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所有者不明土地管理命令申立で土地を購入した話|流れ・実例・方法

隣の土地が所有者不明で荒れ放題。できれば買い取りたいけど、弁護士に頼むと費用だけで100万円はかかりそう…。
これは、2023年4月から始まった「所有者不明土地管理命令制度」を利用して、土地のことなどド素人の筆者が、ひとりで所有者不明土地の所有権移転までを行った実際の話です。

ふわっと話の全体像

次の5つに大きく分けて説明したいと思います。

1. そもそもどういう土地なのか
2. 裁判所への所有者不明土地管理命令申立
3. 裁判所とのやり取り
4. 所有者不明土地管理人とのやり取り
5. 法務局での所有権移転登記

申請当時は始まったばかりの制度ということもあり、裁判所も手探りな部分もあったりで、2~5の申立から所有権移転まで、丸5か月かかりました。
費用に関しては、約千㎡の土地の購入費も含め、全部で19万円程度です。
この記事では、申請の流れや方法、裁判所とのやり取り、なぜ非農家が農地を買えたのか、なぜ最低数百万の費用がかかるところ19万円で済んだのか等を、実例を元にして、これから同じ制度の利用を考えている方の参考となるようにしたいと思いますので、ぜひ最後までお付き合いください!(目次からすでに長い)


1. そもそもどういう土地なのか?

所有者不明土地(以下、当該地という)に隣接する土地(以下、隣接地という)が私の所有する農地です。
2つの土地の間には、今は使われていない水路があり、その水路が低い位置にあることから、水路沿いは斜面となり、土地の多くが農地として使えない状態です。

ちょうど境界に水路があります。
水路が低い位置にあり、斜面ができ、作付けできないところが多いです。

この使われていない水路(水が流れていない)は町のものなので、役所で「用途廃止」の手続きをすれば、埋め立てることが可能となり、大きな斜面ごとなくすことができます。

そうすれば当該地との境界線ギリギリまで隣接地を利用することができます。

しかし、その申請には当該地の所有者の承諾が必要で、所有者不明のため、手続きができません。このままだとずっと土地全体を有効に活用することができないのです!
私の目的は、隣接地を最大限利用できるようにすることにあります。

当該地は地目が農地であるものの、農地として使われている形跡がないどころか、雑草が生い茂り、不法投棄がされているような荒れた土地です。

所有者は誰なのか?

その土地を管轄する法務局に行くと、誰でも手数料(一部600円)を払えば、その土地の「登記事項証明書(全部事項証明書)」を取ることができ、そこから現在の所有者の名前や住所を知ることができます。

それがわかるのになぜ所有者不明土地なのかというと、登記することは2023年現在では義務ではないので、所有者が引っ越したり、相続があったりしても、法務局で変更の登記をしない限り、情報は昔のままということが多いようです。
今回も正にそのパターンで、登記事項証明書に書かれている住所に郵便を送っても、返却されてしまいます。
更に、登記事項証明書から、当該地には次の権利が設定されていることが判明しました。
①所有権移転仮登記、②抵当権、③根抵当権、④仮根抵当権
これは土地とサッカーに詳しい友人から言わせると、「相手チームに全盛期のメッシ、ロナウド、ハーランド、エムバペがいるような状態」らしく、よくわかりませんが、所有権移転するには絶望的に詰んだ状態らしいです。友人の言った通り、最後までこの権利と関わっていくことになりましたが、所有権移転は行うことができました。

2. 裁判所への所有者不明土地管理命令申立

所有者不明土地管理命令制度とは

2023年4月から始まった制度で、利害関係人が管轄の裁判所に申立を行い、所有者不明土地に「管理人」を選任してもらう制度です。申立が認められ、裁判所に予納金を払い、管理人が選任されれば、その土地の所有者に代わって管理人がその土地の管理を専属してすることになります。裁判所の許可を得られれば、管理人は権限外行為も可能となり、その土地を処分(売却)することも可能です。
この制度は土地(建物)に特化した制度なので、前からある財産管理制度と比べ、費用は安く、かなり使いやすくなったと言われています。この制度を使って問題の解決を図っていきます。

今回のケースでは、管理人から「水路の用途廃止の承諾」を得られれば良いわけですが、
① 長期化すると管理人に支払う報酬が高くなる
② いずれ管理人は解任されるので、雑草や不法投棄の問題が解決されない
③ 購入できるのであれば、経営農地を増やせる(シンプルに欲しい)
などの理由から、管理人からの「土地の売却」を目指します。

