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『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』英国俳優アレックス・ロウザーのポテンシャルは必見 1/24(金)~公開中

9人の翻訳家 囚われたベストセラ―_ポスター最終

原題:Les traducteurs(英題:The Translators) ★★★★★

「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズの4作目「インフェルノ」の出版時に、海賊行為と違法流出を恐れた出版社が、各国の翻訳家たちを秘密の地下室に隔離して翻訳を行った…という前代未聞のエピソードが原案。


映画では、イギリス、ドイツ、ポルトガル、ロシア、中国など9か国の翻訳家が、警戒厳重な洋館に集められます。

彼らはスマホやPCを没収され、毎日20ページずつだけ渡されるフランス語の元原稿を翻訳していくのですが、ある夜、出版社社長の元に「冒頭10ページをネットに公開した。24時間以内に500万ユーロを支払わなければ、次の100ページも公開する…」と、完全隔離の施設にいながら、全世界が待ち望む原稿をネット上で流出させるぞという脅迫メールが届くわけです…。


劇中のベストセラー「デダリュス」の出版権を有する出版社社長を演じる『パリに見出されたピアニスト』『神々と男たち』などのランベール・ウィルソンが不遜な渋イケおじでしたし、

ロシア語翻訳家で、「デダリュス」の悲劇のヒロインのような扮装で登場するオルガ・キュリレンコも美しい。

そのほかにもキャラの立った翻訳家が揃い、多言語が飛び交うところはまさに今のEUを描く映画。

特筆すべきは、Netflixオリジナルシリーズ「このサイテーな世界の終わり」で主人公ジェームズを演じていることでも知られるアレックス・ロウザーのポテンシャルじゃないでしょうか。

「このサイテーな世界の終わり」は自分をサイコパスだと信じ込んでいる少年と、人生のすべてを変えたい少女のふとしたきっかけから始まる、トラブル続きのロードトリップを描いたドラマシリーズ。1話20分前後なので、ビンジしやすいんです。

実は、シーズン1の冒頭1分もたたないうちに猫のあるシーンがあってブチッとストップさせて以来、しばらく放置していたのですが、あまりにも評判がよく、昨年シーズン2が配信されて、いよいよこれは無視できないと見始めてみたら大好物の青春紆余曲折案件だったというもの。ちなみにシーズン2には、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』でジャナ役に起用されたナオミ・アッキーがキーパーソンとして出演しています。

あるいは映画ファンには、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でベネディクト・カンバーバッチ演じるアラン・チューリングの学生時代を演じていた、といえばピンと来るでしょうか。

流暢なフランス語を披露したり、プールに飛び込んだりしながらも、相変わらず(?)天才肌・マイペース・脱力系青年がハマっておりました。


彼らを絶妙に配して、実際のエピソードをグイグイと引き込ませる本格ミステリーに昇華させたのは、1950年代の女性の花形職業を見事なスポ根もの(と認識しています)に仕上げた『タイピスト!』レジス・ロワンサル。

今回は全く毛色は違いますが、これが実に面白い。時間軸が前後するなか、疑わしき者が二転三転していき、見事にミスリードさせられる秀逸なミステリーとなっています。

『タイピスト!』でプロフェッショナルなお仕事や、女性の職業と社会進出までを主人公に自立と尊厳を持たせて描いたレジス・ロワンサルは、本作では文学そのものや作品への愛や敬意とは? についても踏み込み、激しく共感してしまった次第です。

それは世界的ベストセラーミステリー小説ばかりではなく、私たちが今、実際に享受しているものの多くにも当てはまることだったんです。

聞いたところによれば、全世界同時配信の某VODサービスにおける字幕翻訳の方々は大変な思いをしているそうですし、ほかのサービスでも作品紹介部分や字幕のクオリティに関して不自然な日本語が多いことがニュースになったりもしました。

作品に対しての敬意って大事ですよね…と改めて思い、噛み締める週末でした。


しっかし、劇中の“あの人”がどれだけそれに欠けているのかは、ふり返ってみると思い当たる節がありすぎ。


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