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不気味な静寂が広がる夜の街

不気味な静寂が広がる夜の街

赤く光る街灯が通りを照らし、昼間の喧騒とは一変して、不気味な静寂が広がる夜の街。その静けさの中で、微かな風が吹き抜け、通りの向こうからカサリ、カサリと不規則な音が響いてくる。音の正体を知る者は少なく、街の住民たちは皆、その時間が来ると家に閉じこもり、決して外に出ようとしない。

もののけの時間。それは人間の時間とは違う、彼らだけの特別な時間帯。時計の針が深夜を指す頃、空間の歪みが始まり、現実と異界の境界が曖昧になる。赤く光る街灯の下、影が不気味に伸び、形を変え、もののけたちが姿を現す。

彼らは人間の目に映ることは少ないが、その存在は確かに感じられる。寒気が背筋を這うような感覚、突然冷たくなる空気、視界の隅でちらつく動き。それはもののけがこの世に影響を与えている証拠だ。

ある夜、ひとりの若者が街を歩いていた。彼はもののけの噂を聞きつけ、好奇心からこの街を訪れたのだ。赤く光る街灯の下を歩くたび、彼は背後に何かの気配を感じたが、振り返っても何も見えなかった。それでも、その不気味な雰囲気に惹かれ、彼はさらに街の奥へと進んでいった。

やがて、若者は古びた寺の前に辿り着いた。寺の門は半ば崩れかけており、その中からは暗闇が覗いていた。まるで闇が生きているかのように、彼を誘い込もうとするかのようだった。若者は一瞬ためらったが、やがてその誘惑に抗えず、寺の中へと足を踏み入れた。

中は予想以上に静かで、息を飲むほどの寒気が漂っていた。若者が奥へ進むと、突然、空間が揺らぎ始めた。まるで時が止まったかのように、周囲の音も消え去り、彼の心臓の鼓動だけが響き渡る。すると、目の前の空間がねじれ、ひとりの女性が現れた。彼女の目は真っ赤に輝き、その姿はどこか儚げでありながらも、恐ろしい力を秘めているようだった。

「ここに来るとは、珍しいことね……」と、女性が静かに言った。その声は、まるで風が囁くかのように低く、しかし確かな威圧感を持っていた。若者は言葉を失い、ただその場に立ち尽くした。

「あなたは、この世の者ではないわね?」彼女は微笑んで、近づいてきた。その瞬間、若者は理解した。この女性は、もののけそのものであり、この世界とあちら側を繋ぐ存在なのだと。

彼は、もはや逃げることができないことを悟った。彼の運命は、この不気味な夜に縛られ、もののけと共に永遠にさまようことになるのかもしれない。

そう思った瞬間、周囲の空間が再び揺れ動き、彼の視界は闇に包まれた。目が覚めると、若者は自分が寺の外に立っていることに気づいた。しかし、その夜の出来事は夢ではなく、彼の心に深く刻まれていた。

その後、若者は二度とその街を訪れることはなかった。しかし、彼がその街で見た赤い光、感じた寒気、そしてあの女性の目は、今でも鮮明に覚えているという。そして彼は時折、自分の背後にもののけの気配を感じるようになったのだ。

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