数の攻めマニュアル 第4章 数の攻めのコツ

(第1章はこちら
(第2章はこちら
(第3章はこちら

◆本章では、数の攻めを成功させるためのコツをいくつかご紹介します。

1,一点集中する


数の攻めは、2枚以上の駒の協力が大事です。
攻める駒の数だけ多くても、協力しなければ成功しません。

1図は竜、馬、歩の3枚の攻め駒があります。
上手の守りは金2枚です。

攻め駒の数は十分ですので、今から数の攻めを…と思いきや、
意外とうまくいきません。
1図で、
(1)▲7二竜は△同金
(2)▲6一馬は△同金
(3)▲6三歩成は△同金
でいずれも失敗します。

1図でなぜ数の攻めがうまくいかないのか。
理由は、「攻め駒がすべて違うマスを狙っているから」です。
1図の攻め駒の利きを確認してみましょう。

ご覧の通り、
・竜は6二や7二
・馬は6一
・歩は6三
と、それぞれ別のマスを狙っています。
矢印の向きが見事にバラバラですね。
これではうまくいきません。

そこで、一つのアイディアは1図で▲6五馬(2図)と引く手です。

こうすれば、馬と歩で協力して、6三のマスから7二の金を狙うことができます。2図で上手が△9四歩と突けば、▲6三歩成(3図)と成ることができます。

3図で上手が△同金と取れば、▲同馬(4図)で数の攻めが成功です。

2,遠くから利く駒に注意する


数の攻めを行う際は、相手の守り駒の利きに気を付けてください。
特に、飛車や角など、遠くから利く駒は要注意です。

5図では▲6二と(6図)と攻めれば数の攻めが成功しそうに見えます。

しかし、よく見ると…

遠く1七に後手の馬がいました。
よって△同馬(7図)と取られて失敗です。

これ、指導対局ではよくある光景です。
角や馬の利きは見落としがちです。
(かなり強い人でも見落とすことがありますので、
もしやってしまっても落ち込まないで大丈夫です。
少しずつ慣れていきましょう)

改めて5図を確認しましょう。

6二のマスは「2対2」でした。

そこで、5図での技をご紹介しましょう。
▲2六歩(8図)と打つのです。

こうすれば馬の利きが止まり、6二のマスは「2対1」になります。
これなら、次の下手の手番で▲6二と、と指せるようになります。

(8図の▲2六歩に△同馬はもちろん▲同竜です)
(この▲2六歩のように、「2対2」の場面で数の攻めを成功させる方法は先の章で詳しく解説する予定です)

3,弱い駒から攻めるのが基本


数の攻めは、自分の駒をお互いの駒が利いているマスに動かして始めるため、「最初に取られてから取り返す」のが基本です。
そのため、最初に取られる駒は弱い駒、価値の低い駒の方が良いでしょう。

9図では、6二のマスを竜+と金で攻めようとしています。
この場合はと金から攻める▲6二と(10図)が正解です。

以下、△同金▲同竜(11図)で「と金」と「金」の交換になり、攻めが成功です。

では9図に戻ります。

9図で▲6二竜(12図)と攻めるとどうなるか。

以下△同金▲同と(13図)となります。

13図、確かにこれでも守りの金をはがすことができました。
しかし「竜と金の交換」で大きな駒損なので、成功したとは言えません。

成功した11図と、そうではない13図を比べてみてください。
竜が残っている11図の方が明らかに得です。

4,最後まで取り切ることが大切


数の攻めは「取られてから取り返す」のが基本ですから、
いったんあるマスを数の攻めで攻めたら、最後まで取り切ることが大切です。

14図は、飛車+馬+持ち駒の金で攻めている局面です。
上手の守りは玉と金です。
飛車と馬が協力して攻められるマスは…

そう、5三です。
現在「2対2」ですから、持ち駒の金を使えば「3対2」になります。
よって14図では▲5三金(15図)が好手です。

持ち駒の金を加え、5三のマスを「3対2」で攻めています。
以下、△同金(16図)と取った手に対して、

▲同馬(17図)で数の攻めが成功です。

※▲同角成に代えて▲同飛成も正解

この手順は、こんな意味があります。
(1)最初に金を取られた(△5三同金)
(2)次に金を取り返した(▲5三同馬)

次に失敗例を解説しましょう。

再掲16図は、上手が△5三同金と金を取った局面です。
ここで5三の金を取り返さずに▲6一飛成(18図)と王手したとします。

これも玉を狙った王手なのですが、
この場合は△6二金(19図)と打たれてしまいます。

19図では、
(1)▲6二同竜は△同玉で失敗
(2)▲5三馬も△同玉で失敗
です。

今回失敗してしまった理由は、
「先に金を取られたにもかかわらず、
 金を取り返さずに別の手を指してしまった」
です。

数の攻めを行う時は、
最後まで駒を取り切ることが大切です。

(※昨日はここまでの公開でした。本日は残りを書きましたので公開します)

5,成駒は引いて使う


上手の金や銀をはがすには、成駒(本マニュアルでは、と金、成香、成桂、成銀のことです)の活躍が欠かせません。
そこで、この成駒をうまく使うために、成駒の「場所による働きの違い」を確認します。

(杏は成香、圭は成桂です)

