第108回薬剤師国家試験 所感

国試お疲れ様でした。
受験生の方はまずは自分を労ってください。私は去年学会など色々なことがあったため、国試終わりに一息つくことができず、その後疲れを結構引きずってしまったので、春までにちゃんと小休止を挟むことをお勧めします。

私の現在のステータスはペーパー薬剤師なのですが、前回の国試の時に意識したことが「1年後も知識として使える勉強をしているか」ということだったので、1年まったく国試の勉強や復習をせずに解いてみたらどうなるんだろう、ということはずっと頭にありました(といっても新薬や研究関係の勉強はしていましたが…)。
そのため、今回改めて解いて思ったことをここに書こうと思います。

今回は現地で受けていないため、禁忌肢には言及しません。また当初は今回取れた点数を書こうと思っていたのですが、薬ゼミの得点分布からボーダーがどうなるか怪しいので、いったん非公表でいこうと思います。もし所感を読んで点数や勉強法に興味がある方は個別にDM等で連絡ください。

全体所感としてはいわゆる「捨て問」が大幅に減り、新傾向の問題には親切な誘導や選びやすい選択肢がついていたように感じました。またここ数年発展的だった薬剤がオーソドックスな出題に戻った感じがありました。こういったことが平均の上昇に寄与したのかもしれません。
あとは薬の化学的な側面からの理解は相変わらず多いと感じたので、受験生の方はぜひ化学構造から薬の様々な側面を推定できるようにしておくことをお勧めしたいです。医療チームにおいても薬剤師としての強みはそこにあるように思います。

必須

去年は新傾向の難問と考えさせる物化生がそれぞれ数問あったのですが、それがなくなった分素直な問題に感じました。

<物化生>
9: カルボニル化合物の反応。これは必須にしては難しい気が。
10: Mgについて。ひとつの物事をいろんな視点から問う問題で、こういうのが得意だと必須は伸びる気がします。
11: 骨なんて必須ではメジャーどころ以外は知らなくてもと思うんですが、仙骨は脊椎の観点から重要だと思います。
12: 心臓血管中枢っていうとすっかり忘れてたんですが、ようは命を保ってるところを選べということだろうと思い延髄を選びました。
13: 脂質。名前の意味を考えることは勉強においてとても大事だと思います。セリンの構造が分からなくてもアミノ酸という考えに至れればOK。

<薬理>
26: タキフィラキシーについて。もう正確な定義は忘れていて、なんか脱感作みたいにだんだん弱くなってくイメージのみだったんですが、幸いにも絞れる選択肢でした。
30/38: スプラタストやエボロクマブのような独特の薬理の薬は必須で出題しやすいように思います。
36: ロペラミドについて。作用機序ではなく作用点を問うことで難易度の調整がはかられているのかなと思いました。
40: -idineはα₂刺激、みたいなステムは1年たってもどれも覚えられていました。強固な記憶になると思うのでステムは完璧にしておきたいところ。

<薬剤>
44: ACE阻害薬がプロドラッグであるとかを覚えてなくても、エステラーゼ→エステル分解ということを理解しておけば構造を見てちゃんと解ける問題。酵素の名前の意味は必ず覚えていてほしいです。
55: マイクロニードルを使った医薬品はないのでやや教養という感じ。

<病態>
59: PDについて。病気の症状と薬による副作用は混同しやすいなと感じた問題。
61: ASOのような割と独立した疾患も必須で問われやすい気がします。
69: DSUはもっぱら副作用、というイメージを勝手に持っていたので、使用上の注意ってどれだろう…となってしまいました。
70: PSの値をここまで考える人はあんまりいない気がしますが、統計学は本当に大切な分野なので国試を通して得意になっておくといいと思います。

<法規>
72: 話題になった歴史問題。個人的にはこういった完全な教養を問うものはCBTで出すのが適当であり、そこで解ければ十分だろうと思いはあります。知識というのは○○歳までの偏見という言葉もありますし…。ですが一方で法規・制度・倫理の分野はネタ切れに陥っている感があるので、新傾向を混ぜたいという出題者の意図もあったのかもしれません。
76: レギュラトリーサイエンス、という言葉を何となく知ってるだけだと解けない問題。どういう意味なんだろうと調べたことのある人なら制限じゃなくて調整なんだ、と印象に残っているのでは。