弁護士に依頼するかどうかの判断

弁護士に依頼して申立てをすることが可能ですが、申立てから所有権移転まで特別な資格はいらないので、自分ですることができます(逆に資格がないことのメリットの方が大きいと思いました)。
私の場合、かけなくていいお金を使いたくないというのが根底にあるのと(お金がないとも言う)、絶対にこの土地を何とかしたいという気持ちから、間に弁護士を挟まない方が良いと思いました。
そもそも弁護士に何かを頼んだ経験がなく、誰に頼んで良いか分からないですし、いろいろな人がいる中で、自分の考えていることをその弁護士を通して本当に達成できるかわかりませんでした(弁護士にこうですと言われたらそうするしかないと思い込んでしまいそうで…)。
結論から言うと、自分でやって、ほぼ100%思い描いたとおりになりましたし、本当に200万円は浮いたと思います。

完全に個人の感想ですが、こんなイメージです。

申立ての大まかな流れ

目標は所有権移転ですが、そこまでは約5か月ほどかかりました。
また、申立をした後の終着点は、裁判所に支払った予納金(保管金)の余りが自分の口座に振り込まれるまでです。これが最後の裁判所とのやり取りで、もうこの案件ですることはないという状態まで約9か月ほどかかりました。

裁判所もまだ事例が少なく、判断や処理に時間がかかったようです。ある程度事例が蓄積されればもっと短縮されると思います。

これが早いのか遅いのか、ものさしがないのでわかりませんが、待つ時間が非常に長いと感じました。裁判所から何か要求があった場合は、早くて翌日、遅くとも2~3日で直接窓口に提出していましたが、公告(管理命令を出す一歩前)まで3か月かかりました。2週間連絡がないと、こちらからどんな状況か電話したりもしましたが、担当が扱っているのはこの案件ばかりではないので、それ相応の時間がかかるのは覚悟が必要です。

申立ての方法と必要書類

早速ですが、申立てを行う準備を進めていきます。
申立ては、「申立書」を作成し、管轄裁判所への提出ですることができます。この申立書は、最高裁判所のホームページに様式があります。

事件名が「所有者不明土地(建物)管理命令」のカテゴリーに、「所有者不明土地(建物)管理命令申立書(汎用)」のWordファイルがあるのでそれをダウンロードして使用します。また、同じく裁判所のホームページに「所有者不明土地・建物管理命令について」の概要がありますので確認します。

どこに何があるのかわからず、たどり着くのに時間がかかった記憶があります。

大きく分けて申立てに必要な書類等は次の10種です。

① 所有者不明土地管理命令申立書
申立書です。タイトルは、建物はないので「(建物)」と「(汎用)」は消し「所有者不明土地管理命令申立書」とします。
印紙は、「申立をする土地の筆数×1,000円」です。土地の所有者が同じで、対象の土地が何筆かに分かれる場合は、ひとつの申立書で済みます(土地の所有者が異なる複数の土地について申立てをする場合、ひとつの事件として扱えるのかどうかは裁判所への確認が必要です)。
「第2 申立の趣旨」は「別紙物件目録記載の土地について所有者不明土地管理人による管理を命ずる との裁判を求める。」と、定型文です。この申立てでは、これが趣旨となり、具体的に管理人にどんなことをしてほしいかは、後述する「第3 3 ⑵ 対象土地に必要な管理行為の内容」に記載していきます。

コンビニだとほぼ200円の収入印紙しか置いていないので、郵便局や法務局で購入します。押印は意外ですが実印でなくても大丈夫です。

② 当事者目録
申立人と「住居所不明」者の情報を記載します。様式には弁護士や共有者を入力する欄がありますが、今回はどちらもいないので消してしまいます。
申立人の電話番号とFAX番号を記載しますが、FAX番号はなくても大丈夫です。

メールアドレスも記載しましたが、一度もメールは来ませんでしたし、送りませんでした。裁判所的に使用できないのだと思います。電話のやり取りと、文書のやり取りとなります。

③ 物件目録
所有者不明土地の「所在」「地番」「地目」「地積」の情報を入力します。これは⑦で取得する登記事項証明書の「表題部(土地の表示)」の枠内を探すとすべて記載されています。
町が合併したり、国土調査が行われると「所在」や「地積」が変更され、何行かに分かれますが、下に行くほど新しいので、一番下のものを書きます。
「所在」「地番」「地目」は登記事項証明書をそのまま記載しますが、「地積」は数字の後に「平方メートル」を付け加えます。下のサンプルだと「789平方メートル」です。※小数点以下がないときは「.00」を書かなくて良いみたいです。

登記事項証明書のサンプルです。一字一句書かれているとおりに物件目録に書き写します。
筆(土地)が複数ある場合は「地積」の下を一行空け、「所在」から同じように記載します。登記事項証明書も筆の数だけ取得します。

④ 申立ての原因(資料)
申立書の「第3」にあるとおり、「1 利害関係を基礎づける具体的事情」を記入し、その資料を番号ごとに添付する必要があります。「申立書の書き方と資料の作成方法」で詳しく説明しますが、ここの書き方が最も重要で、何に困っていて、なぜこの申立てが必要なのかを記載し、写真などの資料を丁寧に作成します。

⑤ 所有者・共有者の探索等に関する報告書
上記裁判所のページの最下部に事件名「各事件共通」の申立書書式の列に「所有者・共有者の探索等に関する報告書」のWordファイルがあるのでそれをダウンロードして使用します。こちらの詳細は「所有者・共有者の探索等に関する報告書」で説明したいと思います。

申立書に⑤の名前で記載があったのでそれを使用しましたが、「土地所有者の探索等に関する報告書」の方がしっくりくるような気がします。

⑥ 申立書副本
これは、裁判所に提出するすべての書類をコピーし、管理人用に渡す分を提出するというものです。ですので、用意するのは一番最後になります。

⑦ 所有者の土地又は建物に係る登記事項証明書
③で説明したとおり、その土地の管轄である法務局で、当該地の筆の数だけ取得します。

⑧ 不動産登記法14条1項の地図又は同条4項の地図に準ずる図面の写し
いわゆる「公図」と言われる図面で、これも法務局で取得(450円)できます。申立人は利害関係者である必要がありますが、④(申立ての原因)で利害関係人である証拠として隣接地(自身の所有地)の登記事項証明書を添付する必要があるので、法務局に行った際に⑦(登記事項証明書)、⑧(公図)、隣接地の登記事項証明書の3つを同時に取得します。

公図のサンプルです。A3サイズでもらえます。土地が複数でも、広大な土地でない限り一枚にすべて含まれるので、中心に近い筆で一枚取得します。

⑨ 土地の所在地に至るまでの通常の経路及び方法を記載した図面
「グーグルマップ」で出発地(裁判所)と目的地(所有者不明土地)を指定して出てきたものを印刷して添付しました。グーグルマップでなくとも、地図で経路が分かれば何でもいいと思います。

⑩ 予納郵券(6,000円分)
切手のことです。裁判所が申立人や管理人等に書類等を送るために使用するもので、申立人が負担します。余った分は最後に返却され、今回は3,000円分くらい戻ってきました。
切手の種類や枚数は指定があるので注意が必要です。郵便局の窓口の方も用意と確認で時間がかかるので、空いているときに行くのをおすすめします。裁判所によっては現金納付できるところもあるようです。

口で伝えるより、画像のようなメモを渡した方が、お互い時間短縮になります。

これらの書類が用意出来たら(する前でももちろん構いません)、一度、管轄の裁判所に電話し、「所有者不明土地管理命令申立をしたい」と言えば、担当部署(裁判所によって名前は違うと思いますが、「民事訟廷(しょうてい)部」のような部署)に電話をつないでくれると思いますので、一度裁判所に来てくれなのか、資料を送ってくれなのか、話がスムーズに行くと思います。

申立書の書き方と資料の作成方法


こんなに長い記事をここまで読んでいただき、ありがとうございます!それだけでも感動です!
ここからは実際の申立書や資料を交えながら、詳細に記事を書いていきたいと思います。長編になりますが、細かいところまで説明していきたいと思いますので、この先もお付き合いいただける方はぜひ購読をよろしくお願いします!

個人情報部分を消したリアルな資料や図等を用いて、個人で行った裁判所や法務局とのやり取り等を、所有権移転登記まで一気に、できるだけ詳細に説明していきたいと思います。

申立書「第3 申立ての原因 1 利害関係を基礎づける具体的事情」は次の(1)~(5)のように記載しました。()ごとに説明していきます。

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