあるのかないのかも含めて)読もうとすることは大事だということ、大駒のさばき方の基本的な考え方と、私自身が見た目が派手な手を選びがちだが、それが最善の手とは限らないということを考えたほうがいいよ、ということ。中終盤の勉強が足りていないようだからそのあたりもう少し今後がんばるといい、というようなこと。

推しの棋士がそうおっしゃるのですから、心して今後棋力向上につなげない手はありません。これはもう今後もしばらく将棋をやめることはできないな、とも思いました。

その1局で教わったことに加えて、なんとこちらが愛用してやまない石田流のことまでいろいろ教えてくださるという光栄にあずかりました。こんな幸運なこと、あるでしょうか(いやない)【レトリック疑問文】。

これは絶好の機会ということで、例の戸辺七段の棋書に書いていなかった展開で、ネットの対局でいつも苦労している局面での対応を2つほど相談しまして、どれもバッチリ対策と考え方を教えてもらいました。

感激、ただ感激。

大サービスを賜る

もうこれだけでも十分果報者だと思うでしょう。これに加えて、対局が終わった後ダメもとで、棋力を引き上げてくれた(と私が思っている)石田流の本にサインなどしてくださることは可能でしょうか…?とおそるおそるお願いしましたら、快く引き受けてくださったのでした。

戸辺七段は多数棋書があり、とりわけ石田流と最近は中飛車の棋書も出されていたところで、そちらのほうに書いてもらったら、とは加瀬先生の奥さまの言。

その場でもゴキゲン中飛車の本は加瀬将棋教室のほうで販売していらしたのですが、私自身はもう長崎のほうで購入して持っていたのでした。2冊買うのも悪くないが、重複してしまうのもな…と。

それに、こちらとしては揮毫を賜るのであれば思い入れのある本にぜひ、という思いがあったので、今回東京に来る際にはその「万が一」の幸運を期して、『石田流の基本―早石田と角交換型』(東京:浅川書房、2012年)を持ってきていたのでした(持ってきとんのかい)。

教室に来る前から、サインいただけるチャンス、ワンチャンないか…?と思って、最寄り駅すぐ近くのコンビニでサインペンも買っていたのは、ご本人にはもちろん内緒です。

「えらいまた昔の本だなあ」とは一瀬先生のコメント(聞き逃してませんで先生!!)でしたが、まあそれはそれとして。愛着と思い入れのあるこの本に、出版後10年経った2022年とはいえ、快く揮毫いただいた次第でした。

サイコーでしょ。とどめに、戸辺タオルまで手に入れたとあってはもう。40代半ばにしてミーハー丸出しというなんとも醜態をさらしたなとは思いつつも、かくして2022年8月27日、人生最良のベスト3には間違いなく入るであろう1日となったのでありました。

教室後の話

教室後、前回お邪魔したときと同じく、有志の生徒さんたちと先生方とで近くの某所で食事をする機会がありました。これにお誘いを賜ったとなれば、参加しない手があるはずはありません。喜んでお邪魔するの1手。以前から大ファンであるとこちらが申し伝えていたこともあって、テーブルのすぐ正面に座らせていただいたのはありがたいことでした。

ここでは書けない話も含めて将棋界の話、こちらのトルコでの将棋との関わりの話など、2時間半くらいだったでしょうか。とにかくこちらもこんなところで遠慮するわけにはいかないとばかりに戸辺七段に質問を重ねまくって、あっという間に時間が経ってしまったという感想です。

ダイエット中であるのでアルコールはどうしようか、と思っていたのですが、こんな日に飲まない手があるんですか(いやない)【レトリック疑問文その2】との周囲のツッコミに屈して、その日が東京に来て最初のアルコール摂取になったはずです。

たしかに久しぶりのアルコールはおいしかった…ですし、人間本当にダメな生き物でして、酔うと本来なら自制しないといけない話までしてしまうというんですから困ったものです。推しであるはずの戸辺七段にもアルコールが入った後かなり失礼なことを言ってしまった可能性が高いのですが、そこは人格者として知られている(たぶん)彼のこと、豪快なさばきで切り抜けられたと記憶しています。さすがだぜオレの推し。

余談ですが世間とはせまいもので、加瀬将棋教室に通われている方の身内の方が、私のトルコ語講座の受講生だったということまで判明していて、世間って本当に狭いものですねえ…となったことも付記しておきたく思います。かようにして、将棋はコミュニケーションのツールであることですよね。

かような展開となっては、記念にお写真を一緒に撮ってもらってもいいでしょうか、とお願いしないわけにもいきますまい。食事会終了後、お店を出たところで記念に1枚写真まで撮ってもらいました。

今回東京に来るまでに体を絞っていてよかった。それまでの体型、写真で現実を直視するのがつらい部分がありましたから、それを感じずにいつでも見返すことができますしね。

ともかく、この写真は大事に取っておくことになるだろうと思います。なんといっても、人生初の現役棋士とのお写真でっせ。

帰りも途中まで電車でご一緒して、最後に公式戦の対局がんばってくださいと僭越ながら激励のお言葉を申し上げて、推し棋士との対面という一日が終わったのでありました。ああ研修もそうだけど、本業も将棋も頑張ろうと改めて心に誓った一日でありました。

今回のためにいろいろ調整してくださった、また情報など教えていただいた関係者のみなさまに心より御礼申し上げます。何より、加瀬七段と教室のみなさま、そして戸辺誠七段ご本人にこの場を借りて改めてお礼を申し上げたく。応援してますし、またどこかでお目にかかるのを楽しみにしたいと思います。なんせこちとら、遠い関東圏ながら教室に入会を果たしていますから。

この記事が参加している募集

記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。Çox təşəkkür edirəm! よろしければ、ぜひサポートお願いいたします!いただいたぶんは、記事更新、また取材・調査のための活動資金に充てさせていただきます。