<実務>
85: 放射性医薬品の取り扱い。これも器具や装置の原理を知っていればその場で解ける問題(私は間違えました…)。

理論

<物理>
106回までは分析科学寄りだったものが、去年から現象や概念の基本を問う問題が増え、その方針が続いた感じになりました。私はこっちのほうがいいと思います。
91/92: 過去問をいくら解くかも大事ですが、放射線とは、○○線とは、エントロピーとは、という基本的な現象・概念は人に説明できるくらいに深掘りする練習が大事だと思います。
97: LCについて。去年でもゴロ合わせはたぶん両手で収まる程度しか覚えなかったんですが、そのうちの一つが四十肩(紫→重水素、可視光→タングステン)でした。
98: 分析科学でも特に定量試験・定性試験は甘い理解だと太刀打ちできないので優先度は低めでいいと思います。過塩素酸から非水滴定というところまでは覚えていたのですがそれ以上は分からず…。

<化学>
単純な反応を聞く問題はほぼ絶滅し、医薬品の中でどういった反応が起こるかということを考える問題ばかりに。基礎的な分子間力の深い理解、求核反応の深い理解が必要になりますが、逆に言うとそれだけなので、少ない時間で得点源に出来る分野だなと改めて思います。
101: アミンの性質とエステルの反応への理解を問うもの。これを苦手だと思うかラッキーと思うかで化学の点数は大きく変わってくる気がします。
103: 反応性。理論はこういう単純な問題ほど難しい気がします(わかりませんでした)。
107: 分子間力。これも最近の国試では定番問題。必ずとれるようになっておきたいところ。
109: NMR。相当詳しくないと1と3から絞れない気がするんですが、正答率どんなもんだったんでしょうか…

<生物>
少し傾向も変わりやや難しかったような気がしました。
111: 物質移動。3についてはSGLTが何の略なのかちゃんと調べていれば迷わず選べたはず。語句理解も勉強の大切なひとつの要素だと思います。
114: 実験問題は何を問われているかを分解して考えるのが大事ですが、今回は電気泳動の原理さえ知っていれば難なく解けたはず。
115: 遺伝子。原核細胞と真核細胞の振る舞いの違いはややこしいので結構難しいような。
116: マイナー論点なので難しいかも。ただプロテアソームをちゃんと理解していればリソソームのほうは知らなくても解ける問題。
117: 胎盤。これも横断的な知識が問われているので難しいと思いました。
118: 薬剤耐性菌。新傾向なのに慈悲がない問題。ただ耐性菌の問題は重要なので、勉強する意味は大きいと思います。
120: HbA1cはなんで少し後に血糖値を反映するんだろう、とかそういう「なぜ」を常に持っていれば正解に近づける問題。

<衛生>
割と素直な問題が多く感じました。
126: 労働衛生の3管理はイメージとして残ってましたが、さすがにどれが作業管理でどれが作業環境管理で…みたいなのは覚えてませんでした。
127: 脂質酸化について。化学を得意にして取っておきたい問題。この場合の酸化では二重結合がなくなっていくこと、という化学的理解が必要。
129: 発がん物質。去年は全部頭に構造式がぼんやり浮かぶように覚えていました。なので今年もいけそうだったんですが、グルクロニダーゼとグルコシダーゼには見事に引っ掛かりました…。
133: 毒性試験について。難しくないですか…?あやふや知識では太刀打ちできず。
140: 独特の式があったのは覚えてたんですが、なぜそうなってるのかが去年から分かってなかったので全く思い出せませんでした。

<法規>
去年同様スタンダードな感じ。ただ「製造専用」は知りませんでした。

<薬理>
去年が簡単すぎたのでそれよりは難しい感がしましたが、恐らくちゃんと対策している受験生の中では差がつかないんだろうなと思いました。
156: 抗体医薬は作用点さえ合っていればということが多かったですが、しっかり作用機序まで問われています。ただ1にひっかからなければ大丈夫なはず。(要するに1にひっかかりました…)
161: 利尿薬。薬理を丸暗記ではなく生理学的な視点からちゃんと答えたい問題。

<薬剤>
去年までとは違って素直な問題に。ただ丸暗記の要素や式が多く、1年ブランクがあると最も厳しい科目でした。
176: 粘弾性モデル。マックスウェルモデルは応力緩和、フォークトモデルはクリープの再現、というキーワード記憶でなんとか…という感じ。マイナーな論点は深く掘っても仕方ないので、キーワードを覚えておくことが肝要な気がします。
177:「ぬれ」「吸着」の定義をしっかり知っておくことがまず最初。ただ5の正誤はなかなか判定できないと思います…。いわゆる5つのうち4つわかれば解ける問題。過去問を解くときは一番細かい選択肢まで覚える必要はあんまりないと思います。
178: 医薬品の安定性。物性の理解はとても大事だと思っておいて、塩は溶かしやすくする方しか理解してませんでした…。勉強不足。
182: BCS分類は知ってるとお得です。

<病態>
104回あたりからちょっと難しめだった気がするんですが、今回はすごくオーソドックスな感じがしました。
190: 最近の国試の典型的な情報整理問題。この問題を得意と思えるような学習をするのが一番だと思います。
194/195: 医学論文を読むにあたっても非常に大切な問題なのでばっちり対策したいところ。

