ロングショット

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』皮肉なほどタイムリーなのに、タイムレスでボーダーレス 公開中

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋_ポスター(小)

原題:Long Shot  ★★★★☆4.5

“新春シャーリーズ・セロン祭り”の第1弾。

本作で演じるのは、次期アメリカ大統領のポストを狙う国務長官のシャーロット。今回、シャーリーズのコメディエンヌぶりに、惚れ直す人も続出しそうです(『タリーと私の秘密の時間』』や『ヤング≒アダルト』を超えてきてるかも)。

そして、セス・ローゲンが仕事を失ったばかりのジャーナリストのフレッドを演じています。

2人は製作にも名を連ね、5年以上も脚本の練り直しをしたそう。その間、#MeTooがあり、大統領が変わり、その辺も随時と盛り込んでいったのでしょうね。

その結果、寛容な世界とは? に真摯に向き合った、皮肉なほどタイムリーなのに、タイムレスでボーダーレスなロマンティックコメディとなっております。

気楽に観ることができる一方で、そこかしこにトリガーが用意されています。

監督は、主人公が病と闘う映画は数あれど、最も前向きで正直な『50/50 フィフティフィフティ』のジョナサン・レヴィン


なお、シャーリーズが絶対にしたくなかったのは、フレッドとの恋のためにシャーロットがすべてをあきらめることだったそう。

おそらく、ふた昔前ならそうだったでしょうね。

そして、劇中でオマージュが捧げられている、ひと昔前の『プリティ・ウーマン』(’90)への反論ともなっております。

ロクセットの「愛のぬくもり」が効果的に使用されています(最高)。


やがて、大方の予想を裏切って(?)彼女は全てを手にしますが、これもまた現代的で素晴らしい描写であり、シャーリーズだからこそ嫌みなくできるハマり役。

その彼女が演じるシャーロットは、ティーンのころにはシッターのアルバイトもしており、決して裕福ではないながらも確固とした信念を持った女性だったのです、もともと。セス演じるフレッドはそれをよく知っていたのです。

完璧美女という外見だけが、恋のきっかけではないのです。


エンパワーメントな映画ってこういうことじゃない


もちろん、たくさん笑えて、ほろりとさせるところもあり、最近の映画では鉄板ネタとなりつつある「ゲーム・オブ・スローンズ」いじりも、

“MCU”の人気作品を2人で見るシーンもあります(シャーリーズ演じるシャーロットの反応は必見!)


さらに、フレッドの親友役、アイス・キューブの息子オシュア・ジャクソン・Jr .が軽妙でいい! 

たとえ親友同士でも、信条が違っているのは当然。ほんの少しでも自分と考え方が違えば、すぐさま心のシャッターが降りてしまいがちな昨今の傾向についても、さりげなくコメディの中に盛り込んであります。日本でもまさに、場によっては政治の話はタブーといわれることがありますから(PTAが最たる例)。

アレクサンダー・スカルスガルドのカナダの首相、ボブ・オデンカークの映画界に進出したいTV俳優の大統領も爆笑必至。

もちろん、脚本にはセス・ローゲンとジェームズ・フランコの共演でサイバー攻撃を受けるきっかけとなった『The Interview』ダン・スターリングや、『ペンタゴン・ペイパーズ/最高機密文書』で痛烈かつ真摯なジャーナリズム批判を描いたリズ・ハンナが脚本に参加しており、政治的な部分も申し分なく、大統領のSNSが紛争の火種になるところ、有権者の評価を逐一気にする政治家のイメージ戦略などは今日的で、見せ方がうまいなと。


ちなみにリズ・ハンナさんの次回作は、ヤングアダルト小説を原作にエル・ファニングと『名探偵ピカチュウ』のジャスティス・スミスが共演するNetflix映画最高に素晴らしいこと』だそう。なぜそちら方面に行ったのかは不明ですが、製作総指揮も手がけており、こちらも楽しみ。

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