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お茶ビジネスについて考えてみる


1.コロナ禍で新茶、一番茶が最盛期を迎えた

4~5月といえば、新茶シーズン!ということで、静岡ではあちこちでお茶の販売が行われていて、新茶のいい香りを楽しむことができます。

しかしながら・・・今年はコロナ禍における自粛の中で、新茶を十分に楽しむことが出来なかったですね。普段、特に4月下旬からGWぐらいであちこちで新茶の販売もやっているのが静岡のいつものパターンでしたから、その期間中に完全にステイホーム状態になっていたのは大きく響きました。

荒茶の生産量において2019年度1位の静岡、2位の鹿児島、ともに厳しい状況であることがニュースから分かります。いくら生産しても需要がなければ価格は下がっていきます。

 鹿児島の一番茶が最盛期を迎えている。今年は照りがない(色乗りが悪い)などの品質的なことと、それ以上に消費地で新茶セールが行えないため、茶価は昨年より2割安で推移している(4月23日現在)。平均価格は早くも1000円台に突入しており、例年通りの新茶セールができていれば「今も2000円台を維持していたはず」とみる茶商は多い。


 摘み取りのピークを迎える4月下旬から5月上旬は雨不足と気温の低さで新芽の成長が抑制された。5月1日の八十八夜など、書き入れ時の大型連休は、新型コロナ感染拡大に伴う外出自粛や小売店の長期休業で「消費地からの注文は昨年の半分から7割程度」(静岡市内の製茶問屋)。価格が下がる前に、質の高い新茶を出荷しようと、摘み取り作業を急いだことも減産につながったとみられる。

コロナ禍においては、スーパーマーケットに多くの人が押しかけ、いわゆる密な状況ができてしまったことが話題になりました。ステイホームで、お茶を楽しむ人はいなかったの?となりますが、需要は鈍かったようです。

食料品とは異なり、お茶は嗜好品の1つです(私は毎日飲みますが)。ですから、何が何でもお茶を調達しよう、新茶飲もうというマインドにはならなかったことが分かります。

そもそも静岡市内のお茶の販売店さんの多くが自粛要請に伴いお店を開けることが出来なかった(そもそも自粛要請で静岡市街の人通りもほとんどない状況であった)わけなので、販売チャネルが限られてしまいます。直販ルートを持っていた方は別とは思われますが、新茶の販売が相当厳しくなったことは想像に難くありません。

ちなみにお茶の種類については以下をご参照いただければ。


一番茶(いわゆるその年に最初に収穫されるお茶)が一番価格が高くなり、収益を確保できます。なので、一番茶が不振であったということはお茶農家の存続にかかわるような重大な事態です。

こちら静岡茶市場が公表している一番茶の総評です。平均単価も低く、前年比と比べて下がっていることが分かります。

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㈱静岡茶市場 一番茶総評 https://chaichiba.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/05/1souhyouR2.pdfより

2.顕著な静岡茶の衰退

最近のデータを集めれば集めるほど、お茶処である静岡茶の状況が大変よくない数値が集まってしまいます。

こちら日経ビジネスの記事です。静岡茶市場社長の内田さんが静岡県の荒茶の生産量が低下、茶価も低下という事態に陥っていることを語ってくれています。

生産減少も茶価低迷の概要
静岡県では2019年、荒茶の生産量が過去最低となるにもかかわらず、相場が低調という異常事態が起こった。ペットボトル入りなど液体で売る緑茶飲料が普及する中で、急須で淹れる茶葉の需要が縮小。5月の新茶商戦も10連休で水を差された。規模が大きく量産に適した鹿児島県の追い上げもあり、日本一の茶どころは危機にひんしている。
静岡県では2019年、荒茶生産量が過去最低となる中で、相場も低調という異常事態に直面しました。荒茶とは、茶畑から摘んだ直後に加工した半製品のことですが、春先の冷え込みや雨不足によって、芽の伸びが抑えられたことで生産が落ち込みました。生産量が少なければ、価格は上がるはずですが、そうした動きにならないのは需要の縮小が原因です。
ティーバッグも含めた茶葉から淹(い)れるリーフ茶の需要は低迷しています。総務省の家計調査を見ても、1世帯当たりの消費量は、07年に1038gだったのを最後に、1kgをずっと割り込んでいます。さらに18年は798gと、800gすら割り込みました。うちの推計では19年の上半期は前年よりも減っていて、過去最低を更新する可能性もでてきています。

