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魂が毒される戦争と人種差別主義…スパイク・リー最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』 Netflix配信中

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原題:DA 5 BLOODS ★★★★★

「Black Lives Matter」(黒人の命を軽んじるな)のさなか、アフリカ系の4人のベトナム帰還兵たちが当時密かに隠した金塊と戦死した隊長の遺骨を探し、トラウマの地を再び訪れる物語を、スパイク・リーがNetflixと組んで放ちます。立ち上がる反戦映画でもあります。

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カリスマ性と知性、実行力を持って彼ら“ブラッズ”を引っ張る、戦死した隊長“ストーミン”・ノーマンには『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマン(ぴったり)。

『マルコムX』『クルックリン』のデルロイ・リンドー、『ハリエット』『スリー・ビルボード』のクラーク・ピータースに、ブロードウェイのスターであるノーム・ルイス、『さらば愛しきアウトロー』のイザイア・ウィットロック・Jr.のベテラン4人が帰還兵を演じます。

私事ですが、太平洋戦争に出兵した今は亡き祖父も、夜中に悪夢を見たのか、大声で叫んでいたことが何度もありました。

いくら金塊が眠っているとはいえ、いくら敬愛していた隊長の亡骸を家族に届けるためとはいえ、

いまだ過去に、あのベトナムのジャングルに囚われている彼らが、その地に再び向かうなんて…。


冒頭はモハメド・アリ、アンジェラ・デイヴィス、マルコムXが登場、クラブのシーンではノリノリの4人のおじさまたちの姿が実にスパイク・リーらしいなと思い、カメラの向こう側できっとニヤニヤしているんだろうと想像しましたが、

画角を変えては“過去”に何度も立ち戻ることで、戦争の傷痕が次第に明瞭になってきます。身体にも、心にも、魂にも刻まれた傷痕です。

そんな悪夢の土地に行くのですから、あくまでもそれは序章にすぎなかったことを思い知らされます。

デルロイ・リンドー演じるポールは特に偏屈になっており、“毎晩ノーマンと話をしている”そうな…。そんな父親があまりにも心配で、ひとり息子のデビッドもついてきます。


現地の人々からすれば、ベトナム戦争ではなくて「アメリカ戦争」であること、

そして、「魂に毒が入った」というセリフの重さがずしりと胸に刺さったまま、物語はますます混沌へ、全編を貫くマービン・ゲイのごとく「What’s going on」状態へと向かいます。

パッと見はサイケデリックで『地獄の黙示録』オマージュもありますが、これほどの転調となるとは思いも寄りませんでした。アフリカ系を主人公にしたベトナム戦争映画としての価値も大きいだろうと思います。

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とりわけポール役のデルロイ・リンドーの狂気は、素晴らしかったですね。もし私に権利があるのならばアカデミー賞ものです。

そのほか、フランス俳優のジャン・レノ、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』にも出演したベトナムのスター女優ヴァン・ヴェロニカ・グゥの姿も。

『ブラック・クランズマン』のポール・ウォルター・ハウザーとヤスペル・ペーコネンも登場すれば、絶対何かやらかす!と思うでしょう。

そして、ポールの息子役ジョナサン・メジャースは、『ムーンライト』のA24とプランBが再タッグを組んだ『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(10月公開)にも主人公の親友役で出演します。

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