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高齢者の働かない権利は確保されるのか?~軽視される退職金問題~

前回までのnoteで

経営者にとって退職金は功労報酬である一方、従業員にとって退職金は賃金後払、生活保障の原資であるというお話をしました。

不幸にもこの認識のギャップが、経営者に資金を保全するという動機づけを低くすることに繋がっています。

とはいえ、あまり退職金問題あまり盛り上がっている気がしません。

それはなぜでしょうか?なぜ、保全されていない企業が多いにも関わらずそれが問題視されないんでしょうか?その理由には雇用が関係しているのではないでしょうか?そのことを読み解いていきたいと思います。

1.退職金と定年延長

労働人口の減少問題に対応すべく、65歳までの雇用確保義務(全企業適用は2025年から)や、政府が「70歳まで働き続けられる環境の確保」が進んでいます。

そこで隠れた?問題となってくるのが退職金の問題です。

2020年1月8日、厚生労働省は、高齢者の希望次第で70歳まで働くことができる制度を整えることに関して、2021年4月から企業の努力義務にすることを決定しています。

2020年2月4日に政府は、『70歳までの就業機会確保を企業の努力義務』とする、高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定しました。

この改正は、定年の65歳への引上げを義務付けるものではありません。

とさりげなく注意書きが書いています。

この辺りが如何にも・・・という感じです。


2. 公的年金の状況:2019年度の財政検証を読み解く

なぜこうしたことが検討され、進められているのでしょうか?人手不足の問題はありますが、公的年金の老後保障の機能が低下してきていることがあります。

公的年金の所得代替率は下がってきています。

公的年金もらえる、もらえない?という事に不安を感じている人も多いと思います。まず厚生労働省が出している財政検証の結果を確認していきましょいう。

なお、現役世代の手取り収入に対する年金額の割合である「所得代替率」は何がなんでも50%は維持していこうという事が前提になっています。そのことを少し頭にいれながら見て頂けると分かりやすいと思います。


財政検証は、厚生年金保険法及び国民年金法の規定により、少なくとも5年ごとに、国民年金及び厚生年金の財政の現況及び見通しの作成、いわゆる財政検証を実施してます。

財政検証の前提条件です。

前回の財政検証と同様に、経済成長と労働参加が進むケースでは、マクロ経済スライド調整後も所得代替率50%を確保
※ 経済前提は、前回よりも控えめに設定(実質賃金上昇率 前回:2.3% ~ 0.7% → 今回:1.6% ~ 0.4%)
※ 労働供給は、前回よりも労働参加が進む前提(就業率 前回:2030年推計:58.4% → 今回:2040年推計:60.9%)[労働参加が進むケース]

マクロ経済スライドって?という方はこちらをご参照ください。

財政検証結果

こちらの結果をみてもらっても分かるように、現状の制度では、いずれのシナリオにおいても50%維持できるかは瀬戸際です。

さらに試算結果の中で注目すべきはここですね。いわゆる労働参加に関する話、です。

財政検証オプション


「保険料の拠出期間の延長」といった制度改正や「受給開始時期の繰下げ選が年金の給付水準を確保する上でプラスであることを確認

当たり前のことですが、年金の支給開始を遅らせれば遅らせるほど、年金の所得代替率は上がります

支給開始年齢を75歳まで拡大、ということも試算されてます。

え・・・・私そんなに働きたくない涙

ともあれ、全体の方向としては70歳さらには75歳まで働くこと、を前提に制度が設計される可能性がある、ということが注目点でしょう。


3. 退職金制度の再設計問題

近年、社会問題となっている少子高齢化とそれに伴う労働人口の減少。そうした中で、を検討し始めるなど、「定年延長」への動きが進んでいます。

その場合、退職金制度の再設計も当然必要になります。

まだこれから、ということもあり、個々の制度設計の事例は分かりません。労使でどういった合意に基づいて再設計していくか、ということは個々の企業、労使で決められるので外部からは分かりにくなっています。

今は再雇用というの多くなってますよね(私の職場も含めて)?

平成25年4月1日に施行された高年齢者雇用安定法の影響です。

急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、平成25年4月1日から施行されます。


【集計結果の主なポイント】で特に重要なところだけ。

65歳までの高年齢者雇用確保措置のある企業の状況は、

雇用確保措置のある企業は計156,607社、99.8%[0.1ポイント増加]

となっています。

 65歳定年企業の状況については、
 65歳定年企業は25,217社[1,382社増加]、16.1%[0.8ポイント増加](14ページ表5)
  ・中小企業では23,685社[1,229社増加]、16.8%[0.7ポイント増加]、
  ・大企業では1,532社[153社増加]、9.4%[0.9ポイント増加]Ⅱ 66歳以上働ける企業の状況

 66歳以上働ける制度のある企業の状況については、
   66歳以上働ける制度のある企業は43,259社、割合は27.6%(15ページ表6)
   ・中小企業では39,699社、28.2%、
   ・大企業では3,560社、21.8%

  70歳以上働ける制度のある企業の状況については
   70歳以上働ける制度のある企業は40,515社[5,239社増加]、割合は25.8%[3.2ポイント増加](15ページ表7)
   ・中小企業では37,232社[4,453社増加]、26.5%[3.1ポイント増加]
   ・大企業では3,283社[786社増加]、20.1%[4.7ポイント増加]

70歳以上働けるという環境を整備し始めている企業も多いこと、さらに高年齢者雇用確保措置について、ほとんどの企業が整備していることが分かります。退職金の資金保全とは全く異なる傾向ですね。


4. 雇用と退職金はトレードオフ関係になっている?

再雇用制度は整っているのに退職金制度の資金確保はなんでこんなに進んでないの?

それが私が抱いている最大の疑問の1つです。

これは私の仮説ですが・・・

日本の従業員があまり強く退職金を主張しない背景には、雇用が関係しています。

再雇用も含めた雇用を確保する代わりに、退職金は確保しなくてもよい、もしくはそれに対して強く言わない、という事が暗黙の労使関係の文化になっているのではないでしょうか?

なお、正規雇用者に対して優遇する一方で、派遣労働者の割合も増えています。正規雇用者は雇用上の恩恵は受けられます(再雇用など)一方で、派遣労働者は受けられないことは忘れてはならないでしょう。

*私の職場でもこの傾向にあります。

再雇用制度は経営者にとって安い労働力の確保というメリットがあります。

一方で、従業員は給料が大幅に減額されても慣れた職場で働きたい!というメリットがあります。

時に雇用を優先して、賃金、退職金が犠牲にされるということはしばしば行われてきました(退職金の支給額もバブル崩壊後に減額されました)。

つまり、雇用が何より優先される文化にあるといえます。

これは賃金でも同様です。欧米では元の給与水準を維持するために、レイオフ(解雇)が実施されますが、労働者全体に痛みを分け合う、ということがしばしば行われます。

もちろん、日本では、リストラもありましたが、欧米のようなレイオフは日本ではそれほど多くないと思います(この辺りは私の検討課題とさせてください)。

私は高齢者が働かない権利も確保されるべきだと思います。そのために退職金制度を整備する、資金を確保することを義務化して、安定した老後保障の一環となるようにすべきと考えています。もちろん、前払いで支払ってしまうなら、それもよいと思います。


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