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お金のあるところ不正あり:内部統制の重要性:エルピクセルの横領事件


新型コロナ禍でなければもっと取り上げられていたであろうニュース(事件)がありました。エルピクセルの取締役(現在は解任されています)による巨額(33億5000万円!)横領事件です。

1. 約33億円の着服した元役員

医療画像の診断AIなどを手掛けるエルピクセル(東京都千代田区)は6月10日、同社の元取締役が業務上横領の容疑で警視庁に逮捕されたと発表した。被害額は約33億5000万円で、容疑者は主にFX取引に使ったとしている。


29億円、それとも33億5000万円?これだけ額が大きいとどちらも同じような気になるのが恐ろしいところです。
シバタさんによる解説は面白かったです(こちらの動画で私は詳細を知りました)

こちらの記事はコメント欄が面白いです。

というのも、News Picksで取り上げられる企業はベンチャー、スタートアップ系が多い気がします(勝手な思い込みかもしれませんが)。かつ、購読者層もおのずとその界隈の方々、つまりベンチャー、スタートアップ系の方々、もしくは関心のあるベンチャーキャピタリスト、何らかの形でかかわっている方がコメントされている気がします。

本件がかなりショッキングな事件として受け止められていることが分かります。エルピクセルという企業がかなり期待されたいただけに・・・残念。内部統制の制度が設けられいなかったのか?なぜ一人の人がそれだけのお金を動かすことが出来たのか?ほかのベンチャー企業も気を付ける必要がある・・・などなどです。

2.事件の概要

事件の概要について確認しておきましょう。

1. 不正行為の概要
1.1
当社元取締役(2019年12月27日付で解任)が、2017年4月から2019年1月まで、会社資金を元取締役個人名義の銀行預金口座に多数回にわたって振込送金し、横領していました。被害額は、約33億5000万円となっております。ただし、そのうち約5億9500万円については、横領行為の発覚前に元取締役が当社口座に返還しております。
1.2
本横領行為の発覚を免れるため、元取締役は該当する振込送金が記帳された当社銀行預金口座の預金通帳写しを改ざんしていました。
1.3
社内調査において任意提出された元取締役の個人預金口座通帳(写し)の一部及びFX取引(外国為替証拠金取引)の取引残高報告書により、主な費消先がFX取引であることを確認しております。
2. 当社の対応
2.1 警察対応
2019年12月20日、警視庁本富士警察署への相談を開始し、2020年1月20日、刑事告訴状が受理されております。
2.2 民事対応
2020年5月27日、本件により当社が被った損害について、元取締役に対し、賠償請求訴訟を提起いたしました。
2.3 特別調査委員会による調査
2020年1月17日、以下3名の社外有資格者による特別調査委員会を設置し、2020年2月末までに、本調査委による本件の事実関係及び損害額の解明、原因分析、再発防止提言を受けております。
委員長 上柳 敏郎 弁護士
委員 飛松 純一 弁護士
委員 髙木 明  公認会計士

約33億5000万円のうち、約5億9500万円については発覚前に返還しているとありますね。

このことから、おそらく元役員は「やばい!」とおもって慌ててお金を返したことが分かります(とはいえ、33億5000万円が総額ですからね・・・)。

事件が発覚したのは2019年12月20日より前でしょう。

おそらく社内の中でどのように処分するのか(刑事告訴するのか、内々で処分してしまうのか)が議論されたかと思います。

多分、金額として5000万円とか1億円?だったら、こうした事態にはならずに内々に済ませた可能性があります。

日本では表になっていないだけでこうした多くの着服事件があるとは推察されます。社員(しかも今回は役員!)の着服となると会社のブランドイメージに大打撃ですし、社会的な信用を失うことになりますから。

こちらにその辺りのことがまとめくれてます。

3.将来が期待されているエルピクセル

エルピクセル。詳しく知ったのは今回が初めてですが、AI画像解析、ライフイエンスに関わる分野ということで記事を見た記憶があります。

上記の記事は2017年当時ですが、この時からなにやら勢いを感じますね。まだAIブームの走りの時期だったと思いますが、この辺りから急速に加速始めた気がします。

ベンチャー企業の成長スピードはそれぞれですが、この手の分野はいかに早く開発して他の企業に先んじるか、が焦点でしょうから、旺盛に資金調達を行っていました。

2018年10月29日(月)、エルピクセル株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:島原佑基)は、オリンパス株式会社、富士フイルム株式会社、CYBERDYNE株式会社等を引受先とする第三者割当増資により、総額約30億円の資金調達を実施しました。
【資金調達 参加事業会社昇順】
・ オリンパス株式会社
・ CYBERDYNE株式会社
・ テクマトリックス株式会社
・ 富士フイルム株式会社
【資金調達 参加ベンチャーキャピタル他昇順】
・ SBIインベストメント株式会社
・ CEJキャピタル株式会社(CYBERDYNE株式会社子会社)
・ 株式会社ジャフコ

エルピクセルは人工知能を活用した医療画像診断支援技術「EIRL(エイル)」を中心とする画像診断支援・画像解析ソフトウェア開発に力を入れているベンチャー企業で、上場も視野に入れていたはずです。

AI分野において近年発展が著しいのは画像診断です。そう考えると、資金調達に参加した企業も、将来エルピクセルの持っている技術を活かした商品開発を行おう!と意欲が高かったと思われます。