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公益財団法人 鹿児島県茶業会議所http://www.ocha-kagoshima.jp/data/volume.html

このように荒茶の生産量において鹿児島県と静岡県はかなり接近していることが分かります。

 農林水産省が20日発表した2019年茶の生産統計によると、静岡県の荒茶生産量は、前年比12%減の2万9500トンと1951年以降で初めて3万トンを割り込んだ。全国シェアは2ポイント低下して39%に縮小し、2番目に多い37%の鹿児島県に2ポイント差にまで迫られた。
 主産地11府県の生産量は6%減の7万6500トン。鹿児島は横ばいの2万8千トン、三重5%減の5910トン、宮崎8%減の3510トンと全国的に減産だった。
 茶期別でみると、本県は一番茶が13%減の1万1千トンと落ち込んだ。19年シーズンは春先の冷え込みと降雨不足で生育が抑えられた。相場もリーフ茶需要の低迷から過去最低水準で推移し、茶農家の生産意欲が高まらなかった。
 静岡県の年間摘採面積は5%減の3万800ヘクタール。生産者の高齢化、後継者不足から、減少が続いている。

そもそも茶業は後継者不足に悩まされていて、生産量も下がってきています。え、それって鹿児島県も同じ状況じゃないの?といわれそうですが・・・

こちらの記事でも書かれていますように立地的な問題、さらに小規模のお茶農家が多く、大規模化、効率化が遅れており、利益率が低い状況にあります。

次にこちらのデータを見てみましょう。農林水産省がまとめてくれた資料です。一番茶が稼ぎ頭!という話をしましたが、茶価で一番茶と二番茶、三番茶で大きな開きがあることが分かります。

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では、お茶の消費・需要の動向はどうでしょうか?このように1世帯当たりの緑茶の消費量は右肩下がりです。緑茶・茶飲料の年間消費支出額は横ばいで、微減という感じですが、急速にペットボトル入り緑茶に置き換わっていることが分かります。

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農林水産省「茶をめぐる情勢」https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/pdf/cha_meguji_h2805.pdf平成28年5月


3.静岡茶に打開策はあるのか?

こちらの資料には静岡県経済産業部が取りまとめた茶業振興基本計画の推進フローがあります。私がここで書くまでもなく現状の課題はすでに認識されています。

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茶業振興基本計画の推進フロー(要旨)
<流通・消費> 「静岡茶」の新たな需要創出と消費拡大
<生産・製造> 未来を担う茶業経営体の育成
<文化・学術> 魅力あふれる茶文化の創造と世界への発信

https://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-340/documents/h26-29shinkokihonkeikaku.pdf


静岡茶においては新しい需要創出と消費拡大が必要であり、仮に需要が創出されたとしてもそれに応じる供給体制がなければならない。つまり、茶業の事業承継ならびに新しい経営形態を模索する必要がある。さらには、お茶文化の静岡ということを県内外だけでなく世界にもPRする。

課題はすでに洗い出されています。問題はそれをどう具体化するか、です。

あたらしい取り組みも始まっています。

私は茶業の専門家でもありませんし、少しだけ関わっている研究者に過ぎません。もう少しこの件は時間をかけて調査しなければならないところですが、おそらくこうしたことが問題点ではないか、ということをあえて挙げてみます。

①利益率をあげることを考える必要がある。

 鹿児島との対比でも分かるように大規模化が遅れている静岡において、生産性、いわゆる効率性が低いことが問題視されています。利益率をあげる具体策を考える必要があります。利益率をあげるためには、一般的には、大規模化して、固定費を低下させるか、付加価値をあげる、のどちらかしかありません。いわゆるROAの分解式による要素分析ですね。

利益/総資産(利益率)=売上/総資産(効率性)×利益/売上(利益率)

売上あたりの利幅をあげるか、総資産辺りの売り上げをあげるか。このどちらかしかないでしょう。いわゆる高付加価値か、薄利多売か、ですね。いずれにせよ、しっかりとしたコスト管理が必須です。帳簿をつけ、自分たちがどれだけのコストを使って生産をしているかを把握する必要があります。これがまだできていない状況なのに奇策に打って出るというのは危ないです。もちろん、マーケティング戦略は大事です。ですが、まずは足下の確認はしたのでしょうか?まずは現状の把握が必要と思います。自分たちでできなければ、他の人の助力を仰いででもやるべきだと思います。

②質、生産量の安定は必須

たとえ、6次産業化していても、販路の開拓やマーケティングに一生懸命になり過ぎて、生産物の質が低下してしまっては元も子もありません。もちろん、薄利多売で行く、としても最低限のクオリティはあるでしょうし、可能であれば、質と量のある程度両立させることが望ましいといえます。そもそも、生産量が安定していなければ、茶業の経営は成り立ちません。6次産業化でしばしば聞く失敗は、販売しなければならない農作物の生産量、質が安定せずに(ほかのことに注力しすぎて)、挫折することです。

③海外の販路はオプションで考えた方がいい。

国の政策的な後押しもあり、海外の販路へのお誘いはあると思います。国際的な規格・認証(GAP・HACCP)をとり、海外への輸出を加速させようという話です。こうした国際規格・認証を意識しておくことは販売機会の創出という点でも望ましいと思います。

ただ、やはり主戦場は日本国内の市場である、と考えるべきでしょう。というのも、他国での商売をする、ということはそう簡単なことではなく、時間のかかることです。商習慣が異なるなかで儲けをだすことがどれだけ大変か・・・想像してみてください。

海外に活路をという行動は分からなくないですが、国内でも魅力を伝えきれていない商品が海外でも売れるかどうか?国内市場を補えるほどであるかどうか?もちろん、相乗効果もありますから、海外販売は日本での商品の魅力作りにも繋がるので、やれるならばやった方がいいとは思います。ただし、国内の販売に支障をきたすようであれば、まずは国内での販路の拡大を考えた方がいいでしょう(そもそも、コロナ禍で動きが取りづらい状況かもしれませんが)。個人的には安易な海外進出の誘いには乗らない方がいいと考えています。


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https://www.maff.go.jp/hokkaido/suishin/28kankyouhozen/attach/pdf/gap_event-18.pdf


4.株価と業績を伸ばしている伊藤園

私は静岡茶を愛飲していますし、ダイレクト(インターネットショッピング)で某お茶農家さんからお茶を購入しています(スーパーのお茶は飲めなくなりました笑)。質のいいお茶が好きですね。とはいえ、毎日飲むお茶にそんなにお金はかけられないので、ご飯の時に飲むお茶はやや安価なものを、ここぞという時にいいお茶を、という使い分けをしています。

今回は触れなかったですが、お茶の全体の消費量はペッドボトルと合わせらればこの10年で横這い(正確には微減)です。つまり、この間、ペッドボトルに需要が取られてしまった形になっています。この間、ペッドボトル飲料メーカー(伊藤園)は業績を伸ばしているのを知っているでしょうか?

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こちらは伊藤園の株価です。株価は一時期低迷していましたが、2012年から急激に伸びています。伊藤園はほぼ主力がいわゆる緑茶ペッドボトルです。飲料用ペッドボトルが多様化する中で検討し、株価を伸ばしています。

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伊藤園の有価証券報告書です。売上高を少しずつ伸ばしていること、利益も伸びていることが分かると思います。大企業だから・・・・ということはありますが、コカ・コーラの伊右衛門などの強力なライバルがいる中で健闘しているといえるでしょう。この辺りはまた触れていきたいと思います。

各企業が鎬を削って努力をしている中で抜本的な改革をしなければ、自分たちのマーケットは容赦なく奪われます。これが市場の原理です。厳しい環境にある中でも活路を見出していく。その姿勢が問われています。


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