実践

<物化生>
物理が難しかったような…化学はいつも通り、生物は解きやすかったように思います。
197: モル電気伝導率とか言われても??という感じですが、シスプラチンだけ特殊なふるまいをすることが分かっていれば答えられるかも(配位子交換で電荷を帯びます)。
199: 今回はイオン強度に関わる話が多い気がしました。全部忘れてたのでそれ関連はほぼ失点しました…。
201: ニトログリセリンの吸着について。何故なのかは勉強時にかなり調べた覚えがあるんですが、結局理由が分からなくて放置してました。(今回は数少ない)個人的捨て問。
204: 投与経路のかなり実践的な問題。アドレナリンを止めてはいけない+フラッシュが必要なことは問題から分かったんですが、詳しいことは病院薬剤師の方にお任せします…。
211: 医薬品の構造について。αとβのどっちがどっちかも忘れてました。こういう混同しそうなものは必ず片方だけを強く覚え、残りは「そうじゃない方」として覚えてました(2つとも覚えようとするとややこしくなるため)。
214: エステル部位が反応において重要な役割を果たすことがポイント。これが解ける人は恐らく国試レベルの問題はほぼ出来るのではと思います。

<衛生>
本当に素直な問題が多く、コメントがあまり思いつきませんでした…。
238: 覚せい剤と代謝物。アンフェタミンが分かっていればそれが一番ですが、興奮状態→ドーパミン類縁体でフェネチルアミンっぽいんだろうなって考えても十分解けると思います。
239: 238の解毒。1と2でめちゃくちゃ迷ったんですが、D₂遮断するだけじゃだめなんですね…。
244: 井戸水でメトヘモグロビン血症。このニュースも知らなかったしメチレンブルーも忘れてるレベルだったんですが、メトヘモグロビン血症は何がどうなって起きるのかは理解するところまでやってたので答えられました。

<薬理>
ここ数回は多疾患罹患例が多かった気がするんですが、今回は情報量も少なくそんなに迷わなかったのではと思います。基本的に理論の延長で解けるはずなので雑感も何もないです。
260,264: この中では難問。レボホリナートは2つの効果があることに注意。

<薬剤>
理論と同じく難問奇問がほぼなく、ちゃんと過去問をやっていたら取りやすかったのではと感じました。
270: 副作用当て。腎機能以外問題なさそうに見えるんですが、炭酸リチウム濃度が腎の影響を受けることは丸暗記でなければ気づけると思います。
275: VCMの代替薬。TEICは同じグリコペプチドなのでNG。
280: メサラジンの副作用については去年もノーマークでした(PCで作ってたノートに書いてませんでした)。
283: DDSは相変わらず推定するしかない感じ。持効性+高分子で1を当てれたら運が良かった程度に。

<病態>
実践の医療系ではやや難しめ…?単に色々忘れてたからかもしれません…。
288: 化学療法の副作用対策。解3つ以上?寛解導入なら相当量のシタラビンを使うような記憶があるんですが…。想定解は2,3だと思います。
293: 抗アンドロゲン作用のない降圧薬。エサキセレノンは新しめの薬なので、新薬の特徴をしっかり勉強していた人は取れたのでは。私はもう忘れてました。
298,299: バルプロ酸の重要な副作用を2つとも答える必要がある問題。片方だけでもひとつ正答できるところに作問者の慈悲を感じました。
304: 終末期医療は誰しも様々な形で関わることのある分野なので答えられるようにしておきたいところ。

<法規>
いつも割とやさしい実践法規ですが、今回もそのままな感じ。法規は102回が飛びぬけて難しいので、102回をちゃんと取れるレベルまで上げたら困ることがないように思います。

<実務単問>
去年は難度が高めで最後に疲れたのを覚えています…。今年はいくらかやさしめだったように思います。
326: スウィーティーは聞きなれないかもですが、グレープフルーツの影響が非医療者にも知れ渡ってきたため、現場では様々な柑橘類を尋ねられることがあるのかなと思います(問題自体は知らなくても解けますが)。
328: CHS基準は知らなかったのですが、身体的フレイルの評価ということで選択肢から絞れました。これに限らず新傾向に対してはほんとに選択肢が親切な回だなと思いました。
333: ボリコナゾールの投与量計算。これが実務単問で出るのは若干違和感を覚えますが、もう次のコアカリ改訂が行われておりその辺の兼ね合いもあるのかもしれません。
344: アファチニブについて。CYPでほぼ代謝されないというのはかなりマニアックだと思います…。
345: 褥瘡について。使う薬は基剤の性質も一緒に覚えるのが大事だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?