20図はと金、成桂、成香の利きを比べています。
右端のと金は、6か所に利きがあります。
しかし、真ん中の成桂は、一段目にいるため、3か所しか利きがありません。
左端の成香は盤の隅なので、なんと2か所にしか利きがありません。

同じ動きの駒でも、その場所によって働きが大きく変わるのです。
20図を見ればわかる通り、成駒は「一段目」よりも「二段目」の方が、働きが良いです。

さらに言えば、「二段目」よりも「三段目」の方が、
多くの場合、使いやすいです。

21図は、竜+と金で攻めている局面です。
平手と駒落ちを含め、守りの金や銀は多くの場合、「一段目」「二段目」「三段目」のいずれかに配置されます。
6筋の〇印のいずれかに金や銀が1枚配置されていると考えると、
4三の位置のと金なら、
(1)6一の駒には▲5二と
(2)6二の駒には▲5二と、あるいは▲5三と
(3)6三の駒には▲5三と
で、いずれも一手指すだけでその駒を狙うことができます。

22図はと金が二段目のケースです。
この場合は、6一や6二に金か銀がいれば、
「▲5一と」あるいは「▲5二と」の一手で狙うことができます。
しかし、6三の金や銀を狙うのは、一手ではできません。

23図は、と金が一段目にいるケースです。
この場合、6一にいる金や銀に対しては、
▲5一と、の一手で狙うことはできます。
しかし、6二にいる金や銀を狙うのは、一手ではできません。
さらに、6三にいる金や銀を狙うのは…大変そうですね。

以上、成駒の位置が、
「一段目よりも二段目」「二段目よりも三段目」という理由が、
なんとなくお分かりいただけたかと思います。

上記の予備知識をもとに、具体的に考えてみましょう。

24図は、竜+と金で攻めている局面です。
玉の守りは、金が2枚斜めに配置されており、
防御力が高い形の一つです。
この金の形で守りが強いのは、6二のマスです。

6二のマスは両方の金が守っており、「2対2」です。

私は指導対局で上手のこの形をよく使います。
すると、多くの下手は▲6一と(25図)と攻めてきます。

一見、と金が玉に近づいているので良い手に見えます。

しかし、これは上手の罠にハマっています。
玉には近づいたものの、このと金は身動きが取れないのです!
(次に▲6二とは△同金引、▲7一とは△同玉と取られる)

6一のと金は、次に進める「6二」か「7一」のいずれも守りが強く、取られてしまいます。

24図に戻りましょう。

そこで24図では▲5三と(26図)と引き、5三のマスから金を狙うのが好手です。

5三のマスなら「2対1」で攻めることができますので、
26図は数の攻めが成立しています。
26図で△同金なら▲同竜で成功ですし、
△7三金寄と逃げられても、「三段目」のと金は使いやすいのです。

成駒は、引いて使うのがセオリーです。
ただし、一段目に成駒を動かすこともあるでしょう。
そんな時も、「一段目から二段目に引いて使う」を心がけてください。

6,成駒は「下から」よりも「横から」


前項と関連した内容です。
成駒をどの方向で使うのが良いのか、考えてみます。

右側から順番に、以下の3つのパターンを考えます。
(A)金を上から攻める
(B)金を横から攻める
(C)金を下から攻める

一番良いのは、金を上から使うケースです。
この場合、2三のと金で守りの金を攻める際に、
「1二」「2二」「3二」の3か所から狙うことが可能です。
次に金を横から攻めるケース。
これは「6二」「6三」の2か所から狙うことが可能です。
最後に、金を下から攻めるケース。
これは「9六」の1か所のみです。
これは、成駒の性能をあまり生かしているとは言えず、損な使い方です。

特に駒落ちの場合は、
(A)の上から攻めるケースは少ないので、
(B)の横から攻める、が基本になります。

それでは、28図を例として考えてみます。

28図は竜+と金で攻めている局面です。
玉の守りは金が2枚あります。
こうした場面で、よくある失敗例は、▲7一と(29図)と寄る攻め方です。

29図、上手が△同金と取れば▲同竜で成功ですが、
△8二金(30図)と逃げられた時にどうするか。

7二の守りはとても堅い(金+金+玉)ので、
ここでは8一から金を攻めることになります。
30図で▲8一と、と攻めれば、上手は△7二金寄(31図)とかわします。

31図で、下手が数の攻めをできるのは、7一のマスからです。
よって、▲7一と(32図)と攻めます…あれ?

32図は、よく見たら少し前の29図と同じ局面です。
つまり、「と金で攻める→金を逃げる→と金で攻める→金を逃げる」の繰り返しなのです。
これが、金を下から攻める典型的な失敗例です。

それでは、28図に戻りましょう。

先ほどは金を「下から」攻めて失敗したので、
今度は「横から」攻めてみます。
28図では▲6二と(33図)が好手です。

33図、△同金は▲同竜で下手成功なので、
上手は△8二金と逃げます。
そこで▲5三竜(34図)ともう一つの金に狙いをつけます。

34図で上手が△9五歩と突けば、
▲6三と(35図)と攻めます。

35図以下△同金に▲同竜(36図)で数の攻めが成功しました。

以上、金を「横から」攻める感覚を参考にしてもらえたらと思います。

第4章は以上です。
第5章「逃げられた後の考え方」に続きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?