またこうした開発も行っていたようですね。


2020年5月13日に掲載された総合科学ジャーナルNature誌の記事内で、当社の製品である科学論文の不正画像自動検出システム「ImaChek (イマチェック)」が取り上げられました。出版社の科学論文査読において、学術雑誌出版社とソフトウェア会社が共同し「不正画像」検出に向けた試みが進められていることが紹介されています。記事によると、20,000を超える生命科学論文を調査した結果、約4%の論文に画像の不備が見つかったと報告されています
エルピクセルでは、創業当初より「研究公正」に向き合い、科学論文に含まれる画像の改ざんや使い回しを検出するシステムを開発してまいりました。引き続き、発表前の科学論文における品質向上と信頼性担保に貢献してまいります。

研究公正に向き合っているはずの企業が、自社から横領者を出してしまうという何ともシャレにならないことになりました。

外向けにこうしたオートメーション型、AIによる自動判定システムを導入していながら、自社内の不正、お金のチェックについては杜撰であったことが分かります。

シバタさんがyoutube内でも指摘されていましたが、「この方は、社内でも相当信用されていた人に違いない」といってましたが、そうなんだろうと思います。

しかしながら、相手を信用しているからといって30億ものお金に穴をあける行為は・・・いただけません。といいますが、これだけのお金を内部チェックする仕組みがなかったことに驚きを隠せません。

*担当の銀行員がなんでこれに気づかないの?というツッコミはありますけど(慎重にみていたら気づくはずでは・・・と、私も思います)。

4.内部統制の重要性

今回の件は、FXの運用穴埋めに使ったようですが、こうした損失の穴埋めで思い出されるのが大和銀行の巨額損失隠ぺい事件ですね。

この件、性質は異なりますが、資金管理を任されていたひとによる犯行、という点においては共通しています。

たとえ、会社の役員であってもお金の管理を自由にさせるようなことをしては駄目です。

ここまで30億円近い(以上?)の着服ということでしょうから、かなり以前から行っていたのではないか、と推察されます(どういった手法で行ったのかは謎ですが)。

95年7月、大和銀行ニューヨーク支店で巨額損失が発覚した。ニューヨーク支店のトレーダーで証券売買の管理責任者だった井口俊英氏が大和銀行の上層部に手紙を送り告白したことから明らかになった。巨額損失を10年にわたって隠蔽し、損失の穴埋めのために保有する有価証券を簿外で、無断売却していた。損失は米国政府への罰金の支払いを含めて14億4000万ドル(当時の為替レートで1440億円)に膨らんだ。突然の知らせに、銀行上層部は事件が公にならないよう隠蔽し、発覚の先送りを図った。大蔵省(当時)には報告したが、米連邦準備制度理事会(FRB)に報告したのは、その6週間後。監督当局としてメンツをつぶされた格好のFRBは、大和銀行に3年間の業務停止処分を科し、米国から追放した。大蔵省に報告しておけば事足りると考えた国際感覚のなさが致命傷となった。安部川氏は責任を取って会長を辞任、公職からも退いた。

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2017/09/post_20712_2.html
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危ういと感じているのはベンチャー企業バブルという状態もあって、過剰に資金が集まってきている、ことです。それ自体は大変良いこと、と思います。一方で、預かったお金に対してしっかりとした管理をすることが大事です。自社のサービス・商品の開発に力を注ぎすぎて、そうしたことが見落とされがちだと思います。

そもそもベンチャー企業の中には、採算度外視で資金援助をもらいながら行うケースもあります。特にエルピクセルのように研究開発投資が命、という会社においてはとかくお金がかかります(お金のかからないベンチャーもありますけど)。それだけに社内に多くのお金、資金があった状態だったのであろうと思います。

前に進むばかりではなく、しっかりと資金管理をする仕組みを整える必要があります。

出資者からの資金は、研究開発に使うお金であって、その使途については厳格に定められて使うべきもの、です。アカウンタビリティを意識した資金の管理と行動が求められていたはずです。

これは私たち研究者にとっても自戒すべきことですね。使ったお金を形式的に報告すればよい、というだけでなく、緊張感をもって使う。ちゃんと成果に結びつける形で使う。

そのことをもっと意識しないといけない、と感じた事件です。

5.問われる経営者の姿勢

エルピクセルのトップページには企業理念ともいうべきものが掲げられていいます。

社会、そして仕事に誠実であること。
個々のアイデンティティやニーズ、スペシャリティに
対するリスペクトをし、高め合おう。

私も同感です。今、エルピクセルが行わなければならないことは何でしょうか?

まず今回の被害が、出資者にも甚大なものをもたらしたということ、さらには出資側の会社の株主にも被害をもたらす事件である、という自覚が必要でしょう。

・ オリンパス株式会社
・ CYBERDYNE株式会社
・ テクマトリックス株式会社
・ 富士フイルム株式会社

30億を出資している企業はいずれも株式会社です。

こうした株主にも間接的な被害をもたらした事件です。

個人的には社長自ら本件について説明する必要があると感じています。これは刑事事件になっているため難しい点もあるのかもしれませんが・・・。

何か社長自ら説明してくれないとスッキリしないというか、不信感が増すというかそんな気持ちになりますね。

いずれにしても今回の事件が、ベンチャー企業界隈に与えた影響は大きいと思います。出資する側も出資を受ける側も、今一度、アカウンタビリティ(説明責任)を意識した行動が求められていると感じます。





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