ボブネミミッミがポプテピピックだった。【AC-bu | MoBA -現代美術館展- Museum of BOB ART EXHIBITION】
アニメ『ポプテピピック』内の新コーナー「ボブネミミッミ」に焦点を当てたAC部の個展『AC-bu | MoBA -現代美術館展- Museum of BOB ART EXHIBITION』を見に行った。
AC部の作品はとても好きで、2月に銀座のクリエイションギャラリーG8で行われた『AC部 違和感ナイズ展』にも行っていた。
本展は三越本店のコンテンポラリーギャラリー内で2022年12月22日~2023年1月9日に行われたものである。
今回も感想をつらつらと書くのではあるが、アニメの説明なんかをしていると、とても書いていられないので上手いこと折り合いつけていただけると助かります。
『ポプテピピック』とポップアートらへん
そもそも『ポプテピピック』はポップアート周りの考え方と、とても相性が良いように思う。
例えば、アニメでは声優とキャラクターの分離や、4コママンガだとコピペを使った表現など、アニメや4コママンガの特性をハッキングしメタ的な構造にする点が、美術の構造を分解しようとする現代美術(というと広すぎるのがうまく一言で括れない…ダダイズムとかデュシャン以降とかポップアートとかですか?) ととても似ている。
決して『ポプテピピック』が芸術と言えるほど高尚なのだと言いたいわけではなく、寧ろ現代美術がかなりギャグ漫画的であるという方が個人的な感覚に近い。
また、『ポプテピピック』は大量に既存の作品を盗用する。今回の展示では「アブロブリエーション」という仰々しい美術用語が使われ、作品のタイトルになっていた。
何にしろ、元ネタや文脈がわからないと理解ができない点は美術鑑賞と全く同じである。
ポプテピピックは、ほとんど同じ15分の映像を二回流し30分の尺を埋めている。差異は声優のペアが変わるだけである。バリエーションを作ることで、作品の特異性が浮かび上がっていた。これはウォーホル作品にも見られた手法だ。同じ4コマを元に違う作風で作られていることもあった。(「おこった?」「おこってないよ」など)
非ポプテピだから非アートになった「ボブネミミッミ」
そんな中、AC部の手掛けた「ボブネミミッミ」パートはアートらしい身なりをしておきながら、『ポプテピピック』内では決してポップアートらへんではなかった。
「ボブネミミッミ」は、内容だけ見ると純粋な『ポプテピピック』のアニメ化であり、それ以外の原作は存在しない。文脈をとってそれだけで見ても作品として成り立っている。声優も(特定の回を除いて)毎回同じだ。
ヘルシェイク矢野の回は例外として『ポプテピピック』のアニメ化とは言い難いかもしれないが、これもなにか元ネタがあるわけではなく、アニメオリジナルというのがよいだろう。
他のパロディや文脈があって成り立つ『ポプテピピック』の中で、一人支えなく立ち上がる「ボブネミミッミ」は、異質なアニメの中の異質なアニメになることで、一次創作的な佇まいを手に入れた。
実際、「ボブネミミッミ」はAC部が、滑ることを恐れ(!)、思いっきり原作から離した結果、間違ったコーナーがアニメ内に潜り込んでしまったようなスタンスとなったという(リンク)。
ボブネミミッミがポプテピピックをする
逆に言うと「ボブネミミッミ」の『ポプテピピック』らしからぬ点はパロディや文脈を必要としないところである。本展示はそれを逆手に取り現代美術をパクりまくっていた。「ボブネミミッミ」が『ポプテピピック』の振る舞いをしていたのである。
リキテンスタイン、ウォーホル、モンドリアン、リヒター等、様々な作家の作品をポプテピピック/ボブネミミッミがハッキングし我が物顔で展示されていた。
作品の制作方法は一部Twitterで公開されており、元ネタがシルクスクリーンの作品はちゃんとシルクスクリーンで印刷しているようだった。(リヒター模倣の作品はポプ子とピピ美が高速回転することによって作ったらしい。Twitterに載ってるんだからそうなんだろう)
太陽の塔と思わしき作品があったが、ピピ美があまりにグロテスクに変形していたためすぐにはわからなかった。気づいたときの感覚は、まさにアニメ『ポプテピピック』を見たときに「あ!これアレが元ネタだ!」という感覚と同じだった。
モンドリアンを模した作品が上下逆に飾られていることに気付いたときも同じような感覚だった。こんな細かいところまで見ているのは俺だけじゃないかという、アニメを見ているオタクに優越感を与えさせるようなあの感じも似ている。逆に元ネタに気づけなかったときの悔しさも、とても似ている。
狂気を帯びた冷静
奥まった部屋にヘルシェイク矢野の紙芝居に囲まれ本展の元ネタの画集とメモが丁寧に展示されていた。これは本家『ポプテピピック』や本家「現代美術館」と違い、いやらしくわかり易い展示だった。
その一次ソースの部屋の壁がすべてヘルシェイク矢野だったことも、ボブネミミッミから生まれるものが一次創作的であることを感じさせた。ここでいう一次創作的とは、何にも影響されていないという意味ではなく、元ネタが明示的に表現されていないという意味である。
この展示は「ボブネミミッミ」が主役に据えられていたが、中身は完全に『ポプテピピック』のアプローチであった。好きだから元ネタにしているような、しかし馬鹿にしているような、そんな引用の仕方なのに丁寧に作られていて、なにより狂気を帯びながらにして冷静であった。
ちなみに、この展示に行く前に2期をちゃんと一気見したのだが、展示と関わるのはヘルシェイク矢野だけだった。