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夢はもう見ないのかい

 つい先日、3度目の卒業生が巣立っていった。今は1,2年生の学年末試験だけど、自分の問題も無くて担任のクラスもない。心にはぽっかりと穴が空いている。そんな卒業生へ送った言葉を遺しておきたい。

 卒業おめでとう。今日という日を迎えられたこと、心から嬉しく思います。教員生活9年目で、有難いことに3度目の卒業生を送り出させて頂きました。卒業式の最後のHRで、僕は毎回このように原稿を用意しています。それは、胸がいっぱいになり、何もないと上手く話せないためです。ただ、原稿があってもこれまでの経験上、上手く話せないと思います。恐らく今日も同じことになると思いますが、最後のHRなのでどうかご容赦ください。


 少し、自分の話をさせてください。2020年2月の終わり、新型コロナウイルスの影響で卒業式の中止が決まり、何もできない自分に悔し涙を流しました。

 その時、「もう絶対に生徒にこんな思いはさせない」と心に誓いました。
それから緊急事態宣言が発令され、長い休校が始まりました。先行きの見えない中、最初に皆に会ったのは画面越しでしたね。今思うと、お互いにぎこちなかったでしょう。それから慣れない中でもオンラインでの交流が続き、6月に初めて顔を合わせることが決まりました。しかし、正直に言うと、これまで自分が生徒に接してきたのと同じような形で大丈夫なのか不安でした。そして初めて皆と直接会った日、不安が吹き飛び、本当に嬉しかったのを覚えています。

 少ない人数でも団結力があった1年。教師生活で初めて広く感じた教室。文化祭で皆で創った動画。

 出会いも別れもあった2年。人数が増えて賑やかになった。毎日笑顔が絶えなくて、毎日楽しかった。それぞれに悩みはあっても、支えあう仲間がいた。文化祭の映画は最高だった。

 そして3年。新しいメンバーを迎えて、最後の1年が始まりました。部活に、進路に、日々の生活に一生懸命で、たとえ上手くいかないことがあっても全員が頑張るクラスでした。人間は誰とでも仲良くいる必要はないと僕は思っています。それぞれ考え方は違うし、誰かのことを完全に理解することなんて出来ません。自分自身のことだってわからないんだから。それでも、わからないことをわかっていても、理解しようとするという姿勢が大事なんだと感じます。そういうクラスだった。クラスという単位、それは社会でもあります。違う考えを持つ人間が集まって、一つの集団を結成している。でも、全員が互いを尊重していました。日々の生活もそう、行事もそう、それぞれの違いを認めて理解しようとした。そして寄り添おうとした。皆は思っている以上に大人です。そんなクラスが大好きでした。

 みんなに伝えたいことが3つあります。
 自分で考えること。3年間、数えきれないくらいの制限がありました。納得できないことも、「なんでだよ」と悔しかったこともあるでしょう。高校生っていうのは、子供と大人の間の期間で、それゆえに一番の青春を感じられる時間だと思います。そんな期間を何の制限もなく過ごした僕が、皆の気持ちを本当にわかってあげることは出来ません。それは偽善であり、思い上がり。「わかるよ」というのは便利な言葉だけど、使いたくない。わかってあげられないから。過ぎてしまった3年間はもう戻ってこない。だからこそ、その時に自分の頭で考えたことを忘れないでほしいし、これからも考え続けてほしい。たとえ答えが見つからなくても、諦めずに考えたことは残る。流れにすべて身を任せてしまうのは簡単です。何もしなくても、どうなろうと時間は勝手に流れていく。コロナで変わってしまった世界は変わらない。世界が変わることなんてありえないと誰もが思っていたけど、実際に変わってしまった。その世界を受け入れても入れなくてもいい。でも、現実に対して疑問を持つことを止めないでほしい。考えた先にあるその世界は紛れもなく自分のものです。

 周りの人に感謝すること。考える自分は一人だけど、その周りには自分を応援し、支えてくれる人たちがたくさんいます。人間は結局自分で生きていくものです。最後に決めるのは自分だから。でも、皆の周りに一緒になって笑って泣いてくれる友達がいるように、応援してくれる家族がいるように、誰かとどこかで必ず関わりあって生きています。それは当たり前の事じゃない。応援してくれない人もいるかもしれない。でも、そんな人の言うことに耳を傾ける暇はありません。その人は、君たちのことが羨ましいんです。多分どこかで何かを諦めてきたから。それよりも、自分を応援してくれる人たちを大事にしてください。時々でいいので、感謝の気持ちを言葉にして伝えてあげてください。その感謝は必ず自分に返ってきます。生きていく上では一人。誰かの為に生きるのもよい。自分の為に生きるのも良い。でも、皆の周りには必ず誰かがいて、応援してくれることを忘れないでください。

 最後に、楽しむこと。これは皆にずっと言い続けてきたことで、僕自身がいつも意識していることです。趣味も勉強も、楽しいことはもっと楽しくしよう。楽しくないこと、きついことは、どこかに楽しい何かを見つけよう。はっきり言って、人生は上手くいくことばかりじゃない。上手くいかないことの方が多いかもしれない。だからこそ面白い。そんなときに、楽しもうとすることが、上手くいくきっかけになるんじゃないかと思う。山もあって谷もある自分だけの人生を全力で楽しんでください。

 このクラスの暖かさも、ノリの良さも、真剣に頑張る姿も、全部が大好きでした。楽しい思い出がたくさんあります。決して悪い意味ではなく、良い意味で自分たちらしいクラスだった。コロナの制限の中でも前を向いて全力で命を燃やす皆に勇気を貰いました。

 そんな時間もあと少しで終わりです。これから先、思い出すこともあるでしょう。でも過去には戻れません。時には思い出に浸っても良い。でも、過去に拘泥しないで欲しい。思い出は今の自分が前に進むためにあります。この3年間を、未来の皆が前に進むための糧にしてください。
最後になりましたが、このクラスの担任で皆と出会えて良かった。楽しい思い出をありがとう。一生の財産です。これから先、何があっても僕は皆の味方です。不安なことがあっても皆なら大丈夫。乗り越えていけます。時々、遊びに来てください。

 みんなのこれからの幸せを願い、担任からの言葉とさせていただきます。本当にありがとう。

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