ぽよの力。
最初の衝撃は、みちょぱ、であった。
みちょぱ?
離乳食に味噌など聞いたことがない。
わたしが知らぬだけか?
(仮説1)みちょぱ=味噌派
が赤ちゃん言葉に転じたのだろうか。
(仮説2)みちょぱ=ミチョパ
中南米で伝統的に使われている、消化を良くする発酵調味料の存在を仮定してみる。
(仮説3)みちょぱ=michoppa
イタリアのローマあたりでは、料理系インフルエンサーがきまぐれシェフの離乳食なるものをバズらせているのかもしれない。
わからぬ。
インターネット大航海時代の現代では、
それは当たり前の知識なのか?
「まんまでちゅよー。
おみちょぱ(お味噌)でちゅー。
あーん、ちまちゅよー、いーこー。」
乳児をやさしく餌付ける母の声。
そういうショートムービーがInstagramや YouTubeには大量にアップされているのだろうか。
残念ながら、わたしは、この界隈には詳しくない。
久しくムーニーマンのCMは観ていないし、パンパースはもちろんのこと、ほかにどんな種類の紙おむつがあるのかも把握していない。
ダメンズとは、わたしのことを言う。
世のワンオペ母さんの大バッシングを受ける姿を想像して、ふるえる。
CMの神よ!
わたしにおむつのCMを与えたまえ!
わたしは、おむつ神の御前にひざまづく。
しかし、祈りは届かなかった。
(唱える呪文を間違えたか?)
そして、途方に暮れる。
衝撃は続いた。
ひとつではなかったのだ。
ゆきぽよ。
そうなのか?
おまえもなのか?
「あ!あ!」から
「ゆきぽよー」と、初めて指差しする幼児。
三者関係が成立する瞬間が浮かぶ。なら、
わんわん、ぶーぶーの類いなのか?
ゆきぽよなる喃語と単語の架け橋なるものが生まれていたのか?
わたしは、こう見えて、こどもとトラウマを専門とする心理職である。
しかし、知らぬ。知らぬのだ。
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ヒアウィゴー!
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R指定になれぬわたし。
せめてDJ KOOになれ。
意味はわからぬ。
しかし、不思議と嫌な気分ではない。
何だろうか、この感覚。
習うより慣れるしかない。
己の身を持って体験するのだ。
おそるおそる変換してみる。
(試行1)岸田茂→きしぽよ
愛知県民のソウルフードになりそうだ。
(試行2)(ドナルド・)トランプ→ポヨンプ
K-popアイドルにいてもおかしくない。
(試行3)プーチン→ぽよチン
下ネタやないか!
粛清も腐敗もあったもんじゃない。
(試行4)堀江貴文→堀の上のポヨ
全世界が待つ次回のタイトルが決まった。
これは、発明である。
人類は、火薬を発明し、羅針盤を発明し、活版印刷を発明した。
そして、インターネットを発明し、AIを発明し、ぽよを発明したのだ。
『ぽよ』は、
触れてはならぬ、神の領域なのかもしれない。
が、地の民のわたしには確かめようがない。
みちょぱも、ゆきぽよも、
神のいない地で産声をあげているのだ。
残念ながら、この短い時間では、
ムーニーマンのCMもパンパースのCMも観ることが叶わなかった。
(検索するのが面倒だったことは伏せておく)
(世のワンオペ母さんの大バッシングを避けるためだ)
(そう、保身だ)
しかし、その間に、新たな収穫はあった。
三つ目の、喃語スタンダードを得たのだ。
ゆうちゃみ。
この感覚は、何だ。
知らないのに知っている。
初めて海を見た日のことを思い出す。
そうだ、わたしたちは、
海で生まれたのだ。
海で生まれ、海を出て、海へと還る。
それが、わたしたちの命だ。
ゆうちゃみは波にゆられている。
ゆらゆらゆれるわたしのきもち。
いつしかわたしの皮膚は打ち寄せる波にしゅわしゅわと溶けはじめ、身体という境界が消えてゆく。三ツ矢サイダーのはじける炭酸水のように、波の泡へと溶け込んでいく。
ゆらゆらゆれるゆうちゃみの波にゆられながら、ゆうちゃみのゆらゆらとなったわたしの意識だったものはゆるゆると忘れていた大切なことをゆらゆらと思い出しゆらいでいる。
ゆらゆら
ゆらゆら
世界は、ゆらゆらと、平和になる。
だから、わたしは、海へ戻ることにした。
ゆらりゆらゆら
ゆらりゆらゆら
白い砂浜、波打ち際に人影がみえる。
少女のようだ。
少女の肌は陶器のように白い。
白い砂浜に立つ白い肌の少女。
白い少女はゆらりゆらゆらゆれるわたしへ向かってさけぶ。
「アゲ〜!」
言葉ひとつで、世界は変わる。
世界は、きっと、平和になる。
わたしは、ゆうらりゆらゆらゆれている。
浜辺では、白い少女の足もとで、
サイダーがしゅぷしゅぷと音をたてている。
わたしはしゅわしゅわとけていく。
なみは、ゆれる。
ゆうらりゆらゆら
しゅぷしゅぷしゅぷ
ゆうらりゆらゆら
しゅわしゅわり
「アゲ〜